意見書・声明
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 大阪府安全なまちづくり条例についての意見書

2002年(平成14年)5月27日
佐伯照道
  1. 大阪府は、本年3月、「大阪府安全なまちづくり条例」を制定した。
    この条例は、大阪府域における犯罪発生件数の急増と凶悪化に鑑み、犯罪の防止に関し、府、事業者及び府民の責務を定めるとともに、犯罪による被害の防止のため、鉄パイプ等の携帯やピッキング用具の有償譲渡等を罰則をもって規制しようとするものである。
    しかしながらこの条例に問題が多いことは明らかで、とりわけ、、「公衆が出入りすることができる場所」又は「公衆が利用することができる乗物内において」、「その本来の用途に従い使用し、又は運搬する場合その他社会通念上正当な理由があると認められる場合を除いては、鉄パイプ、木刀、ゴルフクラブ、角材その他これらに類する棒状の器具であって、人の生命を害し又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるおそれのあるものとして公安委員会規則で定めるものを携帯してはならない」と罰則をもって強制することによって、あまりにも広範囲に住民の自由を規制するものである。この罰則の対象は、本来何ら犯罪行為とならないはずの行為にかかわらず何らかの事由で正当事由を警察官に認めてもらわなければ罰せられるという構造を持つもので、いわば犯罪予備ともいえない行為すら犯罪にするという極めて重大な問題を含んでいる。市民の自由権を最大限に保障している憲法に違反するものと考えざるを得ないし、職務質問を受けた際これを拒むことが許されず、黙秘権が侵害されるという結果を招くおそれが強い。

  2. 戦前、警察国家の根源となった警察犯処罰令や違警罪即決令が廃止され、代わって軽犯罪法を制定するにあたり、反省のうえに立って、「網羅された犯罪の範疇があまりに国民の日常生活にあまねくわたって」くることを否定し、「この法律は国民の日常生活におきまする、ごく卑近な道徳律に違反する軽い犯罪を集めたものでございまして、その運用いかんによりましては、非常に多くのものがこの法律にふれる結果を招来すると考えられるのであります。」との政府答弁と、「なるべく従来の警察国家的なにおいを法案からのぞきたい」という議論の結果、濫用禁止規定が付加されたことを想起されたい。
    近代刑法の父ベッカリーアが、その著「犯罪と刑罰」の中で、「無数の些細な行為を(たいして有害でもないのに)禁止することは、犯罪を防止することにはならない。道徳の内容を変えることになるのだ。」と、むやみに犯罪規定を乱立させることが、道徳のあり方、すなわち人の生活や思考の有りようまでを規定する社会を作り出すとして、厳しく警告していることに思いを致すべきである。

  3. 本件条例は「府民が一体となって、良好な地域社会の形成など安全なまちづくりに関する取組みを展開することが不可欠である」などとしているが、そうだとすれば、府民の間において広く「安全なまちづくり」についての議論がなされるべきであるのに、本件条例案が府民に示されたのは、知事公室長、府警生活安全部連名で平成14年2月15日付府議会議員あての報告書によってであり、府民的検討はほとんどなされないままで、大多数の府民は未だ本件条例の存在、内容すら知らないという実情にある。
    ちなみに、この条例は、平成13年8月28日から同年12月17日まで、4回開かれた「安全なまちづくり有識者懇談会」で検討を経たということであるが、「有識者」の選任手続も公開されておらず、この懇談会における議論が府民一般の意見を代表するものとはいえないきらいがある。

  4. 本件条例は、犯罪増加の原因を、府民の「危機意識のなさ」に求め、府の責務を具体的に検討することなく、いたずらに府民に警察への協力、通報義務を課し、警察主導の府民生活を目指しているように思われる。
      「安全なまち」とは、住民が個人として尊重されるまちであり、さまざまな価値観を持つ者が、自由に、平等に、かつ親しく生活できるまちである。
    犯罪が多発する原因が奈辺にあるかについては、さまざまな意見があるが、この国の社会の経済的、文化的状況がその一因になっていることは否定できない。まずこうした原因を取り除く努力がなされるべきであって、町々にあまねく警察官を配置し、警察の監視の目が人々の生活のあらゆる場面に及んでおり、警察官が納得しなければ逮捕されるという状況は、極めて異常である。
    「安全なまち」は、警察監視の強化によって得られるものではない。この条例は、著しく不明確な要件のもとに、警察にあまりにも大きな権限を付与するものであって、不当である。

  5. 以上のとおりであって、本件条例は、その附則において、施行後3年を経過した場合に再検討し、必要な措置を講ずることとされているが、この際、3年をまたず、あらためて広く府民一般の間での慎重な議論にもとづく再検討がなされるべきである。特に、来る6月1日から施行が予定されている19条、20条とその罰則規定については、適用を見送り、すみやかに廃止されるよう強く求める。





2002年(平成14年)5月27日

大阪府知事 太 田 房 江 殿
大阪府公安委員会委員長 殿
大阪府議会 正・副議長 殿
大阪府議会 総務・警察常任各委員会委員 各位
大阪弁護士会
会長  佐伯照道


大阪府安全なまちづくり条例についての意見書送付の件


謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
今般、当会では、先に制定され、4月1日から施行となった「大阪府安全なまちづくり条例」について別添のとおり意見書をとりまとめましたので、ご送付申しあげます。


謹白
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