大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

社会福祉法人が授産事業によって形成させた内部留保金に関する事例

2016年(平成28年)2月25日

  1. 検討の対象
     ① 授産事業として製袋事業を実施していた社会福祉法人が内部に留保している剰余金の保持が、厚生労働省が定める処理基準ないし処理基準の趣旨に照らし、許されず、利用者に賃金として支払われるべきものであるか。
     ② 当該金員が利用者に賃金として支払われず内部留保されていることが利用者の人権を侵害しているか。
  2. 結論
     ア 警告(社会福祉法人に対して)
       社会福祉法人は、当該法人における会計処理を授産施設会計基準から就労支援事業会計処理基準へ移行した平成22年度(2010年度)以降、次期繰越活動収支差額の名目で管理している金5487万5279円につき、利用者に対し工賃として支払われないまま内部留保されていることは重大な人権侵害に該当するので、これに対し、適切な措置をとるよう警告する。
     イ 勧告(社会福祉法人に対して)
       厚生労働大臣が定めた「就労支援の事業の会計処理の基準」(平成25年1月15日付厚生労働省社会・援護局長通知(社援発0115第1号添付)を遵守し、適切な会計監査及び運営監視体制の構築など再発防止の措置を講じるとともに、今後、利用者の人格を尊重し、適正な工賃支払を行うよう勧告する。
     ウ 勧告(箕面市に対して)
     (ア)アに記載した次期繰越活動収支差額名目の金員につき、社会福祉法人が利用者に対し、工賃として適切に支払われていない事態を解消するよう指導監督し、
     (イ)社会福祉法人において、今後、利用者の経済的虐待の再発が生じないよう実効的な指導監督を行い、
     (ウ)市による指導監督が、障がい者の虐待防止及び自立支援に関する専門的知識にもとづき適切に行われるよう、市において、これらの職務に携わる人材の資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう勧告する。
  3. 理由
      障がい者の一般就労を目指した活動に取り組む授産施設は、障がい者の自活を目的として、可能な限り、障がい者が施設利用によって、自立した生活を送ることができるよう必要な保護を実施すべく設置された施設である(身体障害者福祉法第1条、第2条、精神薄弱者福祉法第2条、第21条の6参照)。
      そして、授産事業、就業支援事業を実施する法人における工賃の支払いに関して、事業収入から原材料費、光熱費、運搬費等必要最小限の事業費を控除した金額は、金額工賃として作業員に支払うこと(以下「工賃支払いの原則」)とされており、かかる授産施設措置の目的、存在意義に鑑みれば、授産施設の事業による収入から原材料費、光熱費、運搬費等事業に必要な経費を控除した金額は、全額利用者に工賃として支払われるべきである。
      したがって、会計処理上許容される積立金を覗き、当該剰余金、とりわけ次期繰越活動収支差額名目で管理されている金5487万5279円を繰越金として保有し続けることは許されず、工賃支払いの基準に違反に従った工賃を支払わないで剰余金を生じさせて内部留保する行為は、障がい者がその権利・利益を自力で護ることが困難であること、授産施設設置者等は障がい者の権利を擁護し、支援する立場にあることも考慮すると、授産施設や就労継続支援B型事業の利用者は、工賃支払いの原則に則った適正な金額の支払いを求めることができる権利を保有しており、これを侵害するものである。
      あわせて、箕面市は、社会福祉法人に改善指導等を行い、その会計処理について、同法人の決算修正を確認した際、当該剰余金8535万301円は、授産施設会計処置基準等にもとづいて適正に積み立てられた「その他の積立金」に該当せず、翌年度以降の積立金に組み入れる処理は認められないにもかかわらず、これに対し、適切な指導等を行っていない。
      この間、社会福祉法人において、当時の利用者の記録が廃棄された可能性もあり、分配不可能な範囲を拡大させ、利用者の権利を侵害した可能性があり、監督・指導機関として、極めて不適切な対応だといわざるを得ない。   以上の理由から、上記(2)のとおり、警告乃至勧告を行うこととした。

社会福祉法人が授産事業によって形成させた内部留保金に関する事例

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