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 弁護士法72条の再検討と隣接法律専門職の活用等に関する意見書

2002年(平成14年)6月18日
司法制度改革推進本部御中

大阪弁護士会 
会長 佐伯照道
[意見の趣旨]

第1 今次の司法制度改革は、職務の独立性と自治を有する弁護士に法律事務を付託することによって国民の権利・利益を擁護しようとした弁護士法72条の趣旨を実質化・実効化する観点から、増大する弁護士を社会の隅々に配置して「法の支配」を行き渡らせるために、弁護士が、税務を巡る紛争、知的財産権を巡る紛争、行政を巡る紛争など専門分野において活躍するだけでなく、従来の弁護士業務を超えて法律事務等のあらゆる分野に広く関与し中心的な役割を果たすことを展望しており、かかる展望を視野に入れて弁護士法72条問題や隣接法律専門職種の暫定的活用措置に関する検討を深めるべきである。

第2 司法書士に簡裁の事物管轄の範囲内において代理権を付与する司法書士法の改正が行われたことを受けて、今後、代理権付与の前提となる研修について日弁連を含む関係機関が協力体制を強化するとともに、改正法施行後の運用実態をふまえて、高い能力の担保措置として現行法の予定する研修で足りるのか、問題事例は発生していないか等を実証的に検証し、必要に応じた制度改正(研修時間の拡大、論文式による筆記試験の導入、非弁禁止・非弁提携禁止に相当する規定の新設、継続的な倫理研修の義務付け規定の新設等)を検討すべきである。

第3 社会保険労務士法の改正については、司法制度改革推進本部のADR検討会等における訴訟手続外の法律事務における隣接法律専門職種の位置付け等の議論をもふまえつつ、社会保険労務士の役割について慎重に検討を行うべきであり、国民的な検証も行われないままに社会保険労務士法が性急に改正されることについては、反対である。

第4 職務の独立性と自治権を有する弁護士が国民の権利・利益の擁護を担うという弁護士法72条の立法趣旨は堅持されるべきであり、弁護士法第72条について、「仲裁」を削除し、あるいはただし書を「この法律及び他の法律に別段の定めがある場合はこの限りでない」と改正することについては、反対である。
[意見の理由]

第1 隣接法律専門職種の活用等の具体化は、「司法制度改革審議会意見書」(以下「意見書」という)が予定した制度改革の速度をはるかに超えたスピードで進行している。

  1. 司法制度改革審議会意見書の考え方
    意見書は、弁護士の法律事務独占を規定する弁護士法第72条について、国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性に鑑み、利用者の視点から、当面の法的需要を充足させるための措置を講ずる必要があるとして、同条項を改正して、司法書士、弁理士、税理士に、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、一定の範囲で訴訟代理権等を付与すべきであるとした(意見書87頁)。意見書の提言は三つの柱からなっている。すなわち、(1)国民の権利擁護に不十分な現状については、弁護士人口の大幅な増加と諸般の弁護士制度改革が現実化するまで放置するわけにはいかないので、直ちに当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要性がある(当面の暫定措置)。しかし、当面の措置とはいえ、(2)国民の目からみて信頼しうる能力が担保されなければならない(高い能力担保措置)。さらに、(3)弁護士人口の大幅な増加と弁護士改革の進展する将来においては、法的なサービスの担い手の在り方を改めて検討する必要がある(将来の総合的な見直し措置)。

    他方、意見書は、「行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士など、その他の隣接法律専門職種などについては、その専門性を訴訟の場で活用する必要性や相応の実績等が明らかになった将来において、出廷陳述など一定の範囲・態様の訴訟手続への関与の在り方を個別的に検討することが、今後の課題として考えられる。」と述べて、慎重な検討を求めた。

  2. 従前の日弁連の見解
    従前日弁連は、弁護士法72条について、概ね次のような理解にたってきた。すなわち、弁護士法72条は、国民の権利・利益が適正・迅速に擁護されるためには、厳正な試験と研修による資質の裏付けを与えられた資格者であり、かつその権能行使を自治権により担保されるとともに自律の制度を有する弁護士が、国民に対する法的サービスを担うことが不可欠である、との観点から立法化され、堅持されてきたものである。かかる趣旨は、最高裁昭和46年7月14日大法廷判決が、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことを職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつその職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられている」と述べていることからも明らかである。弁護士法72条が、法律事務の利用者である国民の権利・利益擁護の必要性に基礎付けられており、その趣旨は今後も堅持されるべきである。

