意見書・声明
意見書 会長声明等

 弁護士の職務の独立性保持に関する意見書

2002(平成14年)年12月3日
大阪弁護士会
第1 意見の趣旨

弁護士法30条の改正に伴い、弁護士法2条を以下の通り改正すべきである。



2条 (弁護士の職責の根本基準)
弁護士は、職務の遂行において、独立性を保持しなければならない。

2項(現行法第1項)
弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令および法律事務に精通しなければならない。 

第2 意見の理由

  1. はじめに
     司法制度改革審議会の意見書を踏まえて、現在、司法制度改革推進本部において、弁護士法30条に関する改正の検討が進んでいる。
     弁護士法30条の改正については、既に本年3月15日の日弁理事会において以下の決議がなされている。
    1. 弁護士の公職の兼職禁止を原則届け出制にする。
    2. 常勤の公職在職者の弁護士職務への従事禁止を廃止する。
    3. 営業の許可の制度を届出制にする。  
    4. 公職就任および企業などに雇用されもしくは役員等として就任する場合の弁護士職務の独立性の保持についての措置を検討する。
     その後、日弁連では、上記決議を踏まえて、30条本文および弁護士職務の独立性保持について議論がなされているが、本意見書は、独立性の保持について当会における議論を集約し意見を述べるものである。
     なお、30条本文の改正については、以下の内容で検討されていることを前提に、本意見を述べるものである。
     〔第30条の改正案〕
     「弁護士が、営業を目的とする業務を営み、若しくはこれを営む者の使用人となり、又は営利を目的とする法人の執行役、取締役若しくは使用人となるときは、予め所属弁護士会に対してその業務の内容等を届け出なければならない。
     但し、特別の事情により、事前の届出が困難である場合は、業務開始後又は法人等への就任、就職後速やかに届け出なければならない。」

  2. 弁護士の「独立性」保持義務を法律で規定することの意義
     弁護士の職務の独立性については、従来、法律上及び実務上、当然の前提であるとの認識があったが、正面からそれを強調する議論はさほどなされていなかった。後に述べるとおり、我が国においては平成2年3月2日の日弁連決議による弁護士倫理の策定において明確に規定されたが、それ以外には弁護士の独立性を規定するものはなかった。
     しかし、司法研修所や各弁護士会での研修などを通じて、弁護士業務を遂行する際の基本原則として、弁護士の独立性および倫理性は常に取り上げられていたものであり、弁護士の独立性・倫理性は、国民からも当然のこととして求められていたものであると言える。
     弁護士の業務執行上における自由を確保すること、すなわち権力と依頼者からの独立性を持つとともに、その行動が高い倫理性に裏付けられていなければならないことは、司法機能の重要な一端を担うものとして、基本的な特性であるといえる。
     ところで、現行弁護士法第30条の規定の下にあっては、公務員との兼職は原則的に禁止され、営業などについては許可が必要とされているが、それが、公務員については兼職が認められ、営業などについては届出制に改正されようとしている。
     更に、今後弁護士人口が飛躍的に増加し、これらの領域に多数の弁護士が進出しようとしている中にあって、弁護士の独立性と倫理性は、弁護士法において明文を以て定め、全弁護士に自覚させるとともに、弁護士職務の、この特性を国民に理解してもらう必要がある。それが、我が国の法治国家としての基盤を強固にし、法の支配を社会の隅々にまで行き渡らせる所以であると考える。
     以下、弁護士の独立性について、我が国の法体系の中での検討をするとともに、諸外国の事情をも検討して、その条項の必要性について述べる。

  3. 日本国憲法と弁護士の職務の独立性について
    「すべての司法権は最高裁判所及び法律の定めるところにより設置される下級裁判所に属する。」(憲法76条1項)
    「すべての裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(同条2項)
     憲法のこの規定は、国民の基本的人権の保障の確保を重要な目的として、質量ともに司法権の拡大強化をはかったものであり、アメリカ型の司法権優位の原理が導入されたものであり、他の憲法上の制度と相まって司法権の独立を謳ったものである。
     更に、裁判官には憲法上の身分保障がされ(78条)、裁判官の独立性が担保されている。
     弁護士は、民間人であって裁判所の構成員ではないが、国民の基本的人権の擁護者として、司法過程において不可欠な役割を担うものであり、司法権の実現の一翼を担う存在として憲法上も位置付けられているものである。憲法34条、37条が「弁護人に依頼する」権利を、被疑者・被告人に認めていることはそのことを端的に示していると言える。
     そして、弁護士が職務を行うにあたり、国家権力ばかりでなく、依頼者からも独立した立場で職務を行うことも、司法制度の一翼を担う弁護士には必要なことである。それが、引いては全体としての弁護士あるいは司法に対する国民の信頼を得るものとなるからである。
     国の司法制度に対する国民の信頼は、その制度の担い手に対する信頼から醸成されるものであり、担い手の一人である裁判官には、憲法76条3項で「すべて裁判官は、その良心に従い独立して職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」と規定されている。
     弁護士の憲法上の職責から鑑みれば、裁判官とは異なる立場での担い手であるが、「弁護士は、その良心に従い職務を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」ということが言えるのである。
     なお、刑事事件に関して司法の重要な一翼を担っている検察官も、通常の行政官とは異なり、独任制官庁として個々に国家を代表するものとされ、その意に反して官を失い職務を停止されたりなどしないという意味での独立性を付与されている。これは、同じく、司法権の独立の一つの表れであるといえる。

