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 先物取引被害予防

1996年(平成8年)11月28日
先物取引被害予防に関する意見書


社団法人 日本商品取引員協会 御 中
大阪弁護士会

  先物取引被害予防に関する意見書
     〜先物取引新聞広告及び広告規制の適正化をめざして

[目次]
第1、意見の要旨
第2、意見の理由
 1、意見書作成の経緯・目的
 2、商品先物取引広告の実態について
 3、現行自主規制規則で十分か
 4、現行自主規制規則の運用が適正か
 5、まとめ


第1、意見の要旨

 商品取引所法第1条の委託者保護の精神及び一般消費者の自主的かつ自由な意思決定を可能ならしめるとの観点から、商品先物取引広告を規制する貴協会に対し、下記の施策を実施されるよう申入れいたします。



1、貴協会は、広告・宣伝に関する自主規制規則の厳格な適用によって、商品先物取引の危険性開示に留意した商品先物取引広告の適正化を図られたい。

2、貴協会は、広告・宣伝に関する自主規制規則について、商品先物取引の危険性開示文言の記載を義務づける等の改正により、一般消費者の自主的かつ自由な意思決定を阻害することのないよう商品先物取引広告の適正化を図られたい。

3、貴協会は、広告・宣伝に関する自主規制規則第6条において例外的措置が認められて いる広告についても、自主規制規則の改正による例外的措置の撤廃及びその厳格な適用により商品先物取引の危険性開示に留意した商品先物取引広告の適正化を図られたい。

第2、意見の理由

1、意見書作成の経緯・目的

商品先物取引被害を巡る状況
平成2年の商品取引所法改正にも拘わらず、商品先物取引被害は増大しています。これに対して政府は、被害予防・救済のための有効な施策を打ち出しておらず、むしろ逆に、業界からの規制緩和の要望に対して、一部規制緩和の方針を表明しています。
他方、商品先物取引被害救済訴訟が提起され、業者の責任を肯定する下級審裁判例が多数積み上げられている中で、最高裁判所も、国内公設先物取引事件につき、不当勧誘・両建の勧誘・転がしなどが違法要素たり得ることを認め、不法行為を構成するとした原審の判断を相当と明言する初めての判決を下しています(最高裁平成7年7月4日第3小法廷判決、NBL590号60頁以下参照)。

商品先物取引被害の実態

最近の商品先物取引被害の実態を要約すれば、被害件数の増大、大半が国内公設の先物取引であること、苦情が特定の業者だけに集中せず、広範囲であり、内容も共通していること、手口として、先物取引における客殺し手法と呼ばれる、断定的利益判断の提供、両建勧誘、無意味な反復売買、仕切り拒否、過当売買等の手法を駆使した、勧誘から取引終了にいたる一連の行為にわたるものであること、かかる業者の違法・不当な勧誘・説明により自由な意思決定を阻害されて取引被害に遭った委託者が多数存在すること、等です。
かかる実態に鑑みて、日本弁護士連合会は、「商品取引所法改正に関する意見書」(1990年2月16日)において、委託者保護の観点から危険性の開示につき提言していますが、その具体的規制方法としては、何よりもまず適正な勧誘制度の確立、虚偽・誤解を生ぜしめるような不適切な広告を禁止することが不可欠です。


2、商品先物取引広告の実態について

この点、貴協会は、商品取引員の広告・宣伝に関し、その表示・方法を適正化することにより委託者保護を図ること等を目的として広告・宣伝に関する自主規制規則を定めて、広告につき事前承認制を設けておられます。
しかし、当該規則に基づき承認された別紙広告の実態をみると、委託者保護の観点から、先物取引の危険性開示として十分かどうかについてなお検討の余地があると思われます。
例えば別紙 [95年10月25日産経新聞朝刊掲載]、同 [95年10月30日日経新聞夕刊掲載]の各広告があります。
別紙とも、広告主体[先物取引業者]は同一ですが、『貴金属先物取引は必ずしも利益が保証されているものではありません。短期間で大きな利益を得ることもありますが、相場の変動により損失が生じることもあります。お取引にあたっては十分にご研究ください。』という危険性開示文言が別紙 にはありますが、その他の体裁がほぼ同一である別紙 には記載されておりません。
このような差異については、各新聞社の広告掲載基準に違いがあることもさることながら、それ以上に貴協会自主規制規則の影響を無視することはできないはずです。

3、現行自主規制規則で十分か〜危険性開示文言が不要とされていることの問題点

もちろん、いずれの広告にも貴協会作成の自主規制規則第4・5条に基づく承認番号が付されていることからすれば、貴協会としては、これらの広告が、前記の危険性開示文言の有無にかかわらず、委託者保護という目的(規則1条)に合致し、かつ委託者の誤解を招くおそれもない(規則9条参照)と判断されたものと思われます
しかしながら、一般消費者は、まず当該広告の『歴史的な安値からの反騰の金』という刺激的な文言にひきつけられることを考慮すれば、全く先物取引の危険性開示文言が記載されていない別紙 の広告は、これ自体が貴協会自主規制規則9条の「個別商品の相場観にかかる表示について利益を生じることが確実であると誤解させるべき断定的又は刺激的な表示」ないし同規則9条の「委託者の誤解を招くおそれのあるもの」に該当すると思われます。


