意見書・声明
意見書 会長声明等

 「民事訴訟法改正要綱中間試案」に対する意見書

2002年(平成14年)7月2日
司法制度改革推進本部御中

大阪弁護士会

第1 計画審理

(意見)
計画審理について,現行民事訴訟法の争点整理手続の制度内での工夫以上のものを制度としてわざわざ盛り込むことは,訴訟運営を硬直化するおそれがあり,裁判実務に携わる者としては,その必要があるのかについて根本的な疑問が残る。ただし,以下では,その点をひとまず措いて,計画審理の考え方を持ち込むことを前提として意見を述べる。

  1. 裁判所及び当事者の責務
    裁判所及び当事者は,民事訴訟が計画的に進行されるよう務めなければならないものとする。
    (意見)
    反対しない。ただし,努力規定にとどめ,具体的な法的拘束力は持たないようにすべきである。
    (理由)
    一般的には民事訴訟の進行が計画的に行われること自体は望ましいことであるが,訴訟の動態的性質に鑑みれば,訴訟が計画通りに進行しないのはやむを得ない場合があり,それは実務においても往々に見られるところである。
    したがって,このような規定を努力目標として定めることはともかく,具体的に法的拘束力を有する規定として設けることは避けるべきである。

  2. 審理の計画を策定すべき事件
    裁判所は,事件が複雑であるなどその適正かつ迅速な審理の実現のために審理の計画を定める必要があると認められるときは,当事者双方との間で,審理の計画を定めるための協議をし,その結果に基づいて審理の計画を定めなければならないものとする。
    (意見)
    賛成。
    (理由)
    一般の事件は,現行民事訴訟法の争点整理手続と集中証拠調べによって迅速な審理が達成できており,計画審理の制度を持ち込むとしても,それは特殊な事件に限ることで十分である。

  3. 審理の計画の内容
    2の審理の計画には,争点及び証拠の整理を行う期間,証人及び当事者本人の尋問を行う期間,審理の終期その他民事訴訟が計画的に行われるために必要な事項を定めなければならないものとする。
    (意見)
    賛成。

    (注1)審理の計画において,「判決の言渡し時期」を定めるものとする考え方については,なお検討する。
    (意見)
    「判決言渡しの時期」を定めるものとすべきである。
    (理由)
    訴訟は,判決の言渡しをもって完結するものであり,審理が終結されたとしても,判決の言渡しが予定通りに行われなければ,審理の計画を定めてもその意義は半減される。
    審理の計画が「事件が複雑であるなどその適正かつ迅速な審理の実現のため」のものであるのならば,このような審理が実現すれば当然に予定通りに判決の言渡しが可能となるはずであり,判決の言渡しを審理の計画から外す理由はない。裁判所も計画審理の要請の埒外にあるわけではないのである。

    (注2)裁判所は,審理の進行に応じて審理の計画をより具体化するなど,これを変更する必要が生じたときは,改めて当事者双方との間で協議をし,その結果に基づいてこれを変更することができるものとする。
    (意見)
    賛成。
    (理由)
    訴訟の動態的性格を前提にすれば当然のことであり,むしろ,このような手当がないのであれば,計画審理という考え方に対して消極的とならざるを得ない。

  4. 審理の計画の効力
    A案2の審理の計画が定められている場合において,裁判所又は裁判長が特定の事項に関する攻撃又は防御の方法を提出すべき期間を定めたときに,当事者が当該期間を経過した後に提出した当該攻撃又は防御の方法については,これを提出したことにより当該審理の計画の遂行に支障を来すおそれがあると認めたときは,裁判所は,申立てにより又は職権で,却下の決定をすることができるものとする。ただし,その当事者が当該期間内にこれを提出することができなかったことについてやむを得ない事由があることを疎明した場合はこの限りでないものとする。
    B案A案の期間を経過した後に当事者が提出した当該攻撃又は防御の方法の却下については,時機に後れて提出された攻撃又は防御の方法の却下についての一般的規定(法157条1項)の適用によるものとする。
    (意見)
    B案に賛成する。
    (理由)
    A案は,審理の計画に定められた特定の事項に関する攻撃又は防御の方法を提出すべき期間自体に強い法的効果を直結させるものである。しかし,審理の計画自体が変更も予定される変動的なものである以上,そこに定められた期間にあまり強い法的効果を認めるべきではない。しかも,あまり強い制限を設けると,計画審理の適用を受ける複雑な事件の方が弁論準備手続等の途中の段階で攻撃防御方法の提出につき制限を受けることになるという矛盾もある。したがって,この問題に対しては,現行民訴法157条1項(時期に遅れた攻撃防御方法の却下)による処理で十分である。