    日弁連は、72条のかかる理解にたちつつ、隣接法律専門職種の活用について、これらの隣接法律専門職種が行政事務の補完という面をもちつつも、現実には市民の間で全国的に法の担い手としての役割を果たしていることを認め、本来的には、弁護士人口の大幅な増加と過疎地の解消、専門性の強化、法律相談センター、公設事務所の拡充等をもって対応すべきであるが、増員の進展過程もあり、隣接業種に一定の法的関与を許容することを認めざるを得ないとの姿勢をとってきた(平成12年9月14日日弁連理事会「72条問題に関する基本指針」)。この日弁連の姿勢は、72条の前述した立法措置を原則的に堅持しつつ、過渡期の方策として、隣接法律専門職種に高い能力の担保処置を講じつつ、一定の範囲に限定して暫定的に活用し、弁護士人口が増大する将来総合的に見直す、という発想にたつものであり、上記意見書の考え方に通ずるものであった。

    日弁連は、隣接法律専門職種の活用について、72条の前記趣旨を踏まえつつ、過渡期の方策として、(1)当面の暫定措置として必要な範囲は何か、(2)能力担保措置として十分か、(3)将来の総合的な検討との関係で問題はないか、という観点からそのあり方や是非を論じてきたといってよい。

     
  3. 隣接法律専門職種に関するこの間の法改正
    (1)隣接法律専門職種の活用に関する法改正作業は、これら職種からの政権党に対する政治的な働き掛けもあり、意見書や日弁連が想定したスピードを超えて急ピッチで進展した。税理士法、弁理士法、司法書士法、土地家屋調査士法等の改正案が相次いで国会に上程され、成立するに至った。

    (2)意見書や意見書とほぼ同一の見地に立つ日弁連の見解からみて、税理士法、弁理士法の改正内容は、概ね是認できるものであった。すなわち、税理士と弁理士の場合は、税務訴訟や特許訴訟に精通した弁護士が限られており、弁護士が専門化していないことによって、この法領域に関する国民の法的需要が充たされていない状態をいかに改善するかという観点からは、弁護士と共同で出廷する原則をとることで、専門化が遅れている弁護士の能力をこれらの隣接職種が補充・補完する役割を担うことになる。弁護士と税理士ないし弁理士が共同することで、国民の法的需要に応えることになる。また、税理士や弁理士が、自治を持たず行政の監督に服しているという独立性・倫理の問題や訴訟手続に精通していないという問題は、研修と論文式による筆記試験の合格が条件とされていることで一定能力が担保されるとともに、弁護士が共同で出廷することによってその点を補充・補完することができる。さらに、弁護士人口が大幅に増え、弁護士制度の諸改革が進んだ段階における総合的な見直しの点でも、それぞれの職種の歴史的な成り立ちを考慮して見直しが可能であり、障害は少ないと言えよう。いずれの面からしても、弁護士との共同出廷が原則となっていることが決定的な意味を持っていると思われる。

    (3)これに対し、簡裁の事物管轄の範囲内において、訴訟、調停、督促手続、保全手続の訴訟代理、同範囲内における訴訟外の和解代理及び法律相談の権限を付与する司法書士法改正については、次のように多くの問題点を指摘してきた。

    1. 司法書士法改正の問題点
      簡裁の事物管轄の範囲内であるとはいえ、司法書士に、単独で、訴訟手続内外の包括的な権限を付与することには、様々な問題がある。司法書士資格は、資格試験合格者だけではなく、法務局等の職員経験を有する者にも特認資格として認められている。資格試験合格者の場合は、資格試験受験科目に関する限り能力の担保があると考えてさしつかえないが、特認資格者についてはその点も問題なしとしない。資格試験受験科目外である憲法に関しては、資格試験合格者の場合も能力の担保はない。また、登記実務というある種定型的な業務と紛争業務は、根本的に異なる。訴訟法や訴訟実務に関する精通も不可欠である。特に、登記業務は性質上双方代理を内包したものであるが、双方代理が原則的にありえない訴訟実務との差も顕著であり、この面で職業倫理の確立も不可欠である。職務の独立性・自律性という観点からみても、行政庁の監督に服している司法書士の場合、限界を内包している。