  4. 弁護士倫理(平成2年3月2日決議、平成6年11月22日改正)と弁護士の独立性
     弁護士法1条の使命を果たす上では、何よりも職務の自由と独立性が守られなければならないとの観点から、日弁連が総会決議で定めた弁護士倫理の第2条は「弁護士は、職務の自由と独立を重んじる」と宣言し、また、18条では、「弁護士は、事件の受任及び処理にあって、自由かつ独立の立場を保持するように努めなければならない」としている。

  5. プロフェションとしての独立性 
     新たに規定を設けようとする「弁護士の独立性」の意味は、次のとおりである。
     弁護士の職務の独立性とは、「弁護士が、弁護士として判断する場合に、地位上、組織上あるいは指揮命令系統上、上下関係があろうとも、その法的判断については法と良心に従った判断をすべきものである」との理念をいうものである。
     他方において、独立性をもって「法律上の独立性」ととらえ、一方が他方から指揮監督されることのない関係とする考え方もある。
     現行弁護士法30条において、一定の例外ではあるとしても公務員との兼職を認め、会社などの使用人や取締役になることも弁護士会の許可があれば可能であるとしているが、これは、弁護士の独立性について、「法律上の独立性」をいうのではなく、前記「プロフェッションとしての独立性」という考え方を弁護士法は採用しているものと言える。
     経営のトップは、企業内法律家を採用したときから、ビジネス活動において法と倫理の尊重こそが、企業に利益をもたらし、公共の利益に奉仕することを認識しているはずである。
     もっとも、イタリアやフランスにおいては、弁護士の独立性を「法律上の独立性」ととらえ、弁護士は会社などの使用人となれず、雇用されたときは弁護士の名称や秘匿特権を与えられないという制度を採っている。また、ドイツでは、企業で勤務している者でも、別途申請があるときは、その限りにおいて弁護士登録を認め、弁護士としてとして活動ができるとされている。
     これは、それらの国の法制度、弁護士制度によるものであるが、我が国ではそのような制度を採用していないことから、弁護士の独立性については前記のとおり解釈すべきであると考える。この考え方は、アメリカやイギリスにおいて採用されているものであり、我が国の憲法に定める司法制度の基礎にある考え方であると言える。

  6. 諸外国における弁護士の独立性について 
     弁護士の独立性については、それぞれの国の司法制度によって弁護士制度が異なることから、その規定の仕方、要求される独立性の程度に違いはあるが、次に述べるとおり、いずれの国も、弁護士の職務の独立性は必要であるとして、弁護士法、弁護士の行動準則などにおいて、前文で規定し、更に、弁護士の職務上の根本原則、一般原則などで、弁護士の独立性保持の義務を規定している。
     
    1. アメリカの場合 
       アメリカ法曹協会の弁護士業務模範規則では、第5条・4で「弁護士業務の独立性」と題して次の事項を規定している。
      (a) 弁護士及び共同法律事務所は、その報酬を弁護士でないものとの間で分配してはならない。(一定の例外がある。)
      (b) 弁護士は、その活動の一部でも法律業務からなる活動を目的とする場合には、弁護士でないものとの間でパートナーシップを形成してはならない。
      (c) 弁護士は、他人のために法的サービスを提供する目的で自己を推薦し、雇用し又はその報酬を支払うものに、その法的サービスの提供に関し、弁護士としての業務上の判断を指示又は規制させてはならない。
      (d) 弁護士は、以下のいずれかの場合は、営利を目的として専門業務を行うことを認められた専門職法人若しくは専門職団体と共同して、又はこれらの形態で法律業務を行ってはならない。
         この注釈には次のように記載されている。
       「本条の規定は、報酬の分配に関する伝統的な規制を明らかにするものである。これらの規制は、弁護士の業務上の判断の独立性を保持するためのものである。」
       ABAの業務模範規則には、基本原則といった条項はなく、前文や依頼者との関係の条項には、明文で「弁護士の独立性」を規定したものは見あたらない。
       しかし、コモン・ロー法系の国であり、弁護士をプロフェッションとして捉えている点から、弁護士の独立性保持の義務は当然であるとの前提のもとに、上記報酬の分配について特に独立性を担保する規定を設けているものと思われる。
       なお、旧規則に当たる懲戒規定には、より詳細に弁護士の独立性を要請する条項が存在していた。これを放棄したわけでないことから、上記の通り、弁護士の独立性保持義務は当然の前提となっているものと思われる。
       