    (注1)裁判所は,当事者の意見を聴いて,2の審理の計画に定められた「争点及び証拠の整理を行う期間」(争点整理期間)を確定させる旨の裁判をすることができるものとし,当事者が確定された争点整理期間を経過した後に提出した攻撃又は防御の方法については,当該期間内にこれを提出することができなかったことについてやむを得ない事由があることを疎明しない限り,これを却下することができるものとする考え方については,なお検討する。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    争点整理期間を確定することは,訴訟の進行を徒に硬直化するうえ,それを裁判によるものとすると,不服申立方法を手当てする等,訴訟手続が複雑になる。また,争点整理期間を確定させるためだけに時間を要することも生じ,迅速な裁判という目的に反する結果にもなりかねない。

    (注2)特定の事項に関する攻撃又は防御の方法を提出すべき期間が定められている場合において,当事者が当該期間を経過した後に当該攻撃又は防御の方法を提出したことにより2の審理の計画の遂行を妨げ,訴訟を遅滞させたときは,裁判所は,訴訟費用の一部(ただし,遅滞によって生じたものではないと認められる訴訟費用を除く。)を負担させることができるものとする考え方については,なお検討する。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    提出期間に間接的に拘束力をもたせようとするものであるが,現行民訴法63条で賄える範囲に留めるべきである。

第2 証拠収集等の手続の拡充

(意見)
訴え提起前の証拠収集等の方法を拡充すること自体については基本的に賛成する。たこの制度があることをもって当事者の事前の証拠等の収集を義務的なものと考えるべきではない。
なお,この問題は,本来は弁護士法23条の2による照会制度の拡充も視野に入れたうえで議論されるべきであるが,立法技術上の都合で弁護士法上の制度の拡充が等閑視されているのは,問題である。

  1. 提訴予告通知制度
    訴えの提起をしようとする者は,当該訴えの相手方となるべき者に対して当該訴えの提起を予告する旨の書面による通知(以下「提訴予告通知」という。)をしたときは,提訴予告通知した者(以下「通知者」という。)及び提訴予告通知を受けた者(以下「被通知者」という。)は,2以下の証拠収集等の手続を利用することができるものとする。
    (意見)
    賛成。但し,(注1)において,<1>の提訴しようとする訴えの請求の概要及び紛争の要点の記載を前提とすべきである。
    また,提訴予告通知を行い,2以下で定める証拠収集等の手続を利用しながら,実際に提訴をしなかった場合の措置についても検討すべきである。
    (理由)
    提訴予告通知制度を設けること自体には反対しないが,濫用を回避するために上記程度の記載を条件とすべきである。
    更に,濫用(提訴予告通知自体の濫用,収集された証拠の流用等)対策も併せて検討すべきである。

    (注1)提訴予告通知の記載事項については,
    <1>提起しようとする訴えの請求の概要及び紛争の要点(法272条,民事調停規則2条参照),
    <2>訴えの提起をする旨の告知
    で足りるものとするとの考え方も含め,なお検討する。
    (意見)
    <1>に賛成する。
    (理由)
    <2>の「訴えの提起をする旨の告知」だけでは,濫用を防止することができない。
    提訴予告通知を受けた場合,被通知者としても,任意に協力する場合を含め対応を検討する必要があるが,提訴内容が不明では対応が困難である。

