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 担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案に対する意見書

2002年(平成14年)5月1日

司法制度改革推進本部 御中

大阪弁護士会

第1 主として担保法制に関する事項
  1. 留置権

    (1) 留置権の効力(民法295条等関係)
    留置権の効力を見直し,留置権者に優先弁済権を与えるものとするかどうかについて,なお検討する。
    (意見)
    留置権の効力を見直し,留置権者に優先弁済権を与えるものとすべきであると考える。但し,優先弁済権の範囲を画する牽連性については明確な基準を設定すべきである。
    (理由)
    留置権の権利内容をどのように構成するのかという問題である。不動産留置権については優先弁済権を与え,他方,消除主義を採用して競売手続により消滅すると構成すべきである。但し,優先弁済権の範囲については抵当権等との競合の際に衡平な調整を行うため,目的物の価値の保存や増加に要した費用を限度とすべきであろう。動産留置権,特に商事留置権については優先弁済権を付与すべきである。

    (注)
    1. 留置権者に優先弁済権を与えることとする場合における,留置権と他の競合する担保権との間の優先劣後関係については,a留置権を最優先とする,b対抗力を具備した時期の先後に従うものとする等の考え方がある。
      (意見)
      aの見解に賛成する。
      (理由)
      bの見解では,そもそも,留置権と他の競合する担保権との間で対抗要件が異なるにもかかわらず(留置権は占有,抵当権は登記等),同一平面で処理が可能なのかという理論的な疑問がある。のみならず,実際にも,不動産については殆どのケースにおいて土地抵当権が留置権に優先することになり,留置権の保護に欠けることになる。

    2. 留置権者に優先弁済権を与えることとする場合には,不動産の上に存する留置権は,当該不動産に係る競売手続における売却により消滅するものとする。
      (意見)
      賛成する。
      (理由)
      優先弁済権を与える以上,留置権を存続させる必要はない。

    3. 留置権者に優先弁済権を与えることとする場合においても,留置権者にその実行としての競売の申立権を与えないこととするかどうかについては,なお検討する。
      (意見)
      競売の申立権を与えるべきものと考える。但し,事前に所有者及び他の担保権者に弁済あるいは担保提供による留置権消滅請求を行う機会を与えることを条件とする。
      (理由)
      目的物に関する法律関係の迅速な処理のために,留置権者にも競売の申立権を与えるべきである。但し,留置権者が少額の被担保債権の弁済を受けるために競売を申し立てることによって,他の担保権者の競売申立時期選択権を害するおそれがあるので,所有者及び他の担保権者に弁済か担保提供による留置権消滅請求を行う機会を競売申立の前に与えるべきである。他の担保権者が留置権消滅請求を行った場合にはその求償権について,目的物の換価の際に留置権者と同様の優先弁済権を与えるべきである。その公示方法についてはなお検討を要する。 

    (2) 商事留置権(商法521条関係)
    商事留置権は,不動産については成立しないものとする。
    (意見)
    賛成する。但し,民事留置権に倒産法上の優先権を与えることを条件とする。
    (理由)
    商事留置権は牽連性が要求されないため,被担保債権が過大になりがちである。にもかかわらず,それ以前に成立した抵当権に事実上優先することになると公平を害する。それ故,不動産については,牽連性により被担保債権を公平な範囲に限定する民事留置権に限ることには合理性がある。しかしながら,現行法上,民事留置権は破産宣告がなされると消滅し倒産手続との関係では保護されていない。そこで,倒産手続において,民事留置権が倒産手続においても優先権があたえられる等の手当がなされることを条件に賛成する。

  2. 先取特権

    (1) 雇人給料の先取特権(民法308条関係)
    民法308条の先取特権の被担保債権の種類及び範囲について,商法295条における「(会社)ト使用人トノ間ノ雇傭関係ニ基キ生ジタル債権」と同じ内容にするものとする。

    (注)
    民法308条における先取特権者の範囲についても,商法295条におけるものと同じ内容にするものとする。

    (意見)
    賛成する。

    (2) 不動産保存の先取特権(民法337条関係)
    不動産保存の先取特権の被担保債権を,裁判所が選任した鑑定人が相当と評価した保存費に限るものとするかどうかについて,なお検討する。
    (意見)
    賛成する。

    (3) 不動産工事の先取特権(民法338条関係)
    不動産工事の先取特権の効力を保存するには,工事開始前にその費用の予算額を登記しなくとも,工事完了後直ちにその費用の額を登記すれば足りるものとする。
    (意見)
    賛成する。

    (注)
    不動産工事の先取特権の実効性を高める等の観点から,その保存登記について,先取特権者が単独で申請をすることができるものとすべきであるとの意見がある。
    (意見)
    単独申請とすることには反対する。
    (理由)
    単独申請を認めることは不動産登記法の共同申請原則との関係で問題がある。また,単独申請を認めることは新たな執行妨害の手法を与えることになりかねない。共同申請とした場合に債務者の協力を得られないという問題は,仮登記仮処分等他の手続を利用して解決すべき問題であろう。

    (4) その他
    労働債権の保護等の観点から,民法の先取特権の規定に関するその他の見直しをするかどうかについては,なお検討する。

    (注)
    例えば,労働債権に係る先取特権について,その一定の範囲については,何らの公示手段も要さずに最優先の効力を認め,特定の財産の上に存する抵当権等の担保権にも優先するものとすべきであるとの意見がある。