    2. イギリスの場合 
      i  イギリスの法律専門職として、バリスターとソリシターがある。
       ソリシターは、法律問題を相談する場合に依頼者が最初に会う弁護士(事務弁護士)であり、バリスターは上級裁判所で法廷活動をする弁護士(法廷弁護士)である。バリスターは、ソリシターを介して依頼者と会い、直接依頼者から事件を受認することはない。
       そこで、本問題の対象となるのはソリシターであるので、ソリシターの業務規則などを検討する。
      ii  ソリシター業務規則(Solicitor’s practice rules 1990)1(基本原則)では、「ソリシターは、ソリシターとして業務を行う課程で、以下に掲げる事項について、自ら、又は第三者をして、毀損することを行ってはならない。」としてその一番目に、「(a)ソリシターの独立性、正直さ」をあげている。
       ソリシター紹介・周旋規則1990(Solicitors’ Introduction and Referral Code1990)第1条基本原則では、
         (1) ソリシターは、常に職業的独立を保つとともに依頼者に対して懼れず、かつ客観的に助言することのできる能力を保持しなければならない。ソリシターは、紹介者からの求めでこの独立性を損なうことをしてはならない。
         (2) ソリシターは、紹介や周旋をしたり受けたりするに際し、ソリシター業務規則1に規定されている以下の原則を損なうことをしてはならない。
          (a)ソリシターの独立性と正直さ
         
    3. 欧州弁護士会評議会(CCBE)の場合  
      i  1998年11月28日にリオンで行われた欧州弁護士会評議会本会議において、欧州共同体の弁護士倫理模範規定が、欧州共同体の弁護士会及びロー・ソサエティを代表する18の代表団によって採択された。
      ii  弁護士倫理模範規定の前文、社会における弁護士の役割において「法の尊厳をベースにした社会において、弁護士は特別な役割を果たしている。その義務は法律が許容する限りにおいて受けた命令を忠実に遂行することだけではない。弁護士は、司法の重要性のみならず、自らに託されている権利及び自由を主張及び弁護するために仕えなければならず、自らの依頼者の事件を弁護するのみだけでなく、助言者となることが義務として与えられている。」とする。
       一般原則の独立性の項(2.1)では、「弁護士が対象となる多くの義務は、他からの何らかの影響(特に、かかる弁護士の個人的利益又は外部からの圧力といった)を受けず、かかる弁護士が完全な独立性を保つことを要件とする。裁判官が公平であるように、かかる独立性は法的手続きの信用という面で必要である。従って、弁護士は独立に対するいかなる侵害をも回避し、依頼者、裁判所もしくは第三者を満足させる目的のためにということで、自らの弁護士としての基準の妥協をはかることがないよう注意を払うべきである。」
       「この独立性は、裁判及び非係争事件においても必要とされる。弁護士が依頼者に対して行う助言が、迎合にすぎず、弁護士の個人的利益のため、または外部圧力に対して反応したものであるとすれば、何らの価値も有しない。」と規定している。
      iii  兼務不可能な職種については、「正当な独立性を維持し、司法の実現に参加する自らの義務と矛盾することなく自らの役割を遂行するために、弁護士はいくつかの職業から禁止されている。」と規定している。
       
