弁護士の放課後 ほな行こか~(^o^)丿 http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113 ja けがれを隠す雪原に、六価クロムの花が咲く。 http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2279 <p>東京臨海の工場跡地をマンション開発することになった。マンションの建築は順調に進んだ。竣工間近となったある寒い日の夜、東京では雪が降った。ロマンチックに降る雪は、珍しく朝になっても地面一面を白く覆っていた。純白の雪を踏みしめながらマンション建築現場にやってきた所長が見たものは、一面真っ黄色に染まった雪だった・・・</p> <p>&nbsp;</p> <p>築地市場の豊洲移転の話題を聞いて思い出しました。この話は、私がちょうど21世紀になった頃、当時勤務していた建設会社の上司から聞かされた「噂話」です。六価クロムで汚染された土壌の上に雪が積もった場合、その雪が実際に黄色く染まるのかもわかりません。しかし、2000年代初頭には既に、工場跡地や射撃場等の土壌汚染が、このような噂話が出る程度には問題視され、建設関連各社は汚染土壌対策工事の開発に力を注いでいました。私が噂話を聞かされたのも、私自身がちょうど土壌汚染対策工法のプロポーザル業務を依頼されたからでした。</p> <p>&nbsp;</p> <p>汚染土壌の対策工事は、各社様々工夫はありますが、大きく分けて4種類です。<br /> 一つ目は、汚染物質が地下水に溶け、かつ自ら追い出された場合には気体となる物質(揮発性有機化合物、VOC)の場合。金魚鉢に入れるブクブクのような空気を送り込む装置を汚染土壌の下部に埋め込み、地下水をブクブクします。すると、地下水から汚染物質が追い出され、地面の中から大気中に逃げていきます。これにより、土壌内の汚染物質の濃度は下がります。適用物質が限られますし、完全除去は困難です。<br /> 二つ目は汚染物質が地下水に溶ける場合。揮発性物質か否かは問いません。汚染された地下水ごと吸い上げて反対側から綺麗な水を入れます。汚染土壌の上流から水を注ぎ込み、下流で水を回収することにより、汚染土壌をすすぎ洗いするイメージです。これも適用物質が限られますし、完全除去は困難です。<br /> この一つ目と二つ目は、汚染土壌と言うより、汚染地下水の浄化方法です。<br /> 三つ目と四つ目は土壌自体に対する対策で、重金属をはじめとしたどんな汚染物質にでも適用可能なのですが・・・これは技術と言えるのか?と当時は少々驚きました。<br /> その三つ目は置換工法と呼ばれます。汚染された土壌をダンプで搬出し、どこかに捨てます。そして、綺麗な土壌をどこかからか持ってきて入れ替えるのです。当然、対策できる範囲は限られています。<br /> そして四つ目は封鎖工法。汚染土壌にコンクリートや綺麗な土壌で蓋をしてしまう(横から漏れないように、土中に壁も作ります)。臭いものには蓋、にすぎません。しかも、その蓋がいつまでも健全とは限りません。</p> <p>&nbsp;</p> <p>私はこの4種類の工法を知って、要するに、汚染土壌の対策というのは大変困難なのだと理解しました。せいぜい、法律上の基準値以下に下げる程度のことしか出来ないと。だから、出来るだけ対策をしつつ、多少汚染されていても(管理に失敗しても)問題が生じないような用途に用いるべきだ、と。</p> <p>&nbsp;</p> <p>ですので、後に築地市場の豊洲移転の基本計画を知ったとき、耳を疑ったものです。なぜ、よりにもよって東京の台所を汚染土壌の直上に持っていく?老朽化する築地市場の移転先として、広大な敷地を確保する難しさはわかるが、なぜよりによってそこに移転するのだ、と。</p> <p>現在、報道では盛り土の有る無しが問題になっていますが、正直そんなことは、安全性の面からは、どうでも良いです(こんなことを書くと有識者の先生方には怒られそうですが、盛り土で蓋をするのも、空洞にして計測・換気・排水による継続的管理を行うのも、対策の効果としては似たようなものです)。政治的責任を誰が取るべきかなんてのも二の次。問題は、そんな継続的管理が必要な場所に東京の台所を移転すること自体の危険性です。</p> <p>&nbsp;</p> <p>当然のことながら、私ごときが想像するような危険性も含め、豊洲移転の危険性についての専門家の検討はこれまで大変な時間と費用をかけて行われてきました。