    (意見)
    反対する。
    (理由)
    労働債権を租税債権と同様な手法で保護する提案であるが,かかる方法が認められると抵当権の効力のみならず一般債権を不当に損なうことになりかねない。

  3. 質権

    指名債権の債権質(民法363条関係)
    指名債権をもって質権の目的とする場合においては,その債権につき債権証書があるときであっても,その証書の交付を質権設定の効力発生要件とはしないものとする。
    (意見)
    賛成する。

  4. 抵当権

    (1) 不動産の収益に対する抵当権の効力等
    抵当不動産の収益に対する抵当権の効力に関する次のような点について,なお検討する。

    1. 抵当権の実行に係る手続として強制管理に類するものを設けることとする場合において,その内容をどのようなものとするか。
      (A案)
      民事執行法における強制管理と同様に,競売とは別個の,抵当権者が不動産の収益から優先弁済を受けるための手続とする。
      (B案)
      競売に付随して,差押え後売却までの間において抵当権者が不動産の収益から優先弁済を受けるための手続とする。
      (意見)
      A案に賛成する。
      (理由)
      抵当権に基づく管理制度を認めるべきである。抵当権は目的物の交換価値を優先的に把握する権利であるが,被担保債権が履行遅滞になった以降は,抵当権設定者の使用収益権は制限され,抵当権者が目的物の収益から優先的に弁済を受けることができるようにすべきである。実務上は平成1年10月27日の最高裁判所の判例以来,抵当権者の物上代位に基づく賃料債権差押がおこなわれており,賃料債権に対する抵当権者の優先権は実務上定着していると評価できる。その現状を変える必要性はない。
      しかし,物上代位に基づく賃料差押には問題点も多いので,管理制度を設け,抵当権の効果は不動産の収益にも及ぶ場合があると解する以上,それを把握するための手続を認めるべきである。また,管理制度を設けることにより執行妨害の予防という副次的効果もありうる。
      抵当権者が競売の申立てを行うことと収益を把握することを連動させる必要性はないと考える。ただし,抵当権者が長期にわたって使用収益を行う可能性もある。この点については,管理手続の存続期間に制限を設けることや不動産所有者や他の担保権者に一定期間経過後は競売申立権を認めることなどの解決策が考えられる。

    2. 当権の実行に係る手続として強制管理に類するものを設けることとする場合において,抵当権に基づく賃料に対する物上代位の在り方の見直しをする必要があるか。
      (A案)
      抵当不動産の賃料に対する物上代位は認めつつ,賃料に対する物上代位と強制管理に類する手続についての調整規定を設けることとする。
      (B案)
      抵当不動産の賃料に対する抵当権の効力については,強制管理に類する手続によってのみ実現すべきものとし,賃料に対する物上代位は認めないものとする。
      (意見)
      B案に賛成する。
      (理由)
      aにおいて物上代位の問題点を解消する手続を創設すべきとした以上それによるべきである。通常の管理方法によって管理費用も捻出できないような物件についても,管理費用削減の方法(例えば債権者による管理)を検討することによって,解決を図るべきである。
      (後注)
      不動産の賃料に対して抵当権の効力が及ぶことの当否自体についても,なお検討する。
      (意見)
      不動産の賃料に抵当権の効力が及ぶことについては妥当と考える。

    (2) 滌除(第三取得者の主導によって抵当権を消滅させる制度)
    (A案)
    滌除制度について,次のような見直しを行った上で存続させるものとする。

    1. 滌除の申出をすることができる者は,当該抵当不動産について所有権を取得した者に限るものとする(民法378条関係)。
      (注)
      抵当不動産について所有権を取得した者が滌除の申出をすることができる時期を抵当権の被担保債権の弁済期到来後に限ることとするかどうかについては,なお検討する(民法382条1項関係)。
    2. 抵当権者が滌除の申出を受けた時から[2月]以内に競売の申立てをしたときは,滌除の効果は生じないものとする(民法384条関係)。

      (注)
      1. 申立期間については,なお検討する。
      2. 滌除の申出をすることができる時期を抵当権の被担保債権の弁済期到来後に限ることとはしない場合においても,抵当権者は,被担保債権の弁済期到来の有無にかかわらず,bの競売の申立てをすることができるものとする。
      3. bの競売の申立てに係る手続において買受人が現れなかった場合においては,当該申立てを行った抵当権者は買受義務を負わないこととし,抵当権は消滅しないものとする。

    3. 抵当権者は,抵当権を実行しようとする場合において,第三取得者にその旨の通知をすることを要しないものとする(民法381条関係)。

      (後注)
      滌除制度の見直しについては,さらに次のような意見がある。
      1. 手続に対する裁判所の関与(例えば,抵当権者に対する配当手続,抵当権の抹消登記等の嘱託)を認めるべきである。
      2. 滌除の申出を受けた抵当権者について,その効果の発生を妨げる手段として,競売の申立ての他に,滌除金額を上回る額での抵当不動産の買取りの申立てを認めるべきである。

