意見書・声明
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 ワンストップサービスの一形態としての
 総合的法律経済関係事務所のあり方に関する意見書

2003年(平成15年)3月26日

大 阪 弁 護 士 会

第1 意見の趣旨
 ワンストップサービスの一形態としての総合的法律経済関係事務所の推進にあたっては、下記の事項を考慮したうえで、諸条件の整備を行なうべきである。
 1.) 監査法人との総合的法律経済関係事務所は許容すべきではない。
 2.) 総合的法律経済関係事務所の経営形態は、経費共同型とすべきである。収支共同型と法人化は許容すべきでない。
 3.) 非弁行為ないし非弁提携行為の禁止、職務の独立性、弁護士倫理(守秘義務・利益相反義務等)が損なわれないよう、「ルール」を策定すべきである。
 4.) 上記 3.)の「ルール」の遵守状況をチェックし、違反事例を是正していく手続規定についても策定すべきである。 

第2 意見の理由

  1.  意見書におけるワンストップサービスの位置付け
     司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という)は、リーガルサービスの総合化・専門化の実現を依頼者の利便性との観点から、次のように述べている。「弁護士と隣接法律専門職種その他の専門資格者による協働については、依頼者の利便の向上を図る観点から、ワンストップサービス(総合的法律経済関係事務所)を積極的に推進し、その実効を上げるための方策を講じるべきであ」り、「その際、収支共同型や相互雇用型等の形態など異業種間共同事業の容認の可否については、更に検討すべきである」。
     これまで弁護士と隣接法律専門職種との協働は、個別案件ごとに事務所外の専門家と提携・協働する形がとられてきた。意見書は、複雑化し、高度化する紛争をより迅速に解決するという要請に応える体制を構築するためには、より緊密な協働のあり方として総合的法律経済関係事務所の推進が必要であるとの観点からその条件整備を提言したものである。
     意見書は、リーガルサービス充実のため、ワンストップサービスの一形態としての総合的法律経済関係事務所の推進をするうえでの意見を述べるものである。しかしワンストップサービスを検討するにあたっては、このような形態以外に隣接法律関連職種と弁護士が、後述のように、いわゆる業務提携を行い隣接した事務所を設ける方法や、弁護士が隣接法律関連職種を雇用するなどの方法もあり、これらの形態をまず推進すべきであると考えられる。しかし、本意見書は、とりあえず一つの事務所を共同して経営する形態に限って意見を述べるものである。
     
     
  2. リーガルサービスの総合化・専門化の必要性
     意見書の指摘を待つまでもなく、リーガルサービスの総合化・専門化は不可避であり、ワンストップサービスに次のようなメリットがあることも否定できない。
     1.) ユーザーサイドのメリットとしては、一箇所にアクセスすれば、弁護士のみならずその他の専門家にも自己の抱える一連の問題の解決を相談し、依頼できるという利便性があり、総合化によるサービスの質の向上も期待できる、ということであろう。
     2.) 弁護士サイドのメリットとしては、顧客満足度の向上(専門性、迅速性、利便性等の向上)、多面領域にわたるノウハウ・情報の集積とプロフェッションとしての力量の向上、これらを通じた顧客基盤の涵養ないし経営基盤の強化を図ることができる、ということであろう。
     
     
  3. 弁護士と隣接法律関連職種との協働の現状
     1.) 弁護士事務所の共同化・法人化の趨勢
     平成12年3月に実施された「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告」(自由と正義平成14年13号、以下「実態調査報告」という)によれば、東京で100人を超える大規模事務所が複数生まれ、各地で事務所弁護士の複数化が進むなど、法律事務所の共同化の傾向は顕著である。また、平成14年4月から可能となった弁護士事務所の法人化に対する関心も極めて高い。
     2.) 隣接法律関連職種との協働の現状
     実態調査報告によれば、法律事務所内に司法書士、行政書士、税理士等の隣接法律関連職種を雇用する事務所は特に東京で増えている。東京では、外部の隣接法律関連職種との提携が減少する傾向がみられる反面、隣接法律関連職種を法律事務所が雇用する形での協働関係が増えており、より緊密な協働関係が進展していると推測できる。経営形態的には収入共同型の事務所において隣接法律関連職種を雇用する傾向がより多くみられる。他方、単独事務所では、隣接法律関連職種との提携関係が少なく、隣接法律関連職種に対する競争意識も低い。
     これらの事実は、事務所の弁護士の数の増大とともに、隣接法律関連職種を事務所の構成員とし、あるいは外部の隣接法律関連職種と提携する傾向が進展していくであろうことを予測させる。
     更に、司法書士、弁理士、税理士に、一定の法廷活動の権限が付与され、特に簡裁の訴訟物が訴額140万円に拡大されれば、司法書士を中心にこれらの隣接法律関連職種が弁護士事務所に雇用されることが増えるのではないかと予想されている。
     