しかし、その検討の中には、「移転不可」という選択肢はあったのでしょうか。<br /> 豊洲市場の土壌汚染対策は、ざっくり言えば上記の二つ目から四つ目の方法の複合技です(一つ目が行われたかは私の情報不足のため不明です)。二つ目のための施設である大がかりな「地下水管理システム」は、豊洲市場の供用後も稼動を続けます(そのため維持費も高額です)。盛り土や遮蔽コンクリート、おそらくは設置される換気装置等も土壌汚染対策の施設と言っていいでしょう。<br /> 豊洲市場は、これらすべての施設が設計通りに稼動すること、及び汚染物質が理論通りの挙動を示すことが前提で安全性が検討されています。しかし、このような前提が簡単に崩れ去ることは、福島第一原発、田老町の防潮堤等で、我々は何度も経験してきました。今回も東京の台所の食の安全という、極めて重要な案件ですから、前提が崩れることを前提として豊洲移転を再度検討しなければならないと私は考えます。</p> http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2279#comments あれこれ Mon, 19 Sep 2016 23:41:57 +0000 046663 2279 at http://www.osakaben.or.jp/blog 民泊の光と影 http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2244 <p>■最近民泊が話題として随分持ち上げられており,メディアで目にする機会も多くなりました。AirBnBという民泊仲介サイトが日本でも認知されてきたことも一因でしょうか。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■「民泊」とは法律上の用語ではありません。もともとは民家に泊まること全般を指すことばです。しかし,最近よく話題になる民泊は,自分の所有物件または賃借物件に,不特定多数の第三者を宿泊させて宿泊料を得る行為のことです。普通に賃貸するより単価が高いのですが,これまでは宿泊客の募集が難しく,稼働率を上げにくいのが難点でした。しかし,AirBnBをはじめとする民泊仲介サイトの台頭と,民泊そのものが認知されてきたこと,外国人観光客の増加により宿泊施設が慢性的に不足していること等の要因から,最近は稼働率を上げることが容易になり,大きな利益を上げることが出来るようになったのです(ちなみに,民泊経営者に言わせれば,ここ半年ほどで民泊参入者が急増し,一番稼げた時期の峠は越えてしまっているそうです)。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■民泊のプラス面は以下の様な項目が挙げられます。<br /> (1)宿泊施設不足対策<br />  近年の外国人観光客の急増と東京オリンピック特需で,今後宿泊施設が不足することは間違い有りません。一方,東京オリンピック特需は2020年までで,その後需要は減少しますから,ホテルを乱立させると、オリンピック後にホテルが倒産するおそれがあり,安易にホテルを増やすのは得策ではないのです。<br /> (2)民泊ならではの宿泊体験<br />  AirBnBのキャッチフレーズは「現地のホストのお家に宿泊して、191カ国以上で暮らすように旅しよう」です。日常生活感のある宿泊施設を喜ぶ外国人観光客は多いはずです。また,ホームステイ型民泊というのもあります。民泊経営者が同じ建物内や敷地内に居住しており,手料理などでもてなすのです。昔あった「田舎に泊まろう」というテレビ番組みたいですね。<br /> (3)空き家の有効活用<br />  近年,住宅の供給過剰と人口減少で空き家が急増しています。管理されない空き家は朽ちていくし売れません。マンションは所有しているだけで毎月管理費と修繕積立金の支払い義務が発生しますので,空き家で置いておくとお荷物でしかないのです。もし民泊施設として貸し出せれば,管理費と修繕積立金を支払うことができ,管理組合に迷惑を掛けることもありません。<br /> (4)不動産市場の活性化<br />  最近,民泊営業目的での不動産購入が増加しているそうです。海外資本(特に中国人富裕層)も流入してきており,民泊には不動産市場を活性化させる機能もあるといえます。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■一方,民泊のマイナス面は以下の様な項目が挙げられます。