      (B案)
      滌除制度を廃止し,第三取得者の主導によって抵当権を消滅させる制度は置かないものとする。
      (意見)
      A案に賛成する。但し,a(注)については,被担保債権の弁済期の到来後に限る必要はない。また,b(注)1の申立期間としては,競売の申立ての是非について検討するために必要な期間としては原案である2ヶ月が適当であると考える。
      (理由)
      現行滌除制度に問題点が多いことについては争いがなく,B案のように滌除制度を廃止するというのも一つの考え方である。しかし,被担保債権残額が当該不動産の時価を上回る場合には,当該不動産の第三取得者の主導により抵当権を消滅させる滌除制度にも有意な点が認められるので,制度を改善して残置すべきである。そもそも,抵当権の把握する交換価値は変化するものであるから,抵当権者に対して設定当時に把握されていた価値を永続的に保証するものではなく,(被担保債権の範囲内であるとしても)その時点々々での交換価値の限度でしか保証しない。したがって,不可分性は絶対的な性格を有するものではなく,抵当権者と利害関係人との調整において抵当権者に優先すると判断される利益があれば,不可分性を前面に立て利害関係人の利益実現を制限することはできないと考える。また,抵当権が被担保債権の履行期が到来しないと実行できない権利である以上,抵当権者の換価時期選択権も債務者による債務不履行を条件に生じる事実上の便益に過ぎない。
      そこで,a,bの各注について,次のように考える。aは,抵当権者の時期選択権が事実上の便益に過ぎない以上,弁済期の到来を要件とすべきではない。bは,申立期間は抵当権者が競売申立ての是非を判断するために必要な期間として原案である2ヶ月で相当であると考える。

      (後注)
      滌除制度の見直しについては,さらに次のような意見がある。
      1. 手続に対する裁判所の関与(例えば,抵当権者に対する配当手続,抵当権の抹消登記の嘱託)を認めるべきである。
      2. 滌除の申出を受けた抵当権者について,その効果の発生を妨げる手段として,競売の申立ての他に,滌除を上回る額での抵当不動産の買取りの申立てを認めるべきである。 
        (意見)
        a,bいずれも賛成する。

    (3) 一括競売(民法389条関係)
    土地の抵当権者は,抵当権設定後に抵当地に建物が築造された場合においては,建物を抵当地とともに競売することができるものとする。但し,建物所有者が抵当地について抵当権者に対抗することができる占有権原を有するときは,この限りでないものとする。

    (注)
    抵当権設定前に抵当地に建物が築造されていた場合であっても,建物所有者が抵当地について抵当権者に対抗することができる占有権原を有しないときは,土地の抵当権者は建物を抵当地とともに競売することができることとするかどうかについては,なお検討する。
    (意見)
    賛成する。但し,(注)に記載する抵当権設定前から存在する建物で買受人に対抗できる占有権原がないものについても一括競売を認めるとすることは反対する。
    (理由)
    抵当権設定後に築造された建物との関係で一括競売を認める必要性は理解できるが,抵当権設定前から存在する建物については,土地抵当権者は事前にその存在を認識しており,たとえ,占有権限がないものであっても,設定後の建物の場合と同様の保護を土地抵当権者に与える必要があるかは疑問がある。したがって,(注)記載のこのような場合に一括競売を認めることは反対である。

    (4) 短期賃貸借(民法395条関係)
    (ア) 建物
    (A案)
    抵当権に後れる賃貸借は,その期間の長短にかかわらず,抵当権者(買受人)に対抗することができないものとする。

    (注)
    1. 抵当権の実行による抵当不動産の売却後一定の期間(例えば2月)に限り,賃借人が建物の占有を継続することができる余地を認めるものとするかどうかについては,なお検討する。
    2. 抵当権に後れる賃貸借といえども,その設定につき抵当権者の[包括的又は個別的な]同意を得ることにより,抵当権者(買受人)に対抗することができるものとするか,できるものとする場合における同意の公示の要否,方法等について,なお検討する。

    (B案)
    (B1案)
    a [2年]以内の期間の定めのある賃貸借は,抵当権に後れるものであっても,その期間内に限り,抵当権者(買受人)に対抗することができるものとする。

    (注)
    1. 抵当権に後れる期間の定めのない賃貸借は,抵当権者(買受人)に対抗することができないものとする。
    2. 対抗することができる賃貸借の期間については,なお検討する。
      b 賃貸借が抵当権者に損害を及ぼす場合には,抵当権者は,その解除を裁判所に請求することができるものとする。
      c 賃貸借が抵当権者(買受人)に対抗することができる場合においても,賃借人は,期間経過後において,引渡命令(民執法83条)の対象になるものとする。

    (B2案)
    a 抵当権に後れる賃貸借は,抵当権の実行による抵当不動産の売却後一定の期間(例えば,残期[6月])以内に限り,抵当権者(買受人)に対抗することができるものとする。