    (注2)提訴予告通知がされた場合の効果については,例えば,
    <1>証拠収集等の手続の利用を一定期間内に限るものとする考え方,
    <2>証拠収集等の手続が行われた場合には通知者は訴えの提起についての意向を改めて明らかにすべきものとする考え方,
    <3>証拠収集等の手続に要した費用を訴訟費用とする余地を認めるものとする考え方
    も含め,なお検討する。
    (意見)
    <1>,<2>,<3>いずれの考え方にも賛成する。

    (注3)被通知者が証拠収集等の手続を利用する場合には,
    <1>被通知者があらかじめ提訴予告通知に対する回答を書面でしたことを要件とするか否か,
    <2>これを要件とする場合に,どのような事項を当該書面の記載事項とすべきかについては,なお検討する。
    (意見)
    <1>の考え方に賛成する。
    <2>については,提訴予告通知と同程度の記載を要求すべきである。

    (注4)通知者及び被通知者は,必ず訴訟代理人となりうる弁護士等を代理人として,提訴予告通知及びこれに対する回答並びに証拠収集等の手続における申立て等を行わなければならないものとする考え方については,なお検討する。
    (意見)
    賛成(資格を有する代理人による場合に限定すべきである)。
    (理由)
    濫用防止のために必要な手当である。

  2. 訴えの提起前における当事者照会
    通知者又は被通知者は,相手方に対し,訴えが提起された場合の主張又は立証を準備するために必要な事項について,相当の期間を定めて,書面で回答するよう,書面で照会をすることができるものとする(法163条参照。)
    (意見)
    賛成。

    (注)通知者が被通知者に対して照会をする場合には,
    <1>被通知者が照会に応ずるとの書面による同意をすることを要件とするか否か,
    <2>被通知者が照会に応じないとの書面による拒絶をしないことを要件とするか否かについては,なお検討する。
    (意見)
    <1><2>いずれにも反対。
    訴え提起前の当事者照会の制度が,訴え提起後の現行民訴163条と同様のものであれば,被照会者は,照会が濫用的な一定の場合には,回答を拒否することができるのであるから,特にこの制度を用いるための要件を定める必要はない。

  3. 訴えの提起前における証拠収集手続
    (意見)
    証拠収集方法としては,このほか文書提出命令も,それが認められる要件を厳格にして,導入を検討すべきである。

    (1)文書の送付の嘱託
    裁判所は,通知者又は被通知者の申立てにより,一定の要件((注)参照)の下で,文書の送付を嘱託することができる手続を設けるものとする。
    (意見)
    賛成。

    (注)文書の送付の嘱託又は後記(2)の調査の嘱託の申立ての要件については,例えば,申立てに係る文書等が請求の理由の存否に係る証拠となるべきものであることが争点及び証拠の整理を行わなくとも明かで,かつ,これを自ら収集することが困難であることを要するものとする考え方も含め,なお検討する。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    提訴予告通知の段階で,証拠となるべきものであることが争点及び証拠の整理を行わなくても明らかであるという要件は厳格に過ぎる。
    要件を課すのであれば,もっと緩やかな要件とすべきである。

    (2)調査の嘱託
    裁判所は,通知者又は被通知者の申立てにより,一定の要件((1)(注)参照)の下で,調査を嘱託することができる手続を設けるものとする。
    (意見)
    賛成。

    (注)この制度の導入に当たっては,これが訴え提起前の手続であることにかんがみ,濫用的な申立てを防止することが必要であることから,そのための手当てが必要と思われるが,その方法については,調査事項の範囲を限定することを含め,なお検討する。
    (意見)
    (1)と同様,要件を厳格にしすぎると実際上利用できなくなるおそれがあることに配慮すべきである。特に,文書送付嘱託よりも,調査嘱託の方が利用頻度も実際の利用度も高い(たとえば,文書送付嘱託では文書の特定が必要であるが,調査嘱託では文書の記載内容を直接尋ねることができる)から,この制度の利用を制限する結果とならないよう注意が必要である。

