意見書・声明
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 外国法事務弁護士による弁護士の雇用についての意見書(案)

2003年(平成15年)1月21日

司法制度改革推進本部
 本部長 小 泉 純一郎  殿
大 阪 弁 護 士 会
 会 長  佐 伯 照 道


第1 意見の趣旨

 外国法事務弁護士による弁護士の単独雇用を認める法改正は、外弁法4条の潜脱を招き、無資格者による弁護士業務の取り扱いを認めるのと同様の結果となることは必至であり、資格制度の根幹を否定することにつながる恐れがあるので反対する。


第2 意見の理由

  1. 司法制度改革審議会意見書とその後の議論
     司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日付。以下「意見書」という。)は、「外国法事務弁護士(以下引用文以外では「外弁」という。)等に関する制度及びその運用の見直しについては、国際的議論もにらみつつ、利用者の視点から、臨機かつ十分に検討すべきである。具体的には、日本弁護士(以下引用文以外では「弁護士」という。)と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に推進する見地から、特定共同事業の要件緩和等を行うべきである。外国法事務弁護士による日本弁護士の雇用禁止等の見直しは、国際的議論もにらみつつ、将来の課題として引き続き検討すべきである。」と提言した。
     内閣の司法制度改革推進本部に設けられた国際化検討会では意見書を受け、共同事業の要件緩和について討議を進めているが、更に踏みこみ、外弁による弁護士の雇用の解禁も視野に入れた討議がなされてきた。
    しかしながら、外弁による弁護士の単独雇用の解禁を認める実益はなく、これを安易に認めた場合には、外弁に雇用された弁護士が、外弁の顧客に対し法的サービスを提供することを認めることになり、結局、無資格の外弁が被雇用弁護士を通じて弁護士業務を行うこととなり、弁護士の資格制度全体を崩壊させることとなる。
    資格制度全体との整合性を考慮、検討した場合には、外弁による弁護士の雇用を認めるべきでないことは明らかである。

  2. 外弁に対する規制の概要
     「外国弁護士による法律事務の取り扱いに関する特別措置法」(以下「外弁法」という。)3条は、外弁は、「原資格法に関する法律事務を行なうことを職務とする。」と規定し、同法4条はこの範囲を超えて法律事務を行なうことを禁止し、同法63条はこれに違反した場合の罰則を定める。
     外弁法4条は非弁護士による法律事務の取り扱いを禁じる弁護士法72条と同趣旨に出るものであり、外弁は原資格法に関しては専門家であり、有資格者であるが、それ以外の法に関しては、専門家ではなく、資格のない者であるから、それに関する法律業務の取り扱いを禁止するものである。法律業務については、ほとんどの国が資格制度をとるが、資格制度は依頼者の利益を守るために最善の方法として歴史的に形成されたものであり、外弁法4条は、この原則を具体化するものである。
    外弁法49条1項は、外弁が弁護士を雇用することを禁止し、2項前段は、外弁が弁護士もしくは弁護士法人と共同事業を行なうことを禁止し、後段はその他の契約による収益分配を禁止する。いずれも、日本法に関する法律事務を外弁が脱法的に取り扱う危険を排除しようとするものであるが、利便性を無視し、国際化の要請にそぐわない過度の規制であるとの批判がなされ、49条の2が法改正により付加され、特定共同事業が認められた。
     司法制度改革推進本部の国際化検討会における審議は、特定共同事業の要件緩和を本来審議するためのものであったが、更に踏みこみ、外弁による弁護士の雇用の解禁についても審議した。