<br /> (1)近隣との摩擦<br />  騒音、共用部でのゴミのポイ捨て、宿泊客との生活習慣の違い、旅行客であるが故の活動時間帯のズレ、入居者が毎日代わる(旅の恥はかきすて)などの要因で,近隣との摩擦が懸念されます。マンションの一室が民泊に供される場合はなおのことです。現に,最近このような法律相談が増えています。<br /> (2)犯罪の舞台になりうる<br />  殺人・傷害・薬物使用,盗撮等。<br /> (3)セキュリティの弱体化<br />  宿泊客がエントランスの暗証番号を知ったり,日替わりの宿泊客がエントランスの鍵を持つことにより,共用部のセキュリティはないに等しくなります。<br /> (4)治安の悪化<br /> (5)他の住民の管理費にフリーライド<br />  大量のゴミ捨てや不特定多数人による共用部の利用が行われると,他の住民の監理費にフリーライドしているのではないかとみられ,住民感情が悪化していきます。</p> <p>&nbsp;</p> <p>このように,民泊には良い面と悪い面があります。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■この民泊という行為,原則として旅館業法違反です。適法に行うためには,旅館業法上の許可を取るか(簡易宿所というカテゴリーで許可を取ることが多い),国家戦略特別区域法と所謂民泊条例に基づき自治体の認定を受けるかのいずれかを行う必要があります。大阪府は既に条例が施行されており,大阪市も条例は制定済みで,現在施行待ちです。しかし,これらの許可・認定はそれなりにハードルが高く,現実には多くの民泊施設が違法に営業しているのが実態です。<br />  この違法状態はこれまで黙認されてきましたが,最近は旅館業法違反として京都や大阪でも検挙例が出てきました。また,大阪では民泊行為差止の仮処分決定が出た例もあります。これらのニュースが流れると,AirBnBの登録件数の伸びが鈍るという興味深いデータもあります。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■ビジネスチャンスになるのは当然民泊推進側です。自分でも民泊をやってみたい,と思われる方は,ネットで検索すれば,指南のHPが沢山でてきますので,そちらをご覧ください。<br />  私が懸念しているのは,民泊のために良好な住環境が破壊されることです。特にマンションでは,たった一室が民泊サービスを行うことにより,マンション全体の住環境が影響を受けることになります。<br />  身を守るために,マンション管理規約で民泊の明示的禁止を規定すべきです。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■マンション管理規約の改正<br />  マンション標準管理規約のままでは民泊を禁止できないのでしょうか。<br />  マンション標準管理規約の第12条では,「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」と規定されています。この「住宅」の中に民泊用途が含まれるのかが問題となります。<br />  これについて,石井啓一国土交通大臣は,民泊を実施するためには第12条の変更が必要」と述べたのですが,後に撤回。その理由は,国家戦略特区ワーキンググループの有識者が,第12条の変更は不要だと見解を表明したからです。現在,政府の公定解釈は出ていない状況です。<br />  有識者曰く,民泊促進の邪魔をするなということでしょう。法律家の目から見て,国家戦略特区ワーキンググループの見解にはかなり無理があり,民泊実施のためには第12条の変更が必要だと考えますが,念のため,明示で禁止しておくに超したことはありません。<br />  管理規約の変更のためには,管理組合の集会の特別決議(組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の議決)を経る必要があります。こちらもハードルが高いため,しっかり話し合い,合意形成を行うことが必要です。しっかり根回しして,一発で決議を通してください。管理会社によっては,すでに管理規約の変更を提案し,実際に変更が行われている管理組合も多いそうです。<br />  また,管理組合が民泊を容認することにしたとしても,民泊のルールは管理組合で作っておくべきです。