    (3)判定の嘱託
    裁判所は,通知者又は被通知者の申立てにより,一定の要件((注)参照)の下で,専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託することができる手続を設けるものとする。
    (意見)
    賛成。ただし,判定意見が十分役立つものとなるよう,前提事実が十分具体化される等の前提条件を整備しておく必要がある。
    (理由)
    専門的な知識経験を有する者にその専門的知識経験に基づく意見を求めるには,前提となる具体的な事実が明らかになっている必要があると考えられるが,提訴予告通知の段階ではこのような前提事実が具体的に明らかになっていることは多くなく,そのような場合にはこの制度を利用する実益に乏しい。

    (注)判定の嘱託の申立ての要件については,(1)(注)と同様の要件に加え,嘱託を受ける者の負担等を考慮してどのような要件を課すものとするのかについては,なお検討する。
    (意見)
    仮にこの制度を設けるとしても,嘱託を受ける者の負担を考えると,意見を述べるに足りるための事実が明らかになっていることが必要である。

    (4)現地調査手続
    裁判所は,通知者又は被通知者の申立てにより,一定の要件((注)参照)の下で,執行官に対し,紛争の現場の状況の調査を命ずることができる手続を設けるものとする。
    (意見)
    賛成。ただし,相手方の立会権とそれを実質化するための事前通知を保障すべきである。
    (理由)
    現場の立入り等を法的に可能とするものであり意義があるが,他方で将来証拠となることを考えると,相手方当事者に立ち会う機会を実質的に保障しておく必要がある。

    (注)現地調査手続の申立ての要件については,(1)(注)と同様の要件も含め,どのような要件を課すものとするのかについては,なお検討する。
    (意見)
    要件を厳しくしすぎると,実際上利用価値がなくなるおそれがあることに注意する必要がある。

第3 専門訴訟への対応の強化
(意見)
専門委員制度は,専門員の中立性・公平性を確保できるか疑問があるうえ,実質的な鑑定になるおそれもあるもので,基本的に反対であるが,以下では,この制度を導入するとした場合の意見を述べる。

  1. 専門委員
    (1)専門委員からの意見聴取等
    A案
    裁判所は争点若しくは証拠の整理又は訴訟の進行に関し必要な事項についての協議を行うに当たり専門的な知識経験が必要であると認めるときは,当事者の意見を聴いて,ア当事者双方が立ち会うことができる期日において,専門委員の専門的な知識経験に基づく意見を聴くことができるものとする。
    イ専門委員に対し,特定の事項についての調査を命ずることができるものとする。
    (注)イにおいては,専門委員は,調査の結果を書面で裁判所に報告しなければならないものとし,裁判所は,当該書面の写しを当事者双方に送付しなければならないものとする。
    B案
    アA案(ア,イ)と同じ。
    イ裁判所は,証拠調べを行うに当たり専門的な知識経験が必要であると認めるときは,当事者の意見を聴いて,証拠調べを行う期日に専門委員を立ち会わせることができるものとし,この場合において,専門委員は,裁判長の許可を得て,証人,当事者本人又は鑑定人に対して直接発問をすることができるものとする。
    ウ裁判所は,和解を試みるに当たり専門的な知識経験が必要であると認めるときは,当事者の意見を聴いて,当事者双方が立ち会うことができる期日において,専門委員の専門的な知識経験に基づく意見を聴くことができるものとする。
    C−1案
    A案において専門委員の事件への関与を認めるに当たり,当事者の意見を聴くことを要件としているのを,これに代えて,当事者の同意を得ることを要件とする案。
    C−2案
    B案において専門委員の事件への関与を認めるに当たり,当事者の意見を聴くことを要件としているのを,これに代えて,当事者の同意を得ることを要件とする案。
    (意見)
    C−1案のうち専門員の権限をA案のアに限る案に賛成する。
    (理由)
    専門委員を必要とするか否かは,双方当事者の利害に関するのであるから,双方当事者の同意を要求すべきである。裁判所の便宜のみで要否を決すべきものではない。したがっって,当事者の意見を聴くにとどまるA案,B案は採用できない。
    次に,C案のうち,C−1案がA案と,また,C−2案がB案とそれぞれ同内容の関与を予定していることから,A案,B案がそれぞれ予定している専門委員の関与のどこまでを認めることが妥当かということになる。
    この点,B案は,A案の関与に加え,証拠調べ,和解への関与を認め,更に証拠調べの際に裁判所の許可を得ての発問までを認めるが,証拠調べは裁判の心証を形成する主要な部分であり,専門委員が裁判官の補助機関として専門的知識の提供を目的とするにすぎないのであるから,裁判官の心証形成への専門員の関与を安易に認めるべきではない。更に,それでは鑑定人との境界が不明瞭になることも問題である。
    また,和解との関連においても,ここで想定されている和解は,ある程度の証拠調べを経た上での和解と考えられ,心証が形成されていることを前提とせざるを得ない以上,上記証拠調について専門委員の関与を排除するのと同様の理由で排除すべきであると考える。
    翻って,A案の是非について検討するに,A案が予定する「専門的な知識経験に基づく意見を聴く」という内容は,あくまでも「争点もしくは証拠の整理又は訴訟の進行に関し必要な事項」,即ち,争点整理にとどまるのであれば,心証形成の主要な部分に関係するものではないから,当事者が同意するのであれば専門委員の立会も認めることは許されるのではないかと考える。ただ,イの「調査」は内容が曖昧で実質的に証拠調べの領域にまで踏み込んでしまう恐れもあり,他方,アの「意見」の開陳の前提としての「調査」であればアの項目で賄えることであるので,イの項目ははずすべきである(もし,イまでを行わせることにするのであれば,専門委員から提出された報告書を当事者双方に送付すすべきは当然である)。
    なお,弁論主義の観点から,専門員が当事者が気づいていない争点を示唆したり,当事者の主張を補充したりすることのないよう手当てしておく必要がある。