    4. ドイツの場合 
      i  ドイツでは、弁護士は公的な性格が強調されている。連邦弁護士法(1959年8月1日)第1条において「弁護士は独立の司法機関である。」と規定している。
       これは、ドイツにおける従来からの弁護士に対する概念を表現したものと考えられ、そのことは、ライヒ裁判所の言った「弁護人は裁判所及び検察官と並んで同等な地位を持つ司法機関である」との表現に端的に表れているとのことである。
       この宣言は、単なる抽象的な表現にとどまらず、ドイツの弁護士制度全体を貫くものとされ、訴訟制度においても弁護士強制が採られ、弁護士は「国家に拘束された信任職」としての性格が強化され、我が国の弁護士が自由職としての性格を有するのとは対蹠的差異があるとの指摘がされている。
      ii   弁護士の職務上の義務
      ドイツでは、1994年「弁護士及び弁理士の職務法の改定に関する法律」が制定され、弁護士の権利・義務を規則として制定する権限が連邦弁護士会に明示的に委ねられる。
       そこで連邦弁護士会は、上記法律にもとづく規則制定権を根拠に1996年11月29日現在の「弁護士職務規則」を制定している。
       弁護士職務規則は、弁護士自身で定めた法的な行為規範であり、懲戒裁判あるいは懲罰裁判における法的な根拠を提供するもので、いわゆる弁護士の倫理という枠を超えて、連邦弁護士法の弁護士の法的義務(43条以下)を補充する実体法的性格をもっていると言われている。
       この弁護士職務規則1条は、ドイツの弁護士像を端的に表現している。
       1項 弁護士は法律および職務規則により特に義務を負わない限り、自由に自律的にかつ規制されることなくその職務を遂行する。
        2項 弁護士の有する自由権は法への関与を市民に保証するものである。
             弁護士の活動は法治国家の実現に貢献する。
      3項  弁護士はあらゆる法律事務における独立した助言者および代理人として権利の喪失から依頼人を守り、権利を形成するように、紛争を回避するように、又紛争を調停するように、依頼人を補助し、裁判所および官庁の誤った決定から依頼人を保護し、かつ違憲的な侵害および国家による権力の乱用から依頼人を保護しなければならない。
        又、ドイツでも、企業内弁護士も認められており、連邦弁護士法46条1項は、「継続的な雇用とか類似的な勤務関係にもとづいて自己の労働時間と労働力を依頼人主として企業に提供する」と定義付けしているが、被用者の面では雇用者の指示を受ける故に、独立した機関とは考えられないとして、弁護士の面では独立した機関であるが、雇用主のためにそれの指示のもとで裁判所の代理人となることはできない等の制約を受けている。
       このように、ドイツでは、弁護士としての職務の独立性は、その弁護士像を表現するものとして非常に重要視されている。
    5. フランスの場合
      i  1971年法以前の弁護士制度
       フランスの裁判所は、大きく司法裁判所と行政裁判所に分類される。司法裁判所は、破棄院を最上級審とする構造をとっており、普通法裁判所(大審裁判所(日本の地方裁判所)控訴院)と例外裁判所(小審裁判所(日本の簡易裁判所)、商事裁判所、労働裁判所、農地賃貸借裁判所、社会保障裁判所 いずれも一審だけ 2審は控訴院)に分類される。又、行政裁判所は、コンセイユ・デタを最上級審として、行政控訴院(控訴審)がある。
       裁判補助者は、弁護士(アボカ)と裁判所付属吏とその他に分けられ、裁判所付属吏には、代訴士、破毀院弁護士、執行吏、書記官があり、その他の者には商事弁護士、仲裁報告人、管財人、管理人、鑑定人、保管人、清算人がある。弁護士は、自立的団体である弁護士会の名簿に登録されることにより、業務を営むことができ、代訴士は、政府からその職に任命されることにより、その地位に就くことができる。
       また、主に企業相手に法律相談をする法律顧問(コンセイユ・ジュリディク)が存在し、資格要件は無く誰でもが行うことができていた。
       弁護士は、弁論(依頼者の主張を法廷審理の場で、法律的に口頭で開陳展開すること)をするものであり、代訴士は弁論に熟するまでの手続き(申立、主張の書面作成、その他の訴訟行為)をするものである。弁護士の弁論は、訴訟制度の機能を十全に発揮するために行うもので、当事者の制約を受けないが、代訴士の行為は、当事者の欲することを当事者のために行うものである。
       なお、普通法裁判所の大審裁判所は弁護士強制主義がとられていた。
       弁護士が裁判補助者であるというのは、その法律に関する知識能力を、これを必要とする人に役立たせ、もって裁判の管理運営に協働するという意味においてである。そのために、弁護士は、司法権からも行政権からも依頼者からも独立であることが望ましいとされている。
      ii  1971年12月31日の法律により、弁護士と大審裁判所付代訴士及び商事代理人の資格を統一し、新たな弁護士を作出するとともに、法律顧問(コンセイユ・ジュリディク)の名称の使用と法律相談業に関する規制を定め、資格制にした。
       弁護士には、商事裁判所、小審裁判所、労働裁判所などの例外を除き、弁護士の訴訟業務独占が実現した。
      iii  1990年12月31日法(1992年1月1日施行)で、アボカとコンセイユ・ジュリディクはアボカに統合された。そして、アボカに、訴訟業務(上記例外は除く)、法律相談・助言業務とも独占が認められた。無資格者が行うことは禁止された。
      iv  アボカの義務としての独立性保持
       1971年の法律第7条は、従来から弁護士に求められていた職務の基本的性格である「弁護士職が自由かつ独立なものである」との原則を、初めて明文をもって規定した。
       すなわち、弁護士職は自由かつ独立の職であり、弁護士の独立及びその職の自由な性格を侵害する性質の行為は、すべて、この職務の行使と両立しないとして、その例外を厳しく限定している。
      この条項は、1990年法でも、第1条3項で規定されている。
       2000年CNB標準規則1条(弁護士職の基本原則)の1項では、「弁護士職は、いかなる業務形態をとろうとも、自由かつ独立の職業である。」と規定し、これを受けて、同条4項(懲戒)では、「本原則、規則又は義務の内1つにつき違反した場合は、懲戒の対象となる。」と規定している。
       同年のパリ弁護士会会則第6条(弁護士の業務範囲).16項(兼職禁止並びに公職及び会社内の役職)の1号(一般的兼職禁止)では、「弁護士職の独立性、潔白性又は自由を損なう全ての活動及び従業員弁護士又は教職以外の全ての従業員と兼ねることができない。」としている(参照 デクレ《政令》111条ないし115条) 。