    (注)
    対抗することができる期間については,なお検討する。


    b (B1案)bと同じ。
    c (B1案)cと同じ。


    (意見)
    B2案に賛成する。但し,売却後の対抗期間は1年間とすべきである。
    (理由)
    A案は短期賃貸借制度が正常に利用されていることがほとんどないことという認識を前提とするものと推察される。しかし,賃貸マンションやオフィスビルを例に取れば,入居者やテナントとの賃貸借契約が開始されるまでに抵当権が設定されていない場合は極めて少なく,そのほとんどは短期賃貸借である。また,正常な入居者やテナントが入っているビルが不動産競売の対象となる場合も多く,不動産競売手続に現れてくる短期賃貸借のほとんどが制度を濫用したものであるという認識は正しくない。そもそも,濫用的な短期賃貸借については,民事執行手続上,正当な使用収益権として評価されることはなく,買受人に対抗しえないものとして処理される等,その実質に着目したうえで排除をするための法的な枠組みが裁判実務上形成されているということができる。
    したがって,短期賃貸借の制度が執行妨害に利用されるという事象に対処するために短期賃貸借制度に変更を加える必要性はなく,その性質に応じた執行妨害対策を充実させることにより対処すべきである。むしろ,短期賃貸借の問題は,抵当権と利用権との調整という観点から見るべきである。抵当権設定後の賃借権につき,契約上の期間の長短により,その取扱を異にする実質的な理由はない。また,395条により保護される短期賃借権に該当する場合であっても,判例理論によれば,敷金返還債務の承継は短期賃貸借の期間満了時期と競売における差押の時期の先後という偶然的事象に左右されるのは不合理である。他方,買受人の立場からすれば,承継される保証金の存否及びその額並びに明渡時期という点は重要な関心事である。
    そこで,B2案を前提に基本的スキームを策定すべきである。
    具体的には,抵当権に遅れて設定された賃借権については,その期間の長短にかかわらず,建物賃借人が賃貸借契約の交渉及び明渡準備をするための期間として,当該不動産の競落の日から1年間の占有継続を承認すべきである。

    (後注)
    1. (B1案)及び(B2案)において,買受人が敷金返還義務を承継することを否定又は制限する(例えば,賃料[2月]分相当額の範囲に限り承継されるものとする)かどうかについては,なお検討する。
    2. (B1案)及び(B2案)において,抵当権に後れる賃貸借といえども,その設定につき抵当権者の同意を得ることにより,抵当権者(買受人)に対抗することができるものとするかどうか等については,なお検討する。
    3. 何らかの指標によって建物が賃貸用物件であるか否かを区分した上,当該建物に係る抵当権に後れる賃貸借の保護の有無,程度等についてその区分に応じた取扱いをすべきであるとの意見もある。

    (意見)
    1については,賃料の10月間を限度として保証金その他の返戻金(大阪市内のテナント保証金相場10月と同期間)を認めるべきである。
    2,3については,反対する。
    (理由)
    2については,同意の範囲(包括か,個別か),性質(物権的効果を付与するのか否か),公示の要否等解決が困難な点も多く,画一的に処理すべきである。
    3についても,賃貸用物件か否かの公示には解決困難な問題点が想定されるし,賃貸用物件から自用物件に変更された場合の処理が問題となり得る。

    (イ) 土地
    抵当権に後れる賃貸借は,その期間の長短を問わず,抵当権者(買受人)に対抗することができないものとする。
    (意見)
    反対する。1年間に限り,買受人に対抗できるものとすべきである。
    (理由)
    借家人と借地人において,保護の必要性の程度に差がないと考えられるにもかかわらず,後者について一切保護しないのは合理性を欠く。借地人が賃貸借契約の交渉及び明渡準備をするための期間として,当該不動産の競落の日から1年間の占有継続を承認すべきである。

    (注)
    1. 農地・山林について,抵当権に後れる賃貸借を一定の範囲で保護することとするかどうかについては,利用の実態をふまえつつ,なお検討する。
      (意見)
      実態調査の上,積極的に検討されたい。
    2. 抵当権に後れる賃貸借といえども,その設定につき抵当権者の同意を得ることにより,抵当権者(買受人)に対抗することができるものとするかどうか等については,なお検討する。

    (5) 根抵当権
    (ア) 根抵当権者の元本確定請求
    根抵当権者は,担保すべき元本の確定を請求することができるものとする。但し,担保すべき元本が確定すべき期日の定めがある場合は,この限りでないものとする。
    (意見)
    賛成する。但し,根抵当権設定者に対する一定期間を定めた通知を要件とすべきである。また,通知が到達しない場合の手当も定めておくべきである。
    (理由)
    根抵当権の確定は,確定後の債権が担保されないことになり,根抵当権者自身が不利益を被るのであるから,根抵当権者がそれを甘受するのであれば,これを規制する必要はない。根抵当権者からの確定請求を認めるべきである。ただ,確定請求は一方的手法であるから,根抵当権設定者に対し,根抵当権者の再考を求める機会を与えるために,一定期間を定めた通知を要件とすべきである。
    また,通知が到達しない場合の手当も定めておくべきである。

    (注)
    根抵当権者の請求による元本確定の登記については,根抵当権者が単独で申請をすることができるものとすべきであるとの意見がある。

    (イ) 元本不発生に係る確定事由
    民法398条ノ20第1項1号を削除する。

    (注)
    1. 「担保スベキ債権ノ範囲ノ変更,取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ」(民法398条ノ20第1項1号)は,担保すべき元本の確定事由にはならないものとする。
    2. 根抵当権設定者は,根抵当権設定の時から3年を経過しないときであっても,例えば「担保スベキ債権ノ範囲ノ変更,取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ」(民法398条ノ20第1項1号)には,担保すべき元本の確定を請求することができるものとするかどうかについては,なお検討する。