    (注1)C−1案及びC−2案については,各案が認める関与方法の一部についてのみ当事者の同意を得ることを要件とする案も考えられるので,これらの案についても,なお検討するものとする。
    (意見)
    当事者の同意は,専門員の関与自体について要求すべきで,個々の事項ごとの同意とすべきではない。

    (注2)専門委員は,裁判所及び当事者双方との間で音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって意見を述べることができるものとする。
    (意見)
    簡単な事項であれば,強いて反対はしないが,原則的には立ち会うべきである。

    (2)専門委員の指定
    裁判所は,当事者の意見を聴いて,事件に関与させるべき専門委員を指定するものとする。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    意見を聴取するだけではなく,同意を求めるべきである。専門分野においては,見解の対立が顕名な場合もあり得る。

    (注)裁判官の除斥・忌避に関する法23条から26条までの規定を専門員について準用するものとする考え方についてはなお検討する。
    (意見)
    賛成。

    (後注)専門委員の任免及び手当のあり方についてはなお検討する。
    (意見)
    任免の方法,手当ともに,公平に専門的な知識経験に基づく意見を提供してくれる適切な専門委員が選ばれるよう慎重に検討すべきである。

  2. 鑑定
    (1)鑑定人に対する質問
    ア 裁判所は,鑑定人に書面で意見を述べさせた場合において,当該意見の内容を明瞭にするため必要があると認めるときは,そのために必要と認める事項について,申立てにより又は職権で,更に書面又は口頭で意見を述べさせることができるものとする。
    (意見)
    賛成。

    (注)裁判所は,鑑定書が提出された後に進行協議期日等を利用して,鑑定人に更に意見を述べさせる事項について当事者双方との間で協議をすることができるものとする。
    (意見)
    賛成。

    イ アにより鑑定人が更に口頭で意見を述べる場合には,裁判所は,まず鑑定人に意見を述べさせるものとする。
    (意見)
    賛成。

    ウ イの場合において,鑑定人に対する質問は,裁判長,その鑑定の申出をした当事者,他の当事者の順序でするものとし,裁判長は,適当と認めるときは,この順序を変更することができるものとする。
    (意見)
    賛成。