4、現行自主規制規則の運用は適正か

一般化されている危険性開示文言自体の問題点
別紙 には前記の危険性開示文言が掲載されています。この文言自体は新聞広告で現在最も一般的に用いられているものですが、そもそもこの文言が委託者保護の観点から十分なものかはなお疑問が残ります。

)第一文は先物取引の危険性を表現してはいるものの、第二文の表現と相俟って、全体としてはなお先物取引ないしそれによる利益について『委託者の誤解を招くおそれのあるもの』ではないかとの疑問があります。
)第二文の「短期間で大きな利益を得ることもありますが・・・・・・・・損失が生じることもあります」との表現は、『大きな利益』に正確に対応するのは『大きな損失』であるから、その点で一般顧客に誤解を生じさせます。
中立的公平な表現としてはア)『損失』を『大きな損失の発生』に、又はイ)『大きな利益』を単に『利益』としたうえで『投下資金以上の損失』が生じることもある旨の表現が妥当と思われます。
)また第二文の「相場の変動により損失が生じることもあります」との表現は、
a)『大きな利益』の発生が相場変動とは関係しないかのごとき誤解を生じさせるとともに、
b)損失発生がすべて相場変動のみに起因し、手数料の負担とは無関係であるかのごとき誤解をも生じさせるものです。
 従って、ウ)『相場の変動により』を第二文の冒頭にも掲げたうえでエ)『相場の変動及び手数料負担による』損失とするのが正確な表現です。
)また翻ってみると、第一文には「『必ずしも』利益が保証されているものでは   ありません」とありますが、これは前記のような問題がある第二文と相俟って、なお不正確な表現なので、『必ずしも』は削除すべきです。
以上を総合すると、一応危険性開示文言を含んでいる別紙 記載広告も、なお,『委託者の誤解を招くおそれのあるもの』といわざるをえませんが、このような広告を貴協会が承認されていること自体、貴協会の自主規制規則の運用の仕方に問題があるものと思われます。
自主規制規則の例外措置の問題点
)なお別紙  は東工取先物市場振興協会の新聞広告と同協会発行のパンフレットであり、これら自体は貴協会の自主規制規則の規制の対象ではありません(自主規制規則第2条、第6条)。
しかし「最終的には金地金(倉荷証券)の受け渡しをすることもできます」(別紙 )、「値段が下がったら金を購入すればよいから安心」(別紙 )との文言は、実際の取引からするとあまりにも現実離れしたものであり、欺瞞的な広告というべきです。
一応、危険性開示文言は目立たぬところに記載されていますが、いずれも活字が極めて小さなものであり、危険性の開示としては全く不十分です。


)自主規制規則では、商品取引所又は関係諸団体の企画立案に係る表示を規制の対象外としています。
しかし、一般顧客にとっては、複数業者が取引所ないし先物市場振興協会等の名の下に大きな紙面を使って広告していることの影響力・信用力ははるかに大きなものであるにもかかわらず、まったく自主規制規則の対象とされないのは問題です。 
このような広告を放置しないようにするためには、貴協会自主規制規則の改正が必要と思われます。


5、まとめ

たしかに広告内容に関する最終的な責任は広告主である商品取引員にあります。しかし現在の商品先物取引被害が、相変わらず不当な勧誘に始まり、両建、転がし、仕切り拒否等のいわゆる『客殺し』という不適正な受託業務によるという実態に鑑みると、冷静な投資家の自由な意思に基づく意思決定がなされている例は、むしろ少数であると言えるのではないでしょうか。
そこで、危険性を伴う先物取引を行うに必要な知識・理解力・資金力の乏しい一般消費者が、客殺し手法の犠牲になることを予防することが不可欠ですが、そのためには、広告の有する社会的な影響力・信用性の大きさを無視することはできません。(社)日本商品取引員協会は、「受託業務に関する自主規制規則の確立とこの遵守・徹底を図るため、自主規制団体としての機能を十分に発揮し、委託者保護の充実と受託業務の適正化に努めること」を主要な役割とされています。そして受託業務の適正化に向けた法令遵守及び委託者保護に係る会員指導だけでなく、商品先物取引業界発展のための先物取引に関する広報活動も行い、これによって先物取引に関する一般的知識の普及啓発を図るという任務を担っておられます。
貴協会が、かかる公共的使命を全うされるためにも、徹底した受託業務姿勢の改善指導だけでなく、 広告・宣伝に関する自主規制規則を商品先物取引の危険性開示に留意して運用するよう適正化されること、さらに 自主規制規則自体の改正により危険性開示文言記載を義務づけられること、そして自主規制規則の例外措置の見直しをされるよう求めるものです。

以上
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