    2. 訴訟外の和解代理権について
      かかる問題点のなかでも、とりわけ訴訟外の和解代理の権限を付与することには重大な疑義がある。すなわち、簡裁の事物管轄の範囲内で訴訟代理権を付与することについては、簡裁における手続への関与であり、代理権限の有無は簡裁によってチェックされるし、手続過程において裁判所の後見的役割ないし監督的役割が期待できる。その意味では、当事者の権利・利益に対する不測の損害は回避し得ると言える。ところが、訴訟外の和解代理権限の付与は、これらのチェックがおよそ期待できない。自らの抱える紛争が簡裁の事物管轄の範囲内に属する紛争であるか否かを、国民が自身で判断できるとは考えられない。不動産関係など金銭給付訴訟以外の紛争類型では訴訟額の算定自身国民にとっては容易ではないからである。結局、司法書士が行った訴訟外の和解代理が、簡裁の事物管轄内の事案であるか否かを第三者が検証することはおよそ不可能である(この点の懸念は訴訟外の法律相談の権限についてもあてはまりうるが、簡裁での訴訟代理権を認めることとの関連や裁判手続の過程におけるチェックが可能なことからなお許容しうると考える)。その意味では、訴訟外の手続に関していえば、弁護士と司法書士の区別は極めて曖昧なものとならざるを得ない。かかる事態は、先に述べた弁護士法72条の立法趣旨からみて看過できないものであり、弁護士人口が増大するまでの暫定的な方策といえども、許容すべきではなかった。

    3. 信頼性の高い能力担保措置について
      また、意見書のいう「信頼性の高い能力担保措置」という観点からみても改正法は極めて不十分である。改正法では、司法書士会の100時間程度の研修修了者を対象に法務大臣が認定するようであるが、これでは決定的に不十分である。憲法が司法書士試験受験科目でないこと、特認資格者の場合民法、商法、訴訟法等の法的知識についても個人差が大きく能力の担保がないこと等を考慮すると、法文上、論文式の筆記試験の合格を訴訟代理権付与の要件とし、法務大臣の認定する研修の修了を右筆記試験の受験要件と明記することは不可欠である。また、論文式による筆記試験の受験科目については、少なくとも憲法、民法、民事訴訟法は必須とすべきであろう。さらに、単独での代理権であることや特認資格者も対象であることを考慮すると、法律知識の習得、訴訟実務の研修、職業倫理の確立など多岐にわたる研修が不可欠であり、それなくして「信頼性の高い能力担保措置」はあり得ない。かかる観点から見た時、現在想定されつつある100時間程度の研修では、簡易裁判所における実務研修が法廷傍聴を中心に構想されているなど不十分であるといわざるを得ない。少なくとも、200時間程度を確保することが必要である。

    4. 非弁禁止、非弁提携禁止について
      司法書士法には、非弁禁止、非弁提携禁止にあたる条文がなく、改正法でも何ら手当されていない。司法書士に訴訟内外の代理権を付与するとなると、非弁禁止、非弁提携禁止と同種の規定を設けることは不可欠である。

    5. 倫理研修について
      前述したように、従来の司法書士の登記業務が性質上双方代理を内包したものであり、他方双方代理が原則的にありえない訴訟実務との差が顕著であることを考慮すると、職業倫理の確立は極めて重要であり、法文中に訴訟代理権付与後の継続的な倫理研修の義務付け規定を設けるべきである。

    6. 苦情処理ないし救済手続について
      職務の独立性・自律性という観点からみて、行政庁の監督に服している司法書士の場合限界を内包していることは明らかである。従って、法文中に紛議・懲戒対象等事案の苦情処理ないし救済制度の規定を設けるべきである。

    7. 以上のように多くの問題点を内包する司法書士法の改正が行われており、日弁連としては、改正法施行後の運用実態等の検証を行い、既に指摘した問題点をふまえた取り組みを行うことが必要である。

第2 弁護士法72条の再検討と隣接法律専門職の活用等に関する今後の取り組みの方向性について

  1. 事態
    事態は日弁連の予想を超えて展開しており、司法書士法の改正にあたって、「司法書士に対する家事事件及び民事執行事件の代理権付与については、簡易裁判所における訴訟代理権等の行使による司法書士の実務上の実績等を踏まえて早急に検討すること」との附帯決議が付き、さらなる代理権限の拡張が現実のものとなっている。
    また、社会保険労務士にあっせん手続の代理権等を付与する方向での社会保険労務士法の改正問題も現実のものになりつつある。
    さらに、司法制度改革推進本部法曹制度検討会では、72条改正について、(1)「仲裁」を削除する、(2)ただし書を「この法律及び他の法律に別段の定めがある場合はこの限りでない」と改正する、等が論点(案)として出されている。