     
  4. 弁護士と隣接法律関連職種とが協働する上での問題点
    (1)以上述べたように、協働の有用性それ自体について異論はないとしても、弁護士と隣接法律関連職種との協働については、それぞれの資格制度の違い、歴史的な成り立ちの違い、処理できる業務の範囲や権限の違い、職業倫理の違いなど、協働のあり方を考える上で考慮しなければならない問題点も少なくない。
    (2)「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことを職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつその職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられている。」(最高裁昭和46年7月14日大法廷判決)。すなわち、弁護士という存在は、厳格な資格制度と諸般の措置によって、国民の権利・利益が適正・迅速に擁護されるように制度化されたものである。弁護士は、時には国家権力と対峙して国民の権利を擁護することを職責とするため、独立性が要請され、その権能行使が自治権により担保されている。とともに、利益相反回避義務や秘密保持義務など、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すこととされているのである。
    (3)他方、隣接法律関連職種は、成り立ちの上でも、現実の役割においても、行政機関の補助職的な性格が強い。例えば、税理士法1条は、税理士の職務を「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と規定し、行政書士法1条は、同法の目的を「行政に関する手続きの円滑な実施に寄与」することであるとしている。その役割は、国民の権利利益の擁護にあるのではなく、むしろ行政目的の実現にあるのである。司法書士や弁理士、土地家屋調査士の性格も同様であり、国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現を職責とする弁護士とはこの点において根本的に異なるのである。
     その行政補助職的な性格から、関連行政職の経験があれば一定の要件の下に当該資格が付与されるなど、その資格付与の要件も厳格なものではない。
     また、守秘義務の範囲や利益相反規定の有無・範囲等も、各職種で必ずしも同一ではなく、義務の存在する場合においても、弁護士ほど厳格なものではない。
     さらに、弁護士以外の隣接法律関連職種はそれぞれの監督官庁を有し、その監督に服している。
    (4)従って、弁護士と他の法律関連専門職種が同一の場所で協働して執務する総合的法律経済関係事務所を考える場合、資格制度の侵害の防止(弁護士以外の資格者が弁護士と協働することで事実上自己の有しない弁護士資格の業務を事実上行なうことの防止)、職務の独立性侵害の防止(他の資格者が弁護士の独立性に事実上影響を与えることの防止)、利害相反回避義務や守秘義務などの徹底(弁護士と協働して業務を行なう他の資格者にも弁護士と同等の利害相反回避義務や守秘義務など職業倫理の遵守を求めること)、弁護士が他の資格者の監督官庁から不当な影響を行使されないこと、など様々な措置を講じなければならない。
     
     
  5. 公認会計士との協働について
     公認会計士との協働については、周知のとおり国際的にも論争がある。
     もともと、公認会計士の本業は監査業務であるが、監査対象企業と公認会計士(ないし監査法人)とが利害関係を有していては監査の中立性が害されるおそれがあるので、監査対象企業と公認会計士(ないし監査法人)とが利害関係を有してはならないとされている(被監査企業と監査人との間に監査契約以外に「特別な利害関係のないこと」が要求されている)。同じ監査法人の監査部門とコンサルティング部門が同一企業の事務をすることによる危険性もエンロン事件で現実のものとなった。同様に、公認会計士(ないし監査法人)が所属する弁護士を使用して被監査法人に対してリーガルサービスを提供することはまさに利害関係にあたることになる。
     従って、監査法人や公認会計士事務所が、弁護士と協働することを通じて、リーガルサービスを同一の依頼者である被監査法人に提供することは許されない。
     
