平成28年12月16日判決について

 

 普通乗用自動車を運転していたAさんが赤信号を無視したとして起訴された事案で,1審裁判所は9000円の罰金刑を言い渡しましたが,大阪高等裁判所では,公訴棄却の判決を言い渡しました。

 判決が認定した事実は概ね次のとおりです。

 

  Aさんは,赤信号無視を見ていた警察官からその指摘を受けたが,黄色信号だったとして違反の事実を認めず,対面信号が赤信号であったことを示す車載カメラの映像を見せて欲しいと求めたが,警察官からはそのようなものはないと拒否されたので,交通反則告知書の受領を拒んだ。その後,検察官の取調べにおいて車載カメラの映像を見ることができて事実関係を認め,交通反則通告制度の適用を希望したが,起訴されてしまった。

 交通反則告知書とは,“反則切符”とか“青切符”などと呼ばれる書類のことです。道路交通法130条は,反則金納付の通告をしないと起訴できないとしていますが,交通反則告知書の受領を拒むなどした場合は起訴できると定めています。

 判決は,車載カメラの映像があったのに,ないと言って映像を提示しなかった警察官の対応を「甚だ不誠実というほかない」としたうえで,「被告人が,交通反則告知書の受領を拒んだのは,警察官らの上記のような不誠実な対応がその一因をなしている」から,本件が交通反則告知書による告知ができなかったというのは「被告人に対して酷であり,信義に反する」として,道路交通法に定める告知ができなかったときに当たらないとし,検察官の起訴は,道路交通法130条に掲げられた手続を行わずにしたもので,無効であるとしました。

 形式的に事実を当てはめた判断ではなく,実態に即した事実を認定した上でなされた至極真っ当な判断というべきもので,まさに血の通った判決といえます。

 

判決は,Aさんが警察官にカメラ映像の見せるよう求めたことを「格別不当なことではない」としていて,被疑者・被告人を単なる捜査の対象=客体として見るのではなく,刑事手続の当事者=主体と見ていることが窺われ,その点でも高く評価されるべきと思います。結論ありきのつまみ食い的に事実を認定して有罪判決を言い渡す事件も散見される中では特異で際立って見えてしまうのも残念ですが,今後もこのような判決が増えてくれること強く望みます。

納得!

中原先生ご指摘のとおり血の通った判決のようです。実態に即した判断には納得感があるといえますが、弁護人の活動は、その実態を、当時の息づかいまでわかるように裁判所に伝えることにあると改めて思いました。

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