    (注)ウの場合における当事者から鑑定人に対する質問の方式については,いわゆる一問一答方式(民事訴訟規則115条1項参照)による必要がないものとする等,所要の手当てをするものとする。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    当事者からの尋問は,一問一答を原則とすべきである。

    (後注)いわゆる口頭鑑定による場合の取扱いについて
    ア 裁判所が鑑定人に当初口頭で意見を述べさせる場合についても,本文イ,ウと同様とするものとする。
    イ 裁判所が鑑定人に当初口頭で意見を述べさせた場合において,当該意見を明瞭にする必要があると認めるときも,本文アからウまでと同様とするものとする。
    (意見)
    いずれも賛成。

    (2)テレビ会議システムを利用した鑑定人の意見陳述
    裁判所は鑑定人に対して口頭で意見を述べさせる場合において,鑑定人が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,隔地者が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,鑑定人に意見を述べさせることができるものとする。
    (意見)
    賛成。ただし,簡単な事項に限るべきである。
    (理由)
    テレビ会議システムでは,複雑な事項についてのコミュニケーションは,対面の場合に比べて不十分である。

    (後注1)裁判長は,鑑定人に書面で意見を述べさせる場合には,鑑定人の意見を聴いて書面の提出期限を定めることができるものとする。
    (意見)
    賛成。

    (後注2)裁判所は,鑑定を命じた後に進行協議期日等を利用して,鑑定事項の内容及び鑑定資料等について当事者双方及び鑑定人との間で協議をすることができ
    るものとする。
    (意見)
    賛成。

  3. 特許権等に関する訴えの専属管轄化
    (1)特許権等に関する訴えの管轄
    特許権,実用新案権,回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について,法4条及び5条の規定により,東京高等裁判所,名古屋高等裁判所,仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に管轄権が認められる場合には,東京地方裁判所の管轄に専属するものとし,大阪高等裁判所,広島高等裁判所,福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に管轄権が認められる場合には,大阪地方裁判所の管轄に専属するものとする。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    現行民事訴訟法6条の併存的管轄で十分であり,合意管轄や応訴管轄まで排除する専属管轄とする必要性は全くない。むしろ,裁判所は,特許権等の専門訴訟については専門家を養成して東京,大阪以外の裁判所にも専門家である裁判官を配置する方向で検討するのが本筋である。

    (注1)著作権,商標権,意匠権及び不正競争防止法に関する訴えについても東京地方裁判所又は大阪地方裁判所の管轄に専属するものとするとする考え方については,なお検討する。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    上記(1)での理由に加え,これらについての訴訟の専門性は,上記の特許権等の場合ほどに高くなく,一層強い理由でその必要がない。

    (注2)特許権等に関する訴えの控訴事件は,東京高等裁判所の管轄に専属するものとする考え方については,なお検討する。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    上記(1)での理由に加え,わが国の知的財産法分野での実情からすると,高等裁判所間で意見が分かれるような重要な問題については,多様な意見が出されたうえで,最高裁によって見解が統一されるというプロセスを経る方が議論が深まり望ましいことであって,このような観点からも,控訴審裁判所を一つに限定すべきではない。
    なお,この問題については,既に当会から日弁連宛平成14年6月18日付の意見書で,より詳細で多角的な理由を付して,反対意見を提出している。

    (2)移送の特例
    特許権等に関する訴えについての審理を東京地方裁判所及び大阪地方裁判所以外の地方裁判所で行うことができるようにするための移送制度を設けるものとする。
    (意見)
    賛成。
    (理由)
    上記(1)について専属管轄を認めるのであれば,移送の規定がある方が柔軟で望ましい。


第4 簡易裁判所の機能の充実
  1. 少額訴訟に関する特則
    少額訴訟に関する特則が適用される事件の範囲を定める訴額の上限額を引き上げるものとする。
    (意見)
    反対しない。但し,少額訴訟を創設してさほど時間が経過していない現状において,具体的にどのような必要があるのか子細に検討したうえでのこととすべきである。
    (理由)
    少額訴訟創設に際しては,訴額の上限について相当な議論を踏まえて判断したはずである。にもかかわらず,現時点でこれを改正するのであれば,その具体的必要性について検討することが不可欠である。