ゴミは民泊営業者が独自に処分することを求めたり,民泊営業者に対しては管理費の割り増しや協力金の負担等をもとめるなども考えられるでしょう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■旅館業法や民泊条例も今後は規制緩和の方向と聞いています。また,来年には,民泊新法が出来る予定です。新法では,部屋を宿泊施設としてではなく,住宅として貸し出すスキームを取っており,許可を取るためのハードルは大幅に下がると予想されます。新法が施行されてから対策していては遅い可能性があります。<br />  民泊にはプラス面とマイナス面があることを理解した上で,自分のマンションでの民泊可否をどうすべきか,管理組合でよく話し合い,早期に管理規約の改正を行うことをお勧めします。</p> http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2244#comments 法律問題 Tue, 19 Jul 2016 00:31:44 +0000 046663 2244 at http://www.osakaben.or.jp/blog 「和解」「勝訴」「無罪」・・・ワインの名前です。 http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2098 <p>「自宅がかしわら?ああ、奈良から通勤大変ね!」<br /> 御約束のように言われますが、違います。それは橿原神宮で有名な奈良県橿原(かしはら)市です。私のおうちは大阪府の柏原(かしわら)市です(*1)。<br /> 次に来るのが、「柏原ってなにがあるの?」です。昔の私はいつも言葉に詰まりました。何があるのだろう。右を見ても左を見てもブドウ畑しかない。私のおうちの周りは延々ブドウ畑です(*2)。「じゃあ、ブドウ好きなんだ?」すみません、あまり好きじゃないんです。色とか形とかはとても好き(*3)なんですが、食べ物としてはあんまり。<br /> しかし私も大人になり、酒の味も多少分かるようになりました。今なら迷わず言える。「柏原にはワインがあります。」</p> <p>&nbsp;</p> <p>ここで表題のワインですが、大阪弁護士協同組合が、つい先日、柏原の老舗ワイナリーであるカタシモワイナリー(カタシモワインフード(株))さんにお願いして作ってもらったワインだそうです。「和解」がスパークリング。「勝訴」は赤。「無罪」は白。ネーミングセンスはさておき(*4)、弁護士会と地元の馴染みのワイナリーのコラボレーションを、とてもうれしく思いました。<br /> カタシモワイナリーさんは、建築業界でもちょっと有名です。ここの貯蔵庫の建物が国の登録有形文化財になっているのです。大正時代に作られたこの貯蔵庫は、コンクリートに調湿用の炭を埋め込んだり、井戸からくみ上げた地下水による空調を行うなど、ブドウの貯蔵のための工夫が凝らされた建造物です。貯蔵庫の2階にはとても雰囲気の良いテイスティングルームがあり、ワイナリー見学(要予約)に行くとそこでワインを味わうこともできます。歴史的建造物とワイン、どちらも時間が熟成させるもの。お好きな方は是非柏原にいらしてください。<br /> カタシモワイナリーの名前を知らなくても、この<a href="http://www.kashiwara-wine.com/product/product_hiyashiame.html">ひやしあめ</a>には見覚えがあるのでは。ちなみにカタシモワイナリーさんのワインで私が好きなのは、「合名山」の白です。</p> <p>&nbsp;</p> <p>*1) 裁判所で「柏原」と言えば、神戸地裁柏原支部があります。こちらの読み方は(かいばら)です。</p> <p>*2) マンホール蓋もブドウです。</p> <p><img alt="" src="/blog/sites/default/files/u113/thumb_thumb_dcf00076.jpg" /></p> <p>*3) 柏原市さん、私は柏原マイスターのバッジが欲しくてたまりません(ぶどうの形でとてもかわいい)。<br /> *4) 大阪府建築士会のヘリテージマネージャーの会合でこのワインの名称を紹介したところ、ネーミングセンス云々ではなく、「なぜ和解がロゼではないのか」という話題になりました。