    (意見)
    賛成する。
    (理由)
    実務では,「取引の終了」に該当するか否か明確な基準を欠くため,判断を躊躇することが多い。取引の終了に該当するか否かについて個別的な基準を設ける方法も考えられるが,取引の終了は個々の事案毎に実態を以て判断せざるを得ない場合も多く,該当事由を限定列挙したとしても処理に窮する事態が想定される。そこで,取引の終了を法で明確化することは諦め,当事者に委ねるべきである。

    (6) その他
    抵当権の実効性の向上等の観点から,民法の抵当権の規定に関するその他の見直しをするかどうかについては,なお検討する。

    (注)
    例えば,抵当権の簡易な実行を図るための制度として,次のようなものを設けるべきであるとの意見がある。
    1. 抵当権者は,一定の出捐をして抵当不動産の所有者に対して不動産の所有権を自己またはその指定する者に移転させること及び他の抵当権者に対して抵当権を消滅させることを裁判所に請求することができる。
    2. 他の抵当権者,抵当不動産の所有者その他の利害関係人は,aの金額に不服があるときは,自らそれより高い金額を提示するか,または競売の申立てをすることができる。
    3. 所有権移転の効果及び抵当権消滅の効果が生じた場合において,その登記は裁判所の嘱託により行う。

    (意見)
    いずれも賛成する。
    (理由)
    任意売却による抵当権の抹消に際し,後順位抵当権者から不合理な要求がなされることが実務では良く見受けられるが,かかる要求を排除するため,裁判所の関与を認めるべきである。

第2 主として執行法制に関する事項
  1. いわゆる占有屋等による不動産執行妨害への対策

    (1) 民事執行法上の保全処分の強化(民事執行法55条等関係)
    (ア) 要件の緩和
    民事執行法55条の保全処分の要件につき,これを緩和する方向での見直しをすることとし,次のような点について引き続き検討する。

    1. 不動産の価格を減少する程度が著しいものであることを要しないものとするかどうか。

      (注)
      不動産の価格を減少させている占有者に対しては,その者が執行妨害の意図を有するものであるかどうかに関わらず同条の保全処分を発することができるものとするか,また,当該占有者のうち,例えば,占有権原を有しないものに限ってこれを肯定するか等について検討する。

      (意見)
      賛成する。但し,「競売手続を困難にする行為又はそのおそれ」というように手続に着目した要件を新たに設けるべきである。
      (理由)
      債権者の競売対象物件の占有に対する関与は,不正常な占有者による競売対象物件への異常事態が発生してからにならざるを得ないが,不正常な占有が生じないように,同条の要件を緩和することには賛成である。実際にも,同条の「不動産の価格を著しく減少する行為又はそのおそれがある」という要件の立証として占有者が執行妨害の意図を有するという主観的な意図の証明を求められることがあるが,かかる意図を証明するには実務上困難であることが多い。
      しかしながら,同条の上記文言の「著しく」という文言を削除するだけでは,一方では,価格減少行為という要件が厳格に捉えられれば,改正の目的を達しない危惧もあり,他方で,民法395条但書について判例が述べるような解釈が採用されれば正常賃借権にも重大な影響が生じることになりかねない。そこで,例えば,「競売手続を困難にする行為又はそのおそれ」といった改正の趣旨に沿った文言を案出するのが妥当である。

    2. 同条2項の執行官保管の保全処分につき,「特別の事情」がない場合であっても同条1項の規定による命令に違反したことを要しないで,同項の保全処分と同様の要件の下で発することができるものとするかどうか。
      (意見)
      賛成する。


    3. aのような見直しをしない場合であっても,不動産の現状の変更(占有の移転を含む。)の禁止を命ずる保全処分については,価格減少行為等があることを要しないで,執行裁判所が必要があると認めるときに発することができるものとするかどうか。

    4. cの禁止命令に違反した者に対しては,価格減少行為等があることを要しないで同条2項の執行官保管の保全処分を発することができるものとするかどうか。
      (意見)
      c,dともにa案が採用されない場合には,賛成する。


    (後注)
    同法68条の2,77条及び187条の2の保全処分についても,同法55条の保全処分についての検討結果等を踏まえて,さらに検討する。

    (意見)
    競売手続の実効性確保のため,積極的に検討されたい。

    (イ) 不動産の保管
    民事執行法55条2項の執行官保管の保全処分につき,次のような点について引き続き検討する。
    1. 執行官以外の者も不動産の「保管人」となることができるものとするかどうか。
      (意見)
      賛成する。
      (理由)
      現在の55条2項の保全処分において,実際の管理(ビル設備のメインテナンス等)をどこまでなしうるかについては不明確であり,この点を明らかにしたうえで,管理の便宜上,「保管人」に弁護士等を選任しうるような改正をすることは合理的であり積極的に導入すべきと考える。

    2. 不動産を保管する執行官(保管人)の権限について,例えば,不動産の価値を維持するために必要な行為をすることができる,買受希望者に対して不動産の内覧をさせることができる等の規定を設けることとするかどうか。
      (意見)
      保管人が不動産の価値の維持行為をすることについては賛成するが,不動産の内覧については占有者のプライバシーが十分に保証されない限り反対する。 (理由)
      占有者が存在しない物件についてはともかく,占有者が現に居住又は使用収益している物件についての内覧はプライバシーとの関係でも問題が多い。内覧制度を導入するとしても,居住者のプライバシー権との関係を配慮し,その侵害の虞がないような制度構築がなされるべきである。

