- 専門委員
(1)専門委員からの意見聴取等
A案
裁判所は争点若しくは証拠の整理又は訴訟の進行に関し必要な事項についての協議を行うに当たり専門的な知識経験が必要であると認めるときは,当事者の意見を聴いて,ア当事者双方が立ち会うことができる期日において,専門委員の専門的な知識経験に基づく意見を聴くことができるものとする。
イ専門委員に対し,特定の事項についての調査を命ずることができるものとする。
(注)イにおいては,専門委員は,調査の結果を書面で裁判所に報告しなければならないものとし,裁判所は,当該書面の写しを当事者双方に送付しなければならないものとする。
B案
アA案(ア,イ)と同じ。
イ裁判所は,証拠調べを行うに当たり専門的な知識経験が必要であると認めるときは,当事者の意見を聴いて,証拠調べを行う期日に専門委員を立ち会わせることができるものとし,この場合において,専門委員は,裁判長の許可を得て,証人,当事者本人又は鑑定人に対して直接発問をすることができるものとする。
ウ裁判所は,和解を試みるに当たり専門的な知識経験が必要であると認めるときは,当事者の意見を聴いて,当事者双方が立ち会うことができる期日において,専門委員の専門的な知識経験に基づく意見を聴くことができるものとする。
C−1案
A案において専門委員の事件への関与を認めるに当たり,当事者の意見を聴くことを要件としているのを,これに代えて,当事者の同意を得ることを要件とする案。
C−2案
B案において専門委員の事件への関与を認めるに当たり,当事者の意見を聴くことを要件としているのを,これに代えて,当事者の同意を得ることを要件とする案。
(意見)
C−1案のうち専門員の権限をA案のアに限る案に賛成する。
(理由)
専門委員を必要とするか否かは,双方当事者の利害に関するのであるから,双方当事者の同意を要求すべきである。裁判所の便宜のみで要否を決すべきものではない。したがっって,当事者の意見を聴くにとどまるA案,B案は採用できない。
次に,C案のうち,C−1案がA案と,また,C−2案がB案とそれぞれ同内容の関与を予定していることから,A案,B案がそれぞれ予定している専門委員の関与のどこまでを認めることが妥当かということになる。
この点,B案は,A案の関与に加え,証拠調べ,和解への関与を認め,更に証拠調べの際に裁判所の許可を得ての発問までを認めるが,証拠調べは裁判の心証を形成する主要な部分であり,専門委員が裁判官の補助機関として専門的知識の提供を目的とするにすぎないのであるから,裁判官の心証形成への専門員の関与を安易に認めるべきではない。更に,それでは鑑定人との境界が不明瞭になることも問題である。
また,和解との関連においても,ここで想定されている和解は,ある程度の証拠調べを経た上での和解と考えられ,心証が形成されていることを前提とせざるを得ない以上,上記証拠調について専門委員の関与を排除するのと同様の理由で排除すべきであると考える。
翻って,A案の是非について検討するに,A案が予定する「専門的な知識経験に基づく意見を聴く」という内容は,あくまでも「争点もしくは証拠の整理又は訴訟の進行に関し必要な事項」,即ち,争点整理にとどまるのであれば,心証形成の主要な部分に関係するものではないから,当事者が同意するのであれば専門委員の立会も認めることは許されるのではないかと考える。ただ,イの「調査」は内容が曖昧で実質的に証拠調べの領域にまで踏み込んでしまう恐れもあり,他方,アの「意見」の開陳の前提としての「調査」であればアの項目で賄えることであるので,イの項目ははずすべきである(もし,イまでを行わせることにするのであれば,専門委員から提出された報告書を当事者双方に送付すすべきは当然である)。
なお,弁論主義の観点から,専門員が当事者が気づいていない争点を示唆したり,当事者の主張を補充したりすることのないよう手当てしておく必要がある。
(注1)C−1案及びC−2案については,各案が認める関与方法の一部についてのみ当事者の同意を得ることを要件とする案も考えられるので,これらの案についても,なお検討するものとする。
(意見)
当事者の同意は,専門員の関与自体について要求すべきで,個々の事項ごとの同意とすべきではない。
(注2)専門委員は,裁判所及び当事者双方との間で音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって意見を述べることができるものとする。
(意見)
簡単な事項であれば,強いて反対はしないが,原則的には立ち会うべきである。
(2)専門委員の指定
裁判所は,当事者の意見を聴いて,事件に関与させるべき専門委員を指定するものとする。
(意見)
反対。
(理由)
意見を聴取するだけではなく,同意を求めるべきである。専門分野においては,見解の対立が顕名な場合もあり得る。
(注)裁判官の除斥・忌避に関する法23条から26条までの規定を専門員について準用するものとする考え方についてはなお検討する。
(意見)
賛成。
(後注)専門委員の任免及び手当のあり方についてはなお検討する。
(意見)
任免の方法,手当ともに,公平に専門的な知識経験に基づく意見を提供してくれる適切な専門委員が選ばれるよう慎重に検討すべきである。