</p> http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2098#comments あれこれ Wed, 03 Feb 2016 15:57:39 +0000 046663 2098 at http://www.osakaben.or.jp/blog 横浜市都筑区のマンションが傾いていた件 http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2046 <p>横浜市都筑区に建築され,平成18年に分譲されたマンションが傾いたので,その原因を調査した結果,基礎杭の数本が支持層に届いていないことと判明したことが連日ニュースを賑わせています。<br /> &nbsp;</p> <p>このマンションはMR社が分譲,MS建設が元請(及び杭の設計),AK社が(二次)下請で杭の製作と施工を行っています。報道ではAK社の責任を問う声ばかりが聞こえますが,マンション所有者に対してまず責任を負うのは売買契約の相手方であるMR社です。MR社はマンションの構造耐力上主要な部分について買主に対し引渡から10年の瑕疵担保責任を負っており,この責任に基づき修補や損害賠償の義務を負います。これは,MR社に落ち度があるという意味ではありません。(現時点で判明している事実関係からは)今回MR社に落ち度は無く,非難される立場にはありませんが,瑕疵担保責任というのは無過失責任であり,買主の保護のため責任は負います。<br /> &nbsp;</p> <p>一方,AK社は買主に対して契約上の責任は負いませんが,不法行為責任を負う可能性が大きいです。MS建設については現段階では何も言えません。ともあれ,この問題に関係している会社はどの会社も大企業であるため,信頼を完全に回復できるだけの誠実な対応が期待できるだろうと私は考えています。以下,私まで寄せられたいくつかの御質問や取材についてご紹介します。<br /> &nbsp;</p> <p> ■マンションは今後建て替えられるのか<br /> 現在判明している事実関係からはなんとも言えません。MR社の信頼問題もありますし,建て替えになっても不思議ではありません。<br /> ただ,建て替えとなれば,技術的にも法律的にも問題があります。<br /> 技術的には,長さの足りない杭を抜いた部分には再度既製杭を打ち込むことが難しいこと。そのため,既製杭を採用する必要があるなら,違う位置に杭を打ち直す必要が生じ,それに伴い建物の平面計画を変更する必要があること。<br /> 法律的には,建て替えに区分所有法上の管理組合総会での特別決議が必要となるが,違う棟の組合員の動向次第ではこの特別決議が得られなくなるおそれがあること。<br /> つまり,簡単に建て替えるというわけにはいかないと考えます。<br /> 特に,管理組合の総会決議については,建て替えに限らず,今後事あるごとにハードルとなるでしょう。業者側の弁護士が優秀なら,このハードルを最大限利用するでしょう。住民としてはこのハードルに負けないように,冷静に意見の統一を図らなくてはなりません。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■補修は可能なのか<br /> 大規模な工事になりますが,補助となる杭を打ったり,下から支えるアンダーピニングという工法など,適用が考えられる工法は複数あります。ですので,補修は可能と考えます。ただし,もちろん現地の状況次第です。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■風評被害の心配は?<br /> 補修により対応された場合,建物の評価額は下がらないのか。下がった評価額は損害として賠償の対象になるのか。評価額は下がるはずです。買う方の立場になれば分かります。ではこれが損害賠償の対象になるかと言えば,これは具体的事案によります。補修により損害は十分填補されたとする裁判例も沢山あり,当然に損害賠償の対象となるとはいえません。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■建築確認を通した行政に問題は無いのか?<br /> 今回の問題を行政が見抜くことは不可能です。計測データそのものの改ざんを行政が見抜こうとすれば,行政が自らボーリング調査等を行う必要がありますが,費用・労力の面でそれは無理です。マンションの価格が大幅に上がっても良いなら可能ですが。