    (ウ) その他
    民事執行法55条の保全処分につき,その他,次のような点について引き続き検討する。

    1. 保全処分の相手方である不動産の占有者を通常の方法により特定して表示することが困難である特別の事情がある場合には,相手方の表示を「(保全処分執行時の)不動産の占有者」として,保全処分を発することができるものとするかどうか。
      (意見)
      賛成する。
    2. 民事執行法55条の保全処分として,民事保全法62条1項に規定する内容の命令(占有移転禁止命令)が発せられ,これが執行されたときは,不動産の売却後に当該保全処分の債務者に対して発せられた引渡命令の執行力が,同条の定めるところと同様に拡張されるものとするかどうか。
      (意見)
      賛成する。
    3. 民事執行法55条1項の保全処分により,登記の名義人等に対し,登記の抹消等を命ずることができるものとするかどうか。
      (意見)
      賛成する。

    (2) 明渡執行の実効性の向上
    (ア) 占有移転禁止の仮処分における債務者の特定方法(民事保全法62条関係)
    不動産の占有移転禁止の仮処分において,通常の方法により債務者を特定して表示することが困難である特別の事情がある場合には,債務者の表示を「(仮処分執行時の)不動産の占有者」として,仮処分を発することができるものとする。
    (意見)
    賛成する。但し,特別の事情については慎重に検討されたい。
    (理由)
    占有が変遷するような場合において,執行妨害対策として,仮処分債務者につき包括的な特定を認める実際上の理由は高く,そのような制度を導入するべきである。

    (イ) 承継執行文における承継人等の特定方法(民事執行法27条2項関係)
    不動産の占有移転禁止の仮処分(民事保全法62条)等があらかじめ執行されている場合における不動産の引渡し又は明渡しの強制執行(以下「明渡執行」という。)において,債務名義上の債務者以外の不動産の占有者を通常の方法により特定して表示することが困難である特別の事情があるときは,承継人等の表示を「(明渡執行時の)不動産の占有者」として,承継執行文を付与することができるものとする。
    (意見)
    賛成する。

    (注)
    不動産の占有移転禁止の仮処分等があらかじめ執行されている場合には,債務名義上の債務者以外の不動産の占有者に対しても,承継執行文を要しないで,明渡執行を行うことができるものとすべきであるとの意見がある。

    (意見)
    賛成する。

    (ウ) 明渡しの催告(民事執行法168条関係)
    明渡執行を行う執行官が,債務名義上の債務者(承継執行文における承継人等を含む。)による不動産の占有を認定して執行可能であると判断した上で,断行期日を定めて明渡しの催告をした場合につき,所要の事項を公示する等の措置を講ずるものとすることを前提として,例えば,次のような効果を与えるものとする。

    1. 断行期日までの間に占有者の変更があった場合であっても,承継執行文を要しないで,直ちに明渡しの断行をすることができる。
      (意見)
      賛成する。
      (理由)
      実務上,不動産の明渡執行においては,原則として「明渡催告」を行い,債務者の占有の確認や費用等の見積もりをしたうえで,任意の明渡しがなされなかった場合に限り,強制的な明渡執行がなされることとなっている。しかしながら,現在行われている「明渡催告」は法的根拠を有さず,何らの法的効果も付与されていない。最も大きな問題は,このような催告を契機として占有名義の変更等がなされ,執行妨害がなされる事案も存在するということである。そこで,明渡催告に法的効果を付与することは賛成である。
    2. 断行期日において取り除くべき目的外動産がある場合において,これを債務者等に引き渡すことができないときは,執行官は,当該動産を保管することを要しないで,直ちに動産執行の売却手続により売却することができる。
      (意見)
      賛成する。
      (理由)
      不動産の明渡執行を実際に行うに際し,目的外動産の処理については,現行法上,これを取り除いたうえで債務者等に引き渡すか,これができない場合には執行官が保管をすることが求められている。また,執行官が当該動産を債務者等に引き渡すことができない場合には,動産執行の売却手続の例により売却処分が行われることとなるが,競り売りによる場合,別途期日を入れるために一定期間を要することとなり,これを倉庫に移転することが必要となる。しかしながら,有価物といえども,実際上の市場価値を有するものは一般的には少なく,当該動産の買受人は,一般的には執行債権者であり,その対価は名目的なものであることが多い。そこで,債務者等に動産を引き渡すことができない場合には当該動産を保管することなく,直ちに動産執行の売却手続による処分ができるようにすべきである。

    (3) その他の方策
    いわゆる占有屋等による不動産執行妨害を排除するためのその他の方策につき,なお検討する。

    (注)
    例えば,自らの占有権原を明らかにしない占有者につき一定の手続の下で失権させる制度を導入すべきである,濫抗告への対策として引渡命令につき確定前に効力が生じるようにすべきである(民事執行法83条5項参照)等の意見がある。

    (意見)
    なお慎重な検討が必要である。

  2. 強制執行の実効性の確保

    (1) 間接強制の適用範囲の拡張(民事執行法172条等関係)
    (ア) 「作為又は不作為を目的とする債務」及び物の引渡債務についての強制執行は,間接強制の方法により行うことができるものとする。
    (意見)
    賛成する。
    (イ) すべての金銭債務又は一定の金銭債務(例えば,少額債務,少額定期給付債務)についての強制執行を間接強制の方法により行うことができるものとするかどうかについては,引き続き検討する。
    (意見)
    賛成する。

