大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

裸眼視力が矯正を必要とする被収容者に対し、自弁のコンタクトレンズと眼鏡の併用を認めるよう勧告した事例

2022年(令和4年)8月17日

【執行の概要】

1 適切に視力の矯正を行った上で日常生活を営む権利は、個人として尊重され、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の実現にとって不可欠であり、それは受刑者においても同様である。刑事収容施設法第42条第1項も、「刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合を除き」眼鏡その他の矯正器具は自弁のものを使用させると定めており、かかる権利の制約が許されるのは、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上、必要性、合理性のある場合に限られなければならない。

2 申立人は、裸眼視力が左右とも0.02で、刑務所に収容される前の社会生活においては、補正器具として主としてコンタクトレンズ(1日使い捨てタイプ)を使用し、眼の不調時等には眼鏡を使用するなどして、コンタクトレンズと眼鏡を併用していた。
大阪刑務所は、自弁のものを使用させることになっている「眼鏡その他の補正器具」について、被収容者にコンタクトレンズ又は眼鏡のいずれかの選択を認める一方、いずれかの使用を許可すれば、通常、被収容者が補正器具を使用する必要性は充足されるとして、申立人に対し自弁による他の補正器具の使用を許可しなかった。
一般に、強い近視や遠視の場合は、眼鏡では矯正しきれないので、コンタクトレンズの選択が推奨されている。また、近視や遠視の度数の差が左右の目で大きい場合も、眼鏡では物の大きさが違って見えることがあるので、コンタクトレンズの選択が推奨されている。
コンタクトレンズで視力矯正を行っていた申立人にとって、眼鏡との併用が認められなければ、コンタクトレンズを外した時、主に夜間にトイレを利用する等一定距離の移動が必要となる場合や、不測の事故等が発生して急ぎ避難しなければならない場合に、コンタクトレンズの装用ができないか、事実上著しく困難となり、視力矯正されていない裸眼の状態で行動せざるを得ず、転倒等による怪我のおそれや、適切な避難行動をとることができないおそれがある。

3 コンタクトレンズと眼鏡の併用が、刑務所の管理運営上支障を生ずるおそれはなく、適切な視力矯正のために、申立人がコンタクトレンズと眼鏡を併用する必要性があることを考慮すると、申立人に対し、コンタクトレンズと眼鏡の併用を認めないことに、必要性も合理的な理由も認められない。
したがって、いずれか1点のみの使用しか認めない大阪刑務所の運用は、刑事収容施設法第42条第1項に違反し、憲法第13条及び第25条が保障する視力の矯正を適切に行った上で日常生活を営む権利を侵害するものであると判断し、上記のとおり勧告した。

裸眼視力が矯正を必要とする被収容者に対し、自弁のコンタクトレンズと眼鏡の併用を認めるよう勧告した事例

ページトップへ
ページトップへ