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■杭が支持層に届いているのかをチェックする手段はあるのか。それは手軽か。<br /> 杭本体を叩いて振動の伝播を確認する方法や,杭の近くに縦穴を掘り,そこから超音波で杭の位置を確認する方法等複数あります。しかし,いずれも下準備が大変で,片っ端から全数検査するのは難しいものです。現実には,傾き等の症状が現れてはじめて疑わしい箇所の検査を試みるのでしょう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■一部の杭の長さが足りない場合,建物に必ず問題が発生するか<br /> 実は,杭の支持力は設計上かなりの余裕を持たせてあります。そのため,許されることではありませんが,一部の杭の長さが足りなくても,実際に問題が生じるとは限りません。データを偽装した担当者の頭にもこれがあったのかもしれません。<br /> 計算上,杭の支持力にかなりの余裕を持たせるには理由があります。土の物性はばらつきが大きい,これがその理由です。データの偽装を許すためではありません。</p> <p>&nbsp;</p> <p>さて,この事件は,まだ事実関係が明らかではないため,評価できることは限られるのですが,私なりに今回の問題の原因推定をしてみます。</p> <p>■杭基礎<br /> 地表面が軟弱な場合,その上に建物を建てると建物が沈んだり傾いたりヒビが入ったり壊れたりするため,基礎の下にたくさんの長い杭を打ち,強固な地盤に届かせることで,まるで竹馬で立つように建物を支える基礎にします。このような杭の生えた基礎を杭基礎といいます。杭はケースバイケースで様々な材料が用いられます。鋼管やPC(プレストレストコンクリート)製の杭をハンマーや油圧で打ち込むこともありますし,現場で穴を掘って,そこに鉄筋の籠を沈め,コンクリートを流し込むことにより現地で杭を形成する場所打ち杭と呼ばれるものもあります。<br /> 今回の事件は,数本のPC製既製杭の長さが足りず,その部分が沈んでしまい,建物が傾きました。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■杭基礎の施工手順の概略<br /> 通常,PC既製杭の施工は次の手順を踏みます。<br /> (1)&nbsp;建築予定地において,均等間隔(例えば30m四方ごとに1本)でボーリング調査を行う。</p> <p>(2)&nbsp;複数のボーリング調査結果から,建築予定地の地下の地盤の状態を推定する。<br /> (3) 建物の平面計画に従い,杭の平面位置を決定する。<br /> (4) 杭の平面位置の支持層の深さから,杭の長さを決定する。<br /> (5) 構造計算を行い,杭の仕様(コンクリートの配合,杭の太さ,部材厚さ,プレストレス等)を決定する。<br /> (6) 上記(4)(5)のデータを工場に送り,工場で杭を製作する。コンクリートを硬化させる期間(養生期間)が必要なので,少なくとも製作に1週間は必要。建築現場では杭の打ち込むための重機を準備する。<br /> (7) 杭を打ち込む位置に杭よりも細い穴をドリルで地面に空ける。この際,ドリルが支持層に到達したときにドリルの回転抵抗が大きくなるため,実際に杭が打ち込まれる部分の支持層の深さを確認出来る。<br /> (8) 工場で完成し,建築現場に搬入されていた杭を,予め細い穴を空けておいた位置にセメントミルクと共に打ち込む。この際,(7)で確認した支持層の深さと,打ち込まれた杭の長さを比較し,実際に杭が支持層に到達したことを確認する。<br /> (9) 杭頭処理(杭本体と基礎コンクリートを固定するための加工)</p> <p>&nbsp;</p> <p>■どこでデータの改ざんがあったのか<br /> まだ明らかにされていませんが,これまでの情報を元にすれば恐らく,上記施工手順の(7)です。担当者は先堀の段階で支持層深さが判明したとき,工場で制作中の杭の長さでは届かない深さであることに気がつきます。この位置だけ,支持層がへこんでいたのでしょうか(横浜土丹層という支持地盤ではよくあります)。本来ならここで杭の製作について工場に変更指示を出します。しかし,工期や予算の都合から,この指示を出さず,実際の支持層の深さのデータを改ざんしたことが考えられます。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■データ改ざんの動機はどこにあるのか<br /> このデータ改ざんの動機ですが,既に書きました工期と予算の制限があります。