  2. 基本的な考え方をまとめる必要
    意見書は、弁護士人口の大幅な増加と弁護士改革の進展する将来においては、法的なサービスの担い手の在り方を改めて検討する必要がある(将来の総合的な見直し措置)と指摘したが、隣接法律専門職種を含む法的サービス提供システムの総合的な検討は将来的な課題ではなく、まさに現在の課題となった感がある。かかる情勢の下において、この問題をいかなる観点から議論し、方向性を出していくのかが問われている。
    日弁連としては、3月7日の段階で、司法制度推進計画を政府の推進本部顧問会議に提出しており、そのなかで、(1)訴訟手続及びADRを含む訴訟手続外の法律事務における隣接法律専門職種の位置付けについては、職種ごとに実態を踏まえて逐次個別的に検討したうえ、所要の取り組みを行う、(2)弁護士法72条については、その規制内容を何らかの形で明確化することに関し、必要な検討を経たうえ、所要の取り組みを行うとしたが、具体的方針は必ずしも明らかでない。

  3. この問題の基本
    弁護士法72条は、法律事務の利用者である国民の権利・利益擁護の必要性に基礎付けられているものであり、その趣旨は今後も堅持されるべきである。
    そもそも、隣接法律関連職種は、成り立ちの上でも、現実の役割においても、行政機関の補助職的な性格が強い。例えば、税理士法1条は、税理士の職務を「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と規定し、行政書士法1条は、同法の目的を「行政に関する手続きの円滑な実施に寄与」することであるとしている。その役割は、国民の権利利益の擁護にあるのではなく、むしろ行政目的の実現にあるのである。司法書士や弁理士、土地家屋調査士の性格も同様であり、国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現を職責とする弁護士とはこの点において根本的に異なるのである。法の支配を社会の隅々に行き渡らせるためにも、72条を安易に緩和すべきではない。

    また、今次の司法改革では、法曹の質の向上が重視されており、法科大学院において、専門分野の教育を含めて、技能、見識において高い能力を有する法曹の養成を目指している。その他方で、資格付与のあり方や法的な知識、職務の独立性職業倫理等において充分であるとは言い難い隣接法律専門職種に広く法律事務を担わせることになる現在の法改正の動向は、矛盾する側面を有している。技能、見識において高い能力を有する法曹を国民の求める数だけ養成し、これらの法曹に法律事務を担わせることがあくまでも基本である。隣接法律専門職種の活用は、当面の暫定的措置であることを踏まえて慎重に検討されなければならない。
    従って、弁護士会としては、72条の趣旨とその重要性を強調しつつ、弁護士人口の大幅な増加を背景にしつつ、弁護士過疎の解消、小額事件処理体制の確立、そのための法律相談センターや公設事務所の拡充、法律事務所の共同化、専門教育の強化等法律事務独占を実質的に担うに足る体制の整備計画を具体的に打ち出すことが重要である。

  4. 過渡期について
    これらの整備計画が整うまでの間の過渡期については、弁護士が対応不十分な領域をカバーするために隣接法律専門職種と積極的に協力・協働関係を構築する必要があるであろう。少なくとも、司法書士法が改正され、簡易裁判所の事物管轄の範囲内で訴訟内外の代理権を付与された現実を踏まえて、国民の裁判を受ける権利の実効的保障の観点から、資格付与の前提となる研修制度の充実に弁護士会が関与し、積極的な役割を果たす必要があろう。これは、意見書が求めた高い能力担保措置を実効化あらしめるためにも不可欠であり、附帯決議も「関係諸機関の支援協力体制に万全を期すること」としているところである。研修体制の充実強化に弁護士会として協力し取り組む過程を通して、司法書士会との関係性を強化し、高い能力の担保措置として現行法の研修で足りるのか、問題事例は発生していないのか等を実証的に検証し、必要に応じた制度改正(研修時間の拡大、論文式による筆記試験、非弁禁止・非弁提携禁止に相当する規定の新設、継続的な倫理研修の義務付け規定の新設等)を働き掛けていくべきであろう。