  3. 検討の状況
     平成14年7月25日の国際化検討会(第9回)において、事務局は、特定共同事業の要件の緩和を審議の対象としたが、要件緩和の方向で意見の集約が行われたほか、雇用禁止の見直しについても審議された。
      ホームページで公開されている当日の議事録によれば、座長から「全体を見てみると、少なくとも雇用を全面的に禁止しておくという意見は、あまりなかったように思われる。雇用禁止を貫徹するために、事務所を別々にしておく必要があるということについては疑義があるというのが大方の意見である。ここで、単独雇用・共同雇用について各委員のご意見を確認しておきたい。」との発言があり、この質問に対し、相当数の委員が共同雇用、単独雇用ともに認める発言をしている。
      その後、平成14年9月12日(第10回)、平成14年10月17日(第11回)平成14年11月21日(第12回)が開催されたが、第9回、第10回の検討会では単独雇用の問題はほとんど審議されず、第12回の検討会において、事務局から単独雇用を認める整理案1とこれを認めず共同雇用のみを認める整理案2が示されたが、雇用に関しては、意見は対立したままであり、意見集約にはいたっていない。この整理案については座長から、「これまで積み重ねてきた議論と法制的な観点を踏まえて整理した案」であるとの説明がなされている。第9回の検討会では、単独雇用を認めることの法制的な問題点や、これを認めた場合にどのような弊害が発生するかなどについて具体的な検討はほとんどなされなかった。第9回の検討会において事務局が示したような形態の単独雇用であれば、これを認める実益はないし、「法制的な観点」を踏まえれば、当然単独雇用は認めないとの結論になるべきであることは以下に述べるとおりであり、事務局も同様の見解を持っていたと漏れ聞く。事務局から提出された整理案2は、単独雇用の問題点を意識した事務局の見解をむしろ反映しているものと思われるが、残念なことに第12回の検討会においても、その議事概要から伺える範囲では、単独雇用の問題点について十分な議論が尽くされることのないまま、結論のみがするどく対立する結果となっている。

  4. 単独雇用許容の問題点
     単独雇用をめぐる審議の中で、事務局は資料(9−4)を提出し、単独雇用に関する事務局の外弁法についての見解を述べている。
     事務局は、単独雇用の場合、外弁に雇用されている弁護士が自己の計算で独立して日本法に関する事務を取り扱うことは可能であるとする。この見解は、外弁に雇用された弁護士が、外弁の計算により日本法に関する法律事務を取り扱うことは、外弁が日本法に関する法律事務を取り扱うことになるので、外弁法4条、弁護士法72条の違反となるが、被雇用弁護士が自己の計算で独立して日本法に関する事務を取り扱う場合には、外弁法4条、弁護士法72条の違反とはならないとの法解釈に立つものである。
     国際化検討会の審議においては、外弁法4条を改正することは全く検討されておらず、事務局の見解も、外弁は日本法に関する法律事務については無資格者であり、間接的にせよ日本法に関する法律事務を取り扱うことはできず、収益を得ることもできないことを前提としている。検討会の審議は、事務局の想定する「自己の計算で独立して日本法に関する事務を取り扱う」ような形態の被雇用弁護士を想定し、そのような単独雇用であれば認めても良いとの方向となっている。
     しかしながら、このような関係を法律上雇用の範疇で捉えることは大いに疑問であり、また、このような形態の雇用関係が外弁との関係で実際上存在しえるとは到底考えられない。
      雇用の法律的な特色は、雇主の支配下において被雇用者が労務を提供することにあるが、被雇用者はその職務に専念し、副業を行わない義務を通常伴う。事務局の想定するような自己の計算で事件の受任ができる弁護士は、職務専念義務のない弁護士であり、このような弁護士と外弁の関係を「雇用」と規定するのは法律論として大いに疑問である。
      また、実際上、事務局の想定するような勤務弁護士は存在し得ないであろう。欧米の規模の大きな弁護士事務所においては、勤務弁護士はいわゆる日本のイソ弁(居候弁護士)のように個人事件を持つことは禁止され、職務専念義務を負っている。この種事務所の支店の性格を有する多くの外弁事務所でも同様の状況にあることは間違いない。
     常識的に考えれば、外弁が弁護士を雇用するのは、外弁の依頼者の事件を処理させるためであり、被雇用弁護士は、外弁の依頼者の為に業務を行うであろう。そうでなければ、外弁が弁護士を雇用する意味がない。そのような場合に、事務局が想定するように、弁護士が自己の計算で業務を行う、すなわち、弁護士が自分の名前で顧客に請求書を出し、その収入を自己に帰属させることができるなどということはおよそありない。欧米の弁護士事務所ではクライアントオーナーが誰であるか、すなわち、クライアント(顧客)を開拓した者が誰であるかが重視されるが、クライアントオーナーたる外弁が、自分の雇用する弁護士に事件を処理させ、収入もすべて渡すなどありうることではない。
     仮に、事務局が想定するような、外弁の依頼者の事件を処理し、その収入を取得し得る勤務弁護士がいるとしても、そのような弁護士は外弁と事件処理に要する費用の負担に関する何らかの合意をしているはずである。勤務弁護士であって、外弁事務所の施設を利用し、収入のみを得るような弁護士などあり得るはずがない。
    事件の収入を自己のものとし、費用負担に関する何らかの契約を外弁と行っているような弁護士は、もはや勤務弁護士ではなく、これは、外弁の共同事業者に他ならず、単独雇用を認める意味が全くない。共同経営を認めれば足りる。