特にバブルの崩壊後の建設工事現場は本当にシビアで,下請業者は相当の無理を押して工事を行っています。今回の杭基礎についても,支持層の不陸という不測の事態がなければ業者の想定通りの工期と予算で工事が完了したはずですが,不測の事態が発生してしまった。赤字,場合によっては工期遅延のペナルティーを負ってでも杭の製作をやり直すか,或いは数本の杭の長さ不足を隠蔽するか。(そしてこの隠蔽は運が悪くなければバレない。)私の想像では,担当者はこの選択を迫られたのではないかと考えます。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■結局,このような問題の再発を防ぐためには,何をあらためなければならないのか<br /> 表面上は,データの改ざんを行った担当技術者,それを許した所属会社のモラル欠落が今回の事件の原因です。ではこれに対してどのような対策を取るべきでしょうか。<br /> 担当技術者や企業のモラル教育?いいえ。表面的なモラル教育に効果がないことは歴史が証明しています。<br /> 建築基準法の規制強化?いいえ,手続的規制ではいつまで経ってもいたちごっこです。チェックする側に出来ることはもともと限られています。今回の問題をきっかけにインスペクター等の新しい制度の導入が議論されているようです。もちろん効果はあるはずですが,労力対効果のほどは疑問です。</p> <p>改めるべきは業界構造です。まず,マンションの場合は入居予定日との関係で工期が厳格に固定される現状は問題です。入居予定日が遅延することになれば,分譲会社はマンション購入者に補償金を払うことになり,その補償金は工事を遅延させる原因を作った業者に負担させることが基本となります。つまり,支持層の想定外の不陸といった不測の事態が発生した場合でも,その危険を業者だけに背負わせることになります。これは健全ではありません。マンション購入者を含む,関係者皆で負担すべき業界慣習を形成すべきです。</p> <p>不測の事態が発生した場合には,マンション購入者も入居予定日の遅延を受け入れるべきでしょう。そうでないと,結果的に今回のように不良品を掴まされるのはマンション購入者自身ということになります。</p> <p>利益率の低さも原因です。今回のAK社は,好んでデータ改ざんという不正を行ったわけではないはずです。ペナルティ無く杭の再発注や長さ調節が可能な業界の仕組みになっていれば,今回のような問題は起きなかったのではないでしょうか。杭工事のような,不確実性の大きな工種の場合は,例えば不測の事態に備えた見積項目を標準見積として用意するとか,不測の事態には追加工事費用を発注者や元請が負担することを標準約款で明記することなど,発注者や元請業者には予め費用負担の危険を自覚させ,下請専門業者を赤字の恐怖から救う方法をとることも,問題再発防止策であろうと思います(弁護士の間でも大きく意見が分かれています)。<br /> また,今回の問題に限って言えば,一定の支持層の不陸が観測される場合に必要なボーリング数を増加させる等の基準新設や,既設杭の長さを安価に現場で調節する技術的手段の開発など,専門家による技術的側面からの対策も練られることになるでしょう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>■まとめ</p> <p>今回のコラムは,私の想像の部分が多く,今後事実関係が明らかになるにつれて当てはまらないことも出てきます。あるいは,もっと大きな業界の腐敗が原因かも知れません。ただ,建築確認の制度を厳しくすればなくなるような事件でないことは間違いありません。正しい再発防止策をとるためにも,事件の真の原因究明が期待されます。</p> http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/2046#comments 法律問題 Tue, 20 Oct 2015 08:26:08 +0000 046663 2046 at http://www.osakaben.or.jp/blog 建築士法の改正 http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/1992 <p>平成27年6月25日より,改正建築士法が施行されました。</p> <p>ここで簡単に改正の概要をご紹介します。