表題は,民事訴訟法の大家・三ヶ月章先生(元東京大学名誉教授)の1983年のエッセイの題名です。

 当時受験生だった私が何気なく買った「法律論文の考え方・書き方」(有斐閣)の最後に載っていました(三ヶ月章「民事訴訟法研究第8巻」に「雑録」として収録されています)。

 

 今では信じられないことですが,昭和17年当時は,東大(帝大)法学部に入学すると,最初に「ローマ法」を学んだそうです。

 そこで優秀な成績を収めた三ヶ月先生には,今の価値で数十万円の奨学金が与えられることになったのですが,そのかわり,ローマ法についての論文を書くという「対価」が課せられました。

 法学部入学のわずか半年後にローマ法の論文を書くということなどは想像もつかないことですが,三ヶ月先生は,1年をかけて,「契約法に於ける形式主義とその崩壊の史的研究」という論文を書き上げたのです(「民事訴訟法研究第5巻」に収録)。

 しかも,そのレベルは中途半端なものではなく,今でも時々引用される,価値のある興味深い論文です。

 

 旧制の大学法学部は3年間でしたが,当時は戦時下で半分の1年半に短縮されていました。

2015年6月23日 (火)

五分の勝ち

武田信玄の格言に,「軍勝は五分を以て上となし,七分を以て中となし,十分を以て下となす」というものがあります。5分,つまり半分の勝ちは励みになり,7分の勝ちは怠ける気持ちを生み,10分の勝ちは驕りを生じるから,というものです。

 

少し理由は違いますが,私も,紛争の解決にとっても,こちらの言い分が100パーセント通った場合,嬉しいこともありますが,勝ちすぎてしまって困ったな,と思うこともあります。

贅沢な悩みに思えるかもしれませんが,勝ちすぎてしまったために,紛争が解決しないということがあるからです。

 

例えば一審の裁判所で,こちらの期待以上に勝つということは,多くの場合,先方は想定よりひどく負けるということであり,控訴されてしまい,解決が長引くことになってしまいます。

あるいは,判決に至る理由の部分でも,こちらが少し「きつめ」に言った事柄を裁判所がそのまま採用してしまいますと,やはり控訴に繋がったり,控訴はされなくても恨みが残り別の紛争を生んだりすることがあります。

 

2015年3月26日 (木)

なおす

たぶん小学校4年生くらいのころ,毎月楽しみにしていた学研の「学習」に,こんな話が載っていました。

 

娘「おかあちゃん,しょう油がないで」

母「そうか,隣の田中さんところ行ってかってきて」 

  

田中さんのところで

    

娘「田中のおばちゃん,おしょう油ください。いくらですか?」

田中「うちはお店じゃないからおしょう油は売ってないよ。でも,貸してあげるから,テーブルの上にあるのを持って行き。」

 

方言についての話です。ポイントは,お母さんが言った「かってきて」というのが,関西弁では「借りてきて」という意味であるという点です。ちなみに,「買ってきて」は,「こうてきて」ということになります。

 

関西以外で生まれた私は,へえそうか,と思いました。「買って」を「こうて」というのは知っていましたが,「借りて」を「かって」というのは,このときに初めて知りました。しかし,大学生になって関西に住み始めても,この意味の「かって」を耳にすることはなかなかありませんでした。

 

2015年2月16日 (月)

沈黙の弁護士

 少し前,あるバラエティ番組に出演したタレントが,同じ番組に出演している弁護士に番組前に家庭内のことを相談したら番組内ですぐにネタにされた,という苦情を言っていました。本当にそういうことがあったのであれば,この弁護士の行為は,弁護士が守るべき守秘義務に違反する可能性がある,問題行為です。

 

 私はこの番組のこの話は,その「守秘義務違反行為」自体が「ネタ」であろうと,いくつかの根拠から思っています。誤解を生むからこういうネタはやめてほしいなあとは思いますが,そういうことを言い出しますと,弁護士が出て来るドラマで家族に相談したり飲み屋の大将に相談したりってこともやめてほしいってことになりますので仕方ないところです(あんなこと,弁護士は絶対にしません。家族にだって話しません)。

 社会の耳目を集める刑事事件では,身体拘束されている被疑者や被告人の弁護人になった弁護士が,記者会見などでコメントを出すこともあります。面会で聞いた話を,被疑者・被告人の了解を得ずにリリースしますと,守秘義務違反です。

 

きょうの私の話は,弁護士としてというより,あるいは弁護士としてとともに,法科大学院の教員としてのPRです。

 

今月末から,主催・法科大学院協会,共催・日本弁護士連合会による,
「今,なぜロースクールで学ぶのか」が全国各地で開催されます。
10月25日(土)13時からの明治大学駿河台キャンパスでの開催が皮切りです。
関西では,11月30日(日)13時30分から京都大学吉田本部キャンパス(法経第4教室)で,京都にある法科大学院が中心になって開催されます。

また,12月13日(土)午後には,大阪弁護士会館を使い,こちらは大阪府下の法科大学院が中心になって開催されます。

兵庫県でも開催が予定されており,日程などが今後決まると思います。

 

法曹(裁判官,検察官,弁護士)になろうという希望者の全体に減少傾向がみられます。また,法曹になりたいと思っている人にも,予備試験経由を目指す人が増え,法科大学院を敬遠する傾向があります。
そういう皆さんに,法曹の魅力を伝えるとともに,「法科大学院で学ぶこと」の意味を伝えるための催しです。