    (2) 債務者の財産を把握するための方策
    (ア) 次のような財産開示の手続を設けるものとする。

    1. 執行裁判所は,金銭債権についての債務名義を有する債権者の申立てにより,財産開示の期日を定めて,債務者を呼び出すものとする。
      (注)
      その債務名義が少額訴訟判決である場合につき財産開示の手続を簡易裁判所において行うものとするかどうか,一般先取特権を有する者もその存在を証する文書を提出してこの手続の申立てをすることができることとするかどうか,強制執行を試みたが不奏功に終わったこと等をこの手続の申立要件とするかどうか等について,なお検討する。
    2. 財産開示の期日において,債務者は,宣誓の上,自己の財産状況を開示しなければならないものとする。
      (注)
      債務者が開示すべき財産の範囲につき申立債権者の債権額を考慮するものとするかどうか等について,なお検討する。
    3. 債務者が正当な理由がないのに期日に出頭せず,宣誓若しくは財産開示の陳述を拒み,又は虚偽の陳述をした場合等につき,所要の罰則を設けるものとする。

    (注)
    罰則の内容をどのようなものとするかについては,なお検討する。

    (意見)
    a,b,cいずれも反対する。債務者に対して財産開示を義務付ける前に,債務者以外のものを情報源とする財産開示の制度を充実させるべきである。
    (理由)
    債権回収のために債務者に情報開示を義務付けることは債務者に対する人的執行につながりかねず,人権上問題である。債務者は債務名義の取得過程である訴訟上,虚偽の供述を行っても刑罰を課せられないにもかかわらず,執行段階において刑罰を課されることは不均衡である。
    執行妨害を行う悪質な債務者については,既に資産を隠匿しており,財産開示の時点では資産を有しておらず,このような制度が有効でないことは明らかである。債権回収の確実性を担保するためには債権発生時から財産開示までの資産移動について全て証言させるということも考えられるが,このようなことは現実的とは考えられない。
    この制度がもっとも利用されると想定されるケースは通常の債務者であって,財産の隠匿も行っていない場合である。このような債務者に対して優越的な地位にある金融機関などの債権者が財産開示の制度を利用して,拘留などの刑事罰を根拠に情報の開示を求めることは妥当とは考えられない上に,その効果には疑問がある。
    国は債権者の自力救済を禁止している以上,債務名義による執行を充実させる責務がある。またこのことは法による支配の充実にもつながると考えられる。したがって債務者や第三者に対して財産開示を要求する前に,国の保有する情報,例えば郵便貯金債権の開示,税務申告書の開示,行政機関からの勤務先の開示などを積極的に行うべきである。
    国による財産開示が不十分に終わった場合,第三者に対する財産開示制度の利用を認めるべきである。第三者による債務者の財産開示については第三者が回答したことによって不利益をこうむることのないよう,免責となる旨を明記すべきである。第三者の負担増については,債権者の権利を保護することによって,司法権が適正に行使される結果となりひいては社会全体の法と秩序の確立安定をもたらすことになるのであるから,第三者に開示義務を課することは妥当と考える。

    (後注)
    財産開示の手続とは別に,執行官は,債権者の申立てにより,動産執行の際に,債務者の有する財産に関して債務者等に対し質問をすることができ,これによって取得した情報等を債権者に通知することができるという制度を設けることとするかどうかについて,なお検討する。

    (意見)
    反対する。
    (イ) 金銭債権についての債務名義を有する債権者の申立てにより,執行裁判所が,債務者の有する財産に関し第三者に対して照会する等の制度を設けるかどうかについて,なお検討する。
    (意見)
    賛成する。但し,まず国の保有する債務者に対する情報を開示すべきである。
    (理由)
    司法に対する信頼維持のためには,債務名義を空洞化させないことが必要である。この点は国家の責務であり,第三者に対して義務を課する前に国が第一次的に履行確保のために債権者に協力すべきである。債務名義を保有する債権者に対しまず国の保有する債務者の財産情報を開示し,不足のある場合に第三者に対する照会制度の利用を認めるべきである。
    なお債権者による情報の目的外利用が行われないよう留意する必要がある。

    (3) 少額定期給付債務の履行確保
    (ア) [子の養育費など一定の少額定期給付請求権]についての強制執行においては,弁済期の到来した定期金についての差押えと同時に,弁済期の到来していない定期金についての差押えをすることができるものとする。但し,弁済期の到来していない各定期金についての差押えの対象は,[債務者の給料債権など一定の継続的給付に係る債権]であって,その弁済期が当該定期金の弁済期より後に到来するものに限るものとする。
    (意見)
    賛成する。

    (注) 
    [子の養育費など一定の少額定期給付請求権]及び[債務者の給料債権など一定の継続的給付に係る債権]の範囲については,なお検討する。

    (意見)
    これらの範囲については慎重な検討が必要である。
    (イ) [子の養育費など一定の少額定期給付請求権]については,その強制執行において,民事執行法152条1項により給料債権等の差押えが禁止されている部分のうち一定の部分に対しても同法153条による範囲変更の決定を要しないで差押えをすることができるものとするかどうかなど,その履行確保をより充実させるための手続上の方策について,なお検討する。
    (意見)
    履行確保の手続の充実については賛成する。