建築士法が対象としているのは建築士・建築士事務所ですが,契約書面交付義務や権限・義務の明確化が改正の中心となっているため,紛争を未然に防ぐためにも,今後建築主になる方に興味を持って頂ければと思います。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>(1) 設計監理契約は必ず書面で行うこと!<br /> 延面積が300㎡を超える建築物の設計又は工事監理について,書面による契約締結が義務付けられました。施工契約については既に規制があったところ,設計監理契約についてもその範囲が広げられたものです。<br /> これまで,設計監理契約にあたり契約書面の交付が必須ではなかったため,設計監理者の義務の範囲が曖昧で,トラブルの原因になることも少なくありませんでした。今後は法定の記載すべき内容を含む契約書面が交わされることにより,設計者や監理者の義務の範囲が明らかとなります。設計監理者としては法定の記載すべき内容について,意味を理解しておく必要があります。<br /> なお,核家族が居住する普通の戸建て住宅の延面積は概ね100~200㎡なので,自宅を建てる場合には書面による契約が義務付けられません。しかし,しっかりとした仕事をする事務所ならば,300㎡以下でも書面による契約をすることが多いです。これから家を建てようとお考えの方は,設計事務所選びの指標にすると良いかもしれません。</p> <p>&nbsp;</p> <p>(2) 設計監理は小規模でも丸投げ禁止<br /> 延面積が300㎡を超える建築物の新築工事について,委託者が許諾しても,設計又は監理業務の一括再委託が禁止されます。これまでも階数3以上かつ延面積1,000㎡以上の共同住宅で一括再委託が禁止されていましたが,今回の改正で規制対象の範囲が拡大されました。<br /> 規制を受けるのは元請事務所だけではありません。下請事務所が下請業務を丸投げすることも禁じられますので,ご注意ください。</p> <p>&nbsp;</p> <p>(3) 国土交通大臣の定める報酬の基準に準拠した契約締結の努力義務化<br /> 努力義務にとどまりますが,報酬額設定の標準値が定められます。もちろん,高度な仕事は単価が高くなりますが,その結果,基準から報酬額が大きく外れてしまう場合は,その理由を契約書に明記するのが安全でしょう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>(4) 設計業務等に関する損害賠償保険の契約締結の努力義務化<br /> こちらも努力義務にとどまりますが,事業者が万が一の賠償義務のために保険に加入する等の必要な措置を講ずることが求められるようになりました。</p> <p>&nbsp;</p> <p>(5) 建築士事務所の区分明示の徹底<br /> 建築士事務所の一級・二級・木造の区分を明示することか徹底されました。重要事項説明書や工事現場での確認済みの表示等では,確実に区分を明示しましょう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>(6) 管理建築士の責務の明確化<br /> 建築士事務所の最高技術責任者ともいうべき管理建築士の責務が明確化されました。これは管理建築士の権限が大きくなったと言えますが,裏返せば,トラブルが紛争化したときに,管理建築士が義務違反を問われる可能性が高くなることになります。いかなる義務があるかしっかり理解しておきましょう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>その他,情報開示の充実を目的とした建築士免許等提示義務,建築設備士の法定,暴力団排除規定の整備,建築士個人に対する国土交通大臣等の調査権の新設等の改正がなされました。<a href="http://www.kenchikushikai.or.jp/torikumi/news/2015-03-10.html">日本建築士会連合会のページ</a>で大変有用な情報提供がされていますので,ご興味ある方はぜひご覧ください。</p> http://www.osakaben.or.jp/blog/posts/113/entry/1992#comments 法律のツボ Wed, 15 Jul 2015 17:08:33 +0000 046663 1992 at http://www.osakaben.or.jp/blog