  5. 資格制度全体との関係
     外弁による弁護士の単独雇用を認めるべきであるとする根拠として、営利を目的とする株式会社が弁護士を雇用できるのに、弁護士会から資格を付与され一定範囲の業務を行うことを認められている外弁にこれを認めないのは矛盾であるとする意見が述べられることがある。
    しかしながら、この意見は、株式会社が弁護士を雇用する場合と、外弁が雇用する場合の根本的な相違を無視するものである。
     株式会社による弁護士の雇用は、被雇用弁護士が当該株式会社に対し法的なサービスを提供することを目的とするものであり、株式会社の顧客に対して法的サービスを提供することを目的とするものではない。株式会社に雇用された弁護士が株式会社の顧客に対し、法的サービスを提供すれば、株式会社が法律業務を行うことになり、弁護士法72条違反となることは明らかである。
     これに対し、外弁が弁護士を雇用するのは、外弁の顧客に対し法的なサービスを提供するためであり、外弁が株式会社による弁護士の雇用の場合のように、弁護士から法的サービスを受ける対象にとどまるようなことはありえない。このことは、上に詳述したとおりである。
    外弁に対し弁護士の単独雇用を認め、外弁の顧客に対し法的なサービスを提供することを認めた場合には、株式会社に雇用された弁護士が株式会社の顧客に対し、法的サービスを提供することを禁止する根拠もまた無くなるであろう。現在、弁護士法30条の改正により、株式会社等による弁護士の雇用は、弁護士会による許可から届出制に移行しようとしている。そうなると、コンサルタント会社が弁護士を雇用し、その顧客に対し法的なサービスを提供するなど、弁護士法72条違反に該当する事例が続出するおそれがある。そのような事態に適切に対処するためには、資格制度の根幹が何であるかを明確にし、制度の原則を堅持しておく必要がある。
     弁護士の資格制度は弁護士の利益を守るためのものではないとの批判がなされるが、この資格制度は、これに業務を依頼する顧客が食い物にされるようなことがないよう、顧客の利益を守るために最低限必要なものとして歴史的に形成されてきたものである。現状の弁護士のあり方について批判的な意見があるとしても、弁護士の資格制度自体を廃止すべきであるなどという乱暴な意見はなされていない。健全な司法制度を維持し発展させ、国民の利益を守るためには、弁護士の資格制度は必要であり、制度の根幹部分については、これを健全に維持する必要がある。

  6. まとめ
     国際化検討会では、現実的にあり得ないような業務形態の勤務弁護士を想定し、十分な検討を経ることもなく、単独雇用を認める方向で審議が進んだが、以上に述べたように、外弁の雇用する弁護士が、外弁法4条に違反することなく自己の計算で業務を行うことなどあり得ず、外弁による弁護士の単独雇用を認めることは、外弁法4条に違反する雇用関係を大々的に奨励することになるのであり、単独雇用を認めるべきではないことは明らかであると思われる。
     この問題は、外弁法4条の問題にとどまらず、弁護士法72条の問題であり、弁護士制度の根幹部分にかかわる問題である。外弁による弁護士の単独雇用を認めることは、弁護士制度全体を否定することに直結するものであり、司法制度の健全な維持・発展の観点から到底認められるべきではない。

以上
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