  7. 法30条の改正に関して独立性を議論するのではなく、弁護士法第2条の改正をもって規定することの意義
     前項までにおいて、我が国及び諸外国の弁護士制度及び弁護士法・弁護士規則等を概観してきたが、内外を問わず、その中で一貫して言われているのは、弁護士の職務上の基本原則としての、弁護士の職務の独立性である。
     弁護士の職務が、組織内弁護士、開業弁護士の如何にかかわらず、自由かつ独立であることが、弁護士としての職務の基本的性格であり、それが守られることが、国民の自由・権利を擁護するという司法制度に貢献するものであるとの信念に基づくものと言える。
     我が国では、現在、弁護士の独立について触れるものは、平成2年の弁護士倫理の2条と18条しかなく、弁護士倫理は法的拘束力のある法律ではないうえ、単なる宣言規定であったり(2条)、努力義務を指摘したり(18条)するにとどまる。
     しかし、今後、弁護士人口の大幅な増加、30条の改正により雇用される弁護士の増加などによって、弁護士職務遂行に対して与える影響は計り知れないものがある。
     この事態において、わが国の弁護士がかつて弁護士法第1条を創設したのと同様の高い理想と意識を持って、弁護士法第2条に職務の独立性に関する規定を設けるべきであると考える。
     フランスにおいては、1971年法によりアボカと代訴士の資格が統一されたときに弁護士法を改正し、弁護士職の独立性の規定を初めて明文をもって規定し、1990年法で弁護士職の大統一をなしたときに、その規定を第1条にもってきている。
     今、我が国においては、弁護士法第30条が改正され、公務員との兼職禁止が解除され、営業、企業への就職などは届出制に改正されようとしている。さらに、外国法事務弁護士と弁護士との関係も議論され始めている。
     弁護士制度の大きな改革は、社会の弁護士に対するニーズの変化、国の司法制度において法の支配を社会の隅々にまで行き渡らせようとする要求の表れであるが、その中で、弁護士が自らの使命と責任を自覚して法化社会の実現に貢献するべく、弁護士に対する国民の信頼を得たうえで弁護士の職務を十分に発揮できるようにするためには、弁護士法第2条第1項に弁護士の職務の独立性の規定を新設する必要があると考える。
     弁護士法30条の改正は、弁護士の社会進出に伴う従来の規制を原則として撤廃し、弁護士の自己責任のもとに、必要な届出でもってこれに代えようというものである。制度改正により、組織内弁護士、弁護士の営業活動あるいは外国法事務弁護士との関係、隣接関連職種との協働関係などの新しい事態が生ずるが、そのとき弁護士のアイデンティティーの問題が出てくることが予想される。
     今、弁護士の行動規範として職務の独立性を明文で確認することは、我々がよって立つ日本の弁護士制度が職務の独立性を一つの柱にしていることを再確認し、新たな業務領域に進出する弁護士にとって一つの行動基準を提供するものであって、必要不可欠なものと考える。
     よって、意見の趣旨のとおり提案するものである。
以上
TOP