  5. 社会保険労務士の法改正問題について
    社会保険労務士についても、労働争議不介入規定の削除、紛争調整委員会や地労委などにおけるあっせん手続の代理権を付与するなどの改正案が提出される予定であると言われている。
    しかし、労働争議不介入を規定されていた社会保険労務士に、現時点で代理権を付与しなければ国民の権利擁護に不十分であるという立法事実があるか否か自体については厳密な検証が必要であるところ、その検証はまったくなされていないといってよい。社会保険労務士に労使紛争処理の実績もないことからすれば、主として中小企業の労使紛争において会社側の労務係り的な役割を社会保険労務士に認めることになりかねず、健全な労使関係の育成にむしろ障害となるとの懸念も払拭できない。国民の適正な権利擁護の観点からみて問題が多いといわざるを得ない。
    そもそも、意見書自身「行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士など、その他の隣接法律専門職種などについては、その専門性を訴訟の場で活用する必要性や相応の実績等が明らかになった将来において、出廷陳述など一定の範囲・態様の訴訟手続への関与の在り方を個別的に検討することが、今後の課題として考えられる。」と述べて、慎重な検討を求めていたものである。ADRを含む訴訟手続外の法律事務における隣接法律専門職種の位置付けについては、職種ごとの実態を踏まえて個別に検討を行い、具体化する必要がある。内閣の司法制度改革推進本部のADR検討会等における検討も予定されており、検討は始まったばかりである。
    意見書の言う国民的な検証も行われないまま社会保険労務士についての性急な法改正については、反対である。
     
  6. 弁護士法72条改正について
    72条改正について、「仲裁」が削除されれば、弁護士以外の個人及び団体が業務上報酬を得て、仲裁をすることが可能になる。一旦仲裁が可能となれば、「仲裁相談」や「仲裁代理」、ひいては「和解」などもできなければおかしいとか、できない理由はない、ということになり、際限なく緩和されることになりかねない。また、ただし書を「この法律及び他の法律に別段の定めがある場合はこの限りでない」と改正することになれば、個別立法で弁護士以外の個人ないし団体が業務上報酬を得て当該類型の法的紛争処理が可能となる。これらの事態が現実になれば、職務の独立性と自治権を有する弁護士が国民の権利・利益の擁護を担うという弁護士法72条は有名無実となり、72条の趣旨は没却されることにもなりかねない。
    従って、1項で述べた司法制度改革推進本部法曹制度検討会における弁護士法72条の検討方向については、反対せざるを得ない。
     
  7. まとめ
    意見書は、司法改革の正否が司法を担う人にかかっているとの認識から、司法の人的基盤の整備にかなりの紙数を割いている。なかでも、弁護士は、司法を担う人的基盤の広き裾野として重視されている。意見書の構想する21世紀の司法においては、高い技能と見識、高い倫理性と公益的責務の自覚にあふれた弁護士が、社会の隅々にあって、「法の支配」の担い手として、この国の進歩と発展に貢献することが想定されている。かかる観点から、意見書は、法曹人口の増大、すなわち弁護士人口の増大を求め、法曹教育の充実のために法科大学院の新設構想を打ち出した。意見書が構想した弁護士人口の増大と法科大学院による法曹教育は既に具体化されつつあり、近い将来法科大学院において専門的な教育を受けた数多くの法曹が生み出されてくる。
    この国において「法の支配」を社会の隅々に行き渡らせるためには、大量に生み出されてくる弁護士が、税務を巡る紛争、知的財産権を巡る紛争、行政を巡る紛争など専門分野において活躍するだけでなく、従来の弁護士業務を超えて法律事務等のあらゆる分野に広く関与し中心的な役割を果たすことが不可欠である。まさにそれが、職務の独立性と自治を有する弁護士に法律事務を付託することによって国民の権利・利益を擁護しようとした72条の趣旨にほかならない。
    日弁連は、増大する弁護士を社会の隅々に配置して「法の支配」を実質化・実効化しようとする司法制度改革の中長期的な展望を視野において、72条問題や隣接法律専門職種の暫定的活用措置に関する議論に対応すべきである。


以上



72条問題の意見書送付先
  1. 内閣の司法制度改革推進本部
    本部長
    顧問会議座長
    法曹制度検討会座長
  2. 法務省
    大臣
    司法法制部
  3. 日弁連
    会長
    司法改革推進本部
    弁護士制度改革推進本部
  4. 日弁連の各ブロック(連合会)
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