     
  6. 資格制度の堅持及び法72条の遵守について
    (1)法律事務は、弁護士及び弁護士法人のみがなし得る。これは、法72条の規定するところであり、先の大法廷判決は続けて次のように述べている。「世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたと考えられるのである。」まさに、資格制度は、国民の基本的人権の擁護はもとより、市民の権利と利益の実現のために存在するのであり、資格制度をゆるがせにすることはできない。
    (2)法30条が改正されて、弁護士が企業等第三者に雇用されることが届出によって可能になる予定であるが、自明のことながら、弁護士を雇用する者は、第三者に対して法的なサービスを提供することはできない、という原則が確認されなければならない。法30条の許可制から届出制への移行は、弁護士が企業等に被用者という立場で法的なサービスを提供することを自由化するものであり、企業等が弁護士を使用して第三者に法的なサービスを提供することを容認するものではないからである。
     弁護士を雇用する者が、製造業や販売業といった私企業であれば、当該企業が雇用した弁護士を使用して第三者に法的なサービスを提供してはならない、という原則はわかりやすい。ところで、弁護士が、銀行、証券会社、保険会社、不動産会社、コンサルタント会社、監査法人等の役員となり、あるいは雇用された場合は、これらの雇用主が役員ないし被用者である弁護士を使用して、本来業務に付随して第三者に法的サービスを提供するという事態が懸念されるが、かかる場合も第三者に法的サービスを提供することは許されない。例えば、何ら資格のない者が、弁護士とともに共同で出資をしてコンサルティング会社を設立し、共にその役員となる場合などがわかりやすいであろう。この場合、資格のない出資者兼役員が、役員である弁護士や被用者である弁護士が当該コンサルティング会社の顧客に対して法的なサービスを提供して得たその利益の配分を受けることができるとなれば、当該非資格者は弁護士の資格なくして法的サービスを第三者に提供して得た利益を取得することになる。これはまさに法72条違反に該当する。
     我が国においても、下記の米国の模範業務規則のように、弁護士が弁護士以外の者に雇用された場合に、被用者である弁護士は雇用主以外の不特定の第三者に法的サービスを提供することができないという具体的な「ルール」を策定することが急務である。
     
     

    (ABA弁護士業務模範規則5、4条)
     (b) 弁護士は、パートナーシップの活動が一部分でも法律業務から構成されている場合には、弁護士でない者との間でパートナーシップを形成してはならない。
     (c) 弁護士は、他の者のために法律サービスを提供する目的で、自己を推薦し、雇用し又はその報酬を支払う者に、当該法律サービスの遂行における弁護士としての業務上の判断を指示又は規制させてはならない。
     (d) 弁護士は、以下のいずれかの場合には、営利を目的として法律業務を行なうことを認められた専門職法人又は専門職団体と協働して又はこれらの形態で法律業務を行ってはならない。
     (1) 弁護士でない者が、その法人等において何らかの持ち分を有する場合。但し、弁護士の相続財産の受託者が、財産管理に必要な期間、その弁護士の出資又 は持ち分を保有する場合を除く。
     (2) 弁護士でない者が、その法人等の取締役、業務執行者、又は会社以外の形態の団体において、類似の責務を負う地位にある者である場合。
     (3) 弁護士でない者が、弁護士の業務上の判断を指示または統制する権利を有する場合。(3)上記の「法律事務は、弁護士及び弁護士法人のみがなし得る」、「弁護士を雇用する者は、第三者に対して法的なサービスを提供することはできない」との原則は、隣接法律関連職種との協働においても遵守されなければならない。
     