    (注)引上げの額については,簡易裁判所の事物管轄の拡大に関する検討に留意しつつ,なお検討する。
    (意見)
    簡易裁判所の事物管轄の拡大に留意する必要はあるが,少額訴訟は基本的に本人が申立て処理を委ねるのが妥当かという観点から訴額の上限を画したのであり,必ずしも連動させる必要はない。

  2. 和解に代わる決定
    (1)金銭の支払の請求を目的とする訴えについては,裁判所は,被告が原告の主張する事実を争わず,その他何らの防御の方法をも提出しない場合において,相当であると認めるときは,後記(3)の期間の経過時から一定の期間(例えば5年)を超えない範囲内において,原告の請求に係る金銭の支払について,その時期の定め若しくは分割払の定めをし,又はこれと併せて,その時期の定めに従い支払をしたとき,若しくはその分割払の定めによる期限の利益を後記(2)の定めにより失うことなく支払をしたときは訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めを付して原告の請求に係る金銭の支払を命ずる決定をすることができるものとする。
    (意見)
    賛成。

    (2)(1)の分割払の定めをするときは,被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならないものとする。
    (意見)
    賛成。

    (3)(1)の決定に対しては,当事者は,異議の申立てをすることができ,その期間は,当事者が決定の告知を受けた日から2週間とするものとする。
    (意見)
    賛成。

    (4)(3)の期間内に異議の申立てがあったときは,(1)の決定は,その効力を失うものとする。
    (意見)
    賛成。

    (5)(3)の期間内に異議の申立てがない場合には,裁判上の和解が成立したときと同様とするものとする。
    (意見)
    賛成。

    (後注)簡易裁判所における新たな手続として,一定額以下の金銭の支払の請求を目的とする申立てについて,1回の審尋期日において審理を完了し,直ちに決定を行うものとする手続(少額審判手続)を設けることについて検討をするものとする。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    裁判所が行う手続として,正義の理念からはあまりにも遠ざかるおそれがあり,支払を命じられた者の負担が大きく,かえって国民の裁判所に対する信頼を揺るがし,不服申立てが増えて,弊害の方が目立つ結果になると考えられる。


第5 裁判所への情報通信技術(IT)の導入
督促手続のオンライン化
督促手続において,インターネットを利用して支払督促の申立てをすることができるものとするとともに,支払督促の作成等を電磁的方法により行うことができるものとするための所要の手当てを講ずるものとする。
(意見)
賛成。

(後注)督促手続以外の民事訴訟に関する手続のオンライン化についても検討をするものとする。
(意見)
賛成。

第6 その他
  1. 電話会議システムを利用した弁論準備手続期日における和解等
    裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,弁論準備手続の期日における手続が行われる場合において,当該期日に出頭しないで当該手続に関与する当事者は,当該期日において,訴えの取下げ,和解並びに請求の放棄及び認諾をすることができるものとする。
    (意見)
    反対しない。但し,専門家たる代理人が選任されている場合に限定すべきである。
    (理由)
    現行民事訴訟法制定の際,本人の意思確認の必要性を考慮して敢えて除外したのであるから,意思確認に代替できるだけの制度的保障を確保すべきである。したがって,専門家としての資格を有する代理人が選任されている場合に限定すべきである。

  2. 受命裁判官による文書の証拠調べ
    弁論準備手続を行う受命裁判官は,書証の申出(文書提出命令の申立てを除く。)についての裁判を行い,文書の証拠調べをすることができるものとする。
    (意見)
    反対。
    (理由)
    現行民事訴訟法制定の際,文書の証拠調べも心証形成の重要な場面であることから,意図的に受命裁判官による場合には排除した経緯に鑑み,それを覆すだけの合理性は見いだし難い。

以上

「民事訴訟法改正要綱中間試案」に対する意見書執行先
  1. 日弁連(意見照会に対する上申)
  2. 法務大臣
  3. 法務省民事局参事官室
  4. 司法制度改革推進本部
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