- 鑑定
(1)鑑定人に対する質問
ア 裁判所は,鑑定人に書面で意見を述べさせた場合において,当該意見の内容を明瞭にするため必要があると認めるときは,そのために必要と認める事項について,申立てにより又は職権で,更に書面又は口頭で意見を述べさせることができるものとする。
(意見)
賛成。
(注)裁判所は,鑑定書が提出された後に進行協議期日等を利用して,鑑定人に更に意見を述べさせる事項について当事者双方との間で協議をすることができるものとする。
(意見)
賛成。
イ アにより鑑定人が更に口頭で意見を述べる場合には,裁判所は,まず鑑定人に意見を述べさせるものとする。
(意見)
賛成。
ウ イの場合において,鑑定人に対する質問は,裁判長,その鑑定の申出をした当事者,他の当事者の順序でするものとし,裁判長は,適当と認めるときは,この順序を変更することができるものとする。
(意見)
賛成。
(注)ウの場合における当事者から鑑定人に対する質問の方式については,いわゆる一問一答方式(民事訴訟規則115条1項参照)による必要がないものとする等,所要の手当てをするものとする。
(意見)
反対。
(理由)
当事者からの尋問は,一問一答を原則とすべきである。
(後注)いわゆる口頭鑑定による場合の取扱いについて
ア 裁判所が鑑定人に当初口頭で意見を述べさせる場合についても,本文イ,ウと同様とするものとする。
イ 裁判所が鑑定人に当初口頭で意見を述べさせた場合において,当該意見を明瞭にする必要があると認めるときも,本文アからウまでと同様とするものとする。
(意見)
いずれも賛成。
(2)テレビ会議システムを利用した鑑定人の意見陳述
裁判所は鑑定人に対して口頭で意見を述べさせる場合において,鑑定人が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,隔地者が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,鑑定人に意見を述べさせることができるものとする。
(意見)
賛成。ただし,簡単な事項に限るべきである。
(理由)
テレビ会議システムでは,複雑な事項についてのコミュニケーションは,対面の場合に比べて不十分である。
(後注1)裁判長は,鑑定人に書面で意見を述べさせる場合には,鑑定人の意見を聴いて書面の提出期限を定めることができるものとする。
(意見)
賛成。
(後注2)裁判所は,鑑定を命じた後に進行協議期日等を利用して,鑑定事項の内容及び鑑定資料等について当事者双方及び鑑定人との間で協議をすることができ
るものとする。
(意見)
賛成。
- 特許権等に関する訴えの専属管轄化
(1)特許権等に関する訴えの管轄
特許権,実用新案権,回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について,法4条及び5条の規定により,東京高等裁判所,名古屋高等裁判所,仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に管轄権が認められる場合には,東京地方裁判所の管轄に専属するものとし,大阪高等裁判所,広島高等裁判所,福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に管轄権が認められる場合には,大阪地方裁判所の管轄に専属するものとする。
(意見)
反対。
(理由)
現行民事訴訟法6条の併存的管轄で十分であり,合意管轄や応訴管轄まで排除する専属管轄とする必要性は全くない。むしろ,裁判所は,特許権等の専門訴訟については専門家を養成して東京,大阪以外の裁判所にも専門家である裁判官を配置する方向で検討するのが本筋である。
(注1)著作権,商標権,意匠権及び不正競争防止法に関する訴えについても東京地方裁判所又は大阪地方裁判所の管轄に専属するものとするとする考え方については,なお検討する。
(意見)
反対。
(理由)
上記(1)での理由に加え,これらについての訴訟の専門性は,上記の特許権等の場合ほどに高くなく,一層強い理由でその必要がない。
(注2)特許権等に関する訴えの控訴事件は,東京高等裁判所の管轄に専属するものとする考え方については,なお検討する。
(意見)
反対。
(理由)
上記(1)での理由に加え,わが国の知的財産法分野での実情からすると,高等裁判所間で意見が分かれるような重要な問題については,多様な意見が出されたうえで,最高裁によって見解が統一されるというプロセスを経る方が議論が深まり望ましいことであって,このような観点からも,控訴審裁判所を一つに限定すべきではない。
なお,この問題については,既に当会から日弁連宛平成14年6月18日付の意見書で,より詳細で多角的な理由を付して,反対意見を提出している。
(2)移送の特例
特許権等に関する訴えについての審理を東京地方裁判所及び大阪地方裁判所以外の地方裁判所で行うことができるようにするための移送制度を設けるものとする。
(意見)
賛成。
(理由)
上記(1)について専属管轄を認めるのであれば,移送の規定がある方が柔軟で望ましい。