     
  7. 総合的法律経済関係事務所の経営形態等について
    (1)隣接法律関連職種との協働に関しては、 1.)弁護士でない隣接法律関連職種が弁護士を雇用して法的なサービスを行なうことができるか、 2.)弁護士と弁護士でない隣接法律関連職種が総合的法律経済関係事務所等を運営する場合の業務遂行の あり方如何が問題となる。
     具体的には、例えば、 1.)税理士が、弁護士を雇用して自己の顧客に対して被用者である弁護士に法的なサービスを提供させていいのか、 2.)税理士が弁護士とともに共同で出資をしてコンサルティング会社を設立し、共にその役員となり、役員である弁護士や被用者である弁護士が当該コンサルティング会社の顧客に対して法的なサービスを提供して得たその利益の配分を受けることができるか、 3.)税理士が弁護士と収支共同で総合的法律経済事務所を運営できるか、という問題である。
    (2)弁護士でない隣接法律関連職種が、弁護士を雇用して法的なサービスを行なうことができるか。これは、既に述べたことから明らかなように許されない。弁護士以外の者で弁護士を雇用する者は、第三者に対して法的なサービスを提供することはできないからである。隣接法律関連職種は、他人の依頼する業務を手がけることを本質としており、自らの内部的な事務のためのみに弁護士を雇用する必要性はない。隣接法律関連職種が弁護士を雇うことがあるとすれば、自己の顧問先なり顧客に対して法的なサービスを提供し、報酬を取得するためにほかならない。
     従って、予定されている法30条の改正後において、弁護士が隣接法律関連職種である例えば税理士(ないし税理士法人)に雇用される旨の届出を弁護士会になしたとしても、直ちに法72条違反が問われることにならざるを得ない。結果として、隣接法律関連職種による弁護士の雇用は原則として許されない。
    (3)隣接法律関連職種と弁護士がパートナー契約を締結し、収入を一元的に管理し、あらかじめ決められた基準に基づいて報酬を配分する形態で総合的法律経済関係事務所を運営することができるか。
     収支共同(共同受任と報酬分配、弁護士の共同雇用)については、72条との関係で許容すべきではない。これを許せば、非資格者が資格者である弁護士と共同すれば、本来受任し処理することのできない業務を受任し報酬を得る結果となり、その点では非弁行為(法72条)ないし非弁提携行為(法27条)に該当すると言わざるを得ないからである。
     法律事務についてはパートナー弁護士のみが受任し、それぞれの資格に属する業務遂行についてはそれぞれが責任を負うという形態についても、法72条違反との指摘を回避することは困難であろう。パートナー契約上どのように明文を設けようとも、クライアントオーナーの発言力が強くなるのは避けられないから、クライアントオーナーが弁護士以外の資格者であれば、受任段階における報酬契約、業務遂行の過程や報酬の分配の過程において弁護士が影響を受けることを防止することは事実上不可能に近い。また、他の資格者が当該資格にかかる業務の対価を超えて弁護士報酬の分配に与ることを防止することも事実上不可能である。
     米国において、非資格者と弁護士報酬の分配を禁止する下記のルールが確立されているのも、上記の理由による。我が国においても同様の「ルール」を策定することが急務である。
     
     