    (注)
    [子の養育費など一定の少額定期給付請求権]の範囲については,なお検討する。

  3. その他

    (1) 一般先取特権の実行等
    一般先取特権の実行等を容易にする観点から,その実行等に必要とされている担保権の「存在を証する文書」(民事執行法181条1項4号,193条等)につき,その内容を明確にする等の見直しをするかどうかについて,なお検討する。
    (意見)
    実行を容易にする方向での見直しが必要である。

    (理由)
    近時の実務は担保権の存在を必要とする書面は,文書の形式,内容等は限定されず,提出された複数の文書を総合判断して裁判官の自由心証として担保権の存在が証明されればよいとする書証説によっている。それ故,債権差押命令申立時に担保権の存在を立証する必要があるが,裁判官の自由心証に委ねられることから,債権者からの書証の追完,裁判所の審査等に時間にかかり,「払渡又は引渡前」までに,債権差押命令が発令されないことも多い。そこで,「払渡又は引渡前」の差押を要求する民法304条を見直すべきとの考え方もある。しかし,それこそが動産先取特権の性質として甘受しなければならない不利益であって,「払渡又は引渡」以後の差押であっても権利行使を認めるのは行き過ぎであると考える。むしろ,「担保権の存在を証する書面」を類型化し,法文上に例示列挙するなどして,早期に,かつ,画一的判断ができるようにすることによって,一般先取特権の執行を容易にすべきである。

    (2) 動産競売(民事執行法190条関係)
    動産担保権の実行としての競売につき,執行官に対して目的動産を提出し,又は占有者の差押承諾文書を提出することができない場合(民事執行法190条参照)であっても,一定の文書を提出した場合には,執行官が債務者の住居等を捜索して目的動産を差し押さえることにより手続を開始することができるものとするかどうかについて,なお検討する。
    (意見)
    賛成する。
    (理由)
    動産売買の先取特権は担保権であることから,他の担保権と同様「担保権の存在を証する書面」をもって,執行開始を認めるべきである。そうすることによって,動産の提出・差押承諾文書がないため動産競売ができないにもかかわらず,たまたま一般債権者が強制執行をしてくれれば配当加入によって優先権を行使できること(民執133条,154条),物上代位による転売代金債権の差押えについては「担保権の存在を証する書面」をもって認めていることとの整合性も保てると考える。
    そもそも,民執190条の立法趣旨が,担保権の存否といった実体判断を執行官が行うことになるのは適当ではないと考慮されたためであるので,裁判官が「担保権の存在を証する書面」の提出を受けて担保権の存否を判断する手続にすればよい。
    具体的には,以下のような手続が考えられる(現行法における動産引渡請求権の執行手続と同様の手続をイメージしている)。
    1. 執行裁判所に対し,「担保権の存在を証する書面」をもって,目的物である動産を特定して動産の差押命令の発令を受ける。
    2. 債権差押命令の執行申立を執行官に対し申し立てる。
    3. 執行官が差押・売却して売得金を執行裁判所に提出する。
    4. 執行裁判所が配当する。

    (注)
    「一定の文書」については,動産担保権の存在を証する確定判決,公正証書等(民事執行法181条1項1号,2号参照)とする考え方と,動産担保権の存在を証する文書(同項4号参照)とする考え方があり,後者の考え方に立つ場合には,提出された文書による証明の有無につき何らかの方法で執行裁判所の判断を経ることとする必要がある。

    (意見)
    後者の考え方に賛成する。
    (理由)
    「担保権の存在」について早期かつ画一的に判断される必要があるが,民執181条1項1.〜3.のような書面の準備は,取引形態も刻々と変化をする動産取引においては困難である。書証説に基づき,担保権の存在を判断するほかない。但し,その判断は執行官ではなく裁判官に委ねるべきである。

    (3) 差押禁止財産
    (ア) 標準的な世帯の必要生計費の推移等を踏まえて,「政令で定める額」(民事執行法131条3号,152条1項)の見直しを行うものとする。
    (意見)
    賛成する。

    (イ) その他,差押禁止財産の範囲等の見直しをするかどうかについて,なお検討する。
    (意見)
    賛成する。但し,執行の確保の重要性を踏まえ,慎重に検討されたい。

    (4) 不動産競売に関するその他の見直し
    (ア) 物件明細書を一般の閲覧に供する方法につき,執行裁判所に備え置く方法(民事執行法62条)に代えて,インターネットを利用して閲覧に供する方法によることができるものとする。
    (意見)
    賛成する。

    (イ) その他,不動産競売手続の迅速化・円滑化等を図るために見直すべき点について,なお検討する。

    (注)
    例えば,最低売却価額の制度の在り方や競売物件の瑕疵担保責任の在り方について見直しをすべきであるとの意見がある。また,配当異議の申出等があった場合における差引納付に係る代金の納付時期(民執法78条4項)につき「直ちに」とあるのを「1週間以内に」などと改めるべきである等の意見がある。

    (5) その他
    その他,民事執行に関して執行裁判所の権限とされている事項のうち一定のものを裁判所書記官の権限とするかどうか,執行官が警察上の援助(民事執行法6条1項)に限らず官庁等に対して直接援助を求めることができるものとするかどうかなど,権利実現の実効性をより一層高めるための民事執行制度の全般に関する問題につき,なお検討する。

以 上
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