    (ABA弁護士業務模範規則5、4条)
     (a) 弁護士又は法律共同事務所は、法律業務の報酬を弁護士でない者との間で分配してはならない。但し、以下の場合を除く。
     (1) 弁護士と、その者の法律共同事務所、パートナー弁護士又は勤務弁護士との間の契約により、その弁護士の死後、合理的な期間にわたり、その弁護士の相続財産(estate)又は特定の一人若しくは複数の人に対する金銭の支払いが定め られている場合。
     (2) 死亡した弁護士、無能力となった弁護士又は失踪した弁護士の業務を購入した弁護士が、第1、17条の規定に従って、その弁護士の相続財産又は保管の代理人に対し、契約に基づく購入価格での支払いを行う場合。
     (3) 弁護士又は法律共同事務所が、その賃金又は退職金プランに、弁護士でない被用者を含めている場合。そのプランの全部又は一部が利益分配方式に基づくものであるか否かを問わない。
     (4) 弁護士が、ある事件について自己を雇用、依頼又は推薦した非営利団体との間で、裁判所が裁定した法律業務の報酬を分配する場合。
    (ABA弁護士業務模範規則5、5条)
     (b) 弁護士資格を有しない者の無資格法律業務となる行為の実行に加担してはならない。
     加えて、弁護士と他の隣接法律関連職種では、資格の成り立ちや取り扱い業務を異にし、社会から付託されている公益活動の内容も異なっている。弁護士の場合、国選弁護事件、扶助事件、各種人権擁護活動など幅広い公益活動が期待されている。被用者である弁護士に対する公益活動の保障、パートナー弁護士の公益活動のあり方に対し、他の資格者であるパートナーが事務所経営の観点から発言することを止めることが事実上できないことも明らかであろう。
     以上に述べた懸念は、総合的法律経済事務所を法人化する場合、一層深まることにならざるをえない。
     従って、総合的法律経済関係事務所の経営形態としては、収支共同型も法人化も許容できないと言わねばならない。
    (3)結論的には、弁護士と他の資格者とがそれぞれ経営と業務遂行に関して独立性を維持しながら、同一の場所で執務を行う経費共同型の形態であれば、現行の資格制度を前提にしつつ、ワンストップサービスに対する社会的ニーズを実現することが可能であると思われる。この場合、一棟のビル内部に隣接してそれぞれの事務所を設ける独立性の高い形態から、賃料と従業員と諸雑費を共通経費として一定割合で分担する形態まで様々な形態があり得よう。
     ただ、その場合でも、それぞれの資格者が資格に係る業務をそれぞれ受任し、その範囲で各自が責任を負うということが依頼者からみても明らかである必要があるし、弁護士が負う職務上の義務が損なわれないようにしなければならない。
     1.) 各資格者の業務範囲や責任に関する混同を防止するためには、少なくとも次のような配慮が必要である。
    (使用名称の在り方ないし使用名称の表示の在り方)
     総合事務所の名称のなかに法律・会計等各資格を表す表記をするか、抽象的な総合事務所名称の場合は、その名称の下に各資格と資格者名を表記させる。
    (広告・宣伝の在り方)
     同一媒体での総合的・一体的な宣伝広告の場合は、ワンストップで各資格のサービスを受けられるという点で利便性が高いとの宣伝は当然可能であるが、受任業務の範囲や報酬は各資格者毎に表示する必要があるし、各受任業務に関する責任の所在も各資格者に属することなどを明記する必要があろう。
    (委任契約の在り方)
     各資格者の受任範囲・責任範囲・それに対応する報酬を個別の委任契約書で明記する必要がある。
     2.) 弁護士が関与して他の資格者と共働して事件を処理する案件に関しては、弁護士に求められている利益相反回避義務を他の資格者にも遵守させる必要がある。そのための「ルール」を制定する必要があり、その上で具体的には、各資格者の顧問先、依頼者、相談者をリストアップして、利害相反を受付段階でチェックするシステムの導入等も不可欠であろう。
     3.) 弁護士が関与して他の資格者と共働して事件を処理する案件に関しては弁護士に求められている守秘義務を他の資格者にも遵守させる必要があり、そのための「ルール」を制定する必要がある。
     4.) 他の資格者との協働によって、他の資格者が服する行政官庁の監督から弁護士が影響を受けないようにすることも不可欠である。
    (4)さらに、法30条の改正や総合法律経済関係事務所関係事務所に対応した「ルール」の遵守状況をどのようにチェックし、違反事例を是正していくのか、その手続規定についても整備していくことが不可欠である。
     
     
  8. 外弁問題との関連性について
    (1)現在、外国法事務弁護士に関しても共同経営と弁護士の共同雇用ないし単独雇用が議論されており、収支共同及び単独雇用が許容される情勢となっているが、たちまち他の隣接法律関連職種の士業と外国法事務弁護士とどう違うのかという疑問が想起される。
    (2)もちろん、外国法事務弁護士は資格法を異にしており、日弁連に外弁登録を行う場合も、日本法に関する法的知識の具備は制度的に検証されない。従って外国法事務弁護士は外弁法3条1項に定める法律以外の法律事務を行ってはならないとされている(同法4条)。従って、日本弁護士と外国法事務弁護士の共同経営や日本人弁護士の共同雇用、外国法事務弁護士による日本弁護士の単独雇用については、日本法に関する資格や法的知識の裏付けのない者が日本人弁護士を通じて日本法に関する事件を処理することにつながるという意味において、同法4条違反を招くものであって賛同することはできない。
    (3)しかし、仮に、外国法事務弁護士に関して上記の法改正が行われた場合も、外国法事務弁護士と他の隣接法律関連職種とを同様に位置づけることはできない。少なくとも、外国弁護士は資格の根拠法を異にするものの、リーガルトレーニングの一環として厳しい職業倫理教育を受け、等しく日弁連の直接の監督に服しているという点で決定的に異なっているからである。その意味で、外国法事務弁護士との共同経営や単独雇用が認められたからといって、隣接法律関連職種との関係でこれを許容することには到底なり得ないと言うべきである。
以上
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