意見書・声明
意見書 会長声明等

 消費者保護基本法改正に関する声明

2004年(平成16年)2月23日

大阪弁護士会        
会 長  高 階 貞 男


消費者保護基本法の改正につき、この度、自民党から消費者保護基本法改正要綱案が公表され、今後、同法の改正作業が議員提案の方法で進められようとしている。

消費者保護基本法改正にあたっては、消費者と事業者の間に情報の質・量及び交渉力並びに資金力等に構造的な格差が存在している経済社会の実情をふまえ、本法の基本理念として、第一に消費生活において侵害されることのない消費者の権利の存在を明確にし、その権利実現のため行政・事業者の責務や消費者政策の方向性を位置づけるものとする必要がある。

同要綱案において、基本理念として、消費者と事業者の間の情報の質・量及び交渉力等の格差を前提としてふまえている点および消費者の権利を基本理念として定めるものとしている点については評価できるところである。
しかし、消費者政策については、現在の経済社会における市場メカニズムの活用の名のもとに、安易に消費者の位置づけを保護から自立へと転換させ、消費者行政を消費者の自立を支援する二次的・補完的なものに後退させてしまうようなことがあってはならない。規制緩和政策が進められる中においてこそ、消費者の権利を明確にし、これを実現するための積極的かつ統一的な消費者政策を展開することが消費者政策の基本理念として明確に掲げられるべきである。

消費者の権利については、特に条項を設け、国民生活審議会消費者政策部会が2003年5月に提言した(1)提供される商品役務に関し安全を確保される権利、(2)消費行動に必要な情報を得る権利、(3)商品役務について適切な選択を行う権利、(4)消費活動による被害の救済を受ける権利、(5)消費者教育を受ける権利、(6)消費者政策に意見を反映させる権利に加え、(7)公正な取引条件および取引方法を提供される権利、(8)消費者団体を組織し行動する権利、(9)不招請勧誘を受けない権利を具体的に盛り込むべきである。

ところで、同要綱案では、行政・事業者の責務とならべて、現行法の「消費者の役割」を「消費者の責務」に変更するとされている。しかし、行政および事業者の責務は、消費者と事業者との構造的格差を是正して消費者の権利を実現するために行政および事業者が消費者に対して負う責務であり、権利主体である消費者を同列に位置づけることは誤りといわざるを得ない。仮に消費者にその権利を適正に行使しうるよう求める必要があるとしても、「消費者の役割」にとどめるべきであり、本法改正にあたり「消費者の責務」として定めることには強く反対せざるを得ない。

また、同要綱案は、法律名を「消費者保護基本法」から「保護」を取り去り、「消費者基本法」とする改正案を盛り込んでいるが、消費者を事業者と同列に扱いその責務を規定しようとするのと同様の問題を孕むものであり、賛成できない。消費者の権利を明確に位置づけて消費者政策を方向づけるという本法の基本理念は、消費者の権利を保護することに他ならず、現行法名の「消費者保護基本法」を維持すべきである。

つぎに、消費者政策の在り方についてであるが、同要綱案において、消費者契約の適正化等にかかる規定を新設するとする点については、評価できる。

苦情処理および紛争解決の促進について、市町村および都道府県が、専門的知見に基づいて適切かつ迅速に苦情処理および紛争解決がなされるよう必要な施策を講じることは、消費者行政の予算・人員の縮小傾向が全国的に大きな問題となっている現状において重要な意義がある。市町村と都道府県の役割分担の明確化が簡易・迅速な苦情処理および紛争解決の促進につながるものとすべきである。

また、国民生活センターは、これまで全国の総合的な苦情相談情報を集約する機能を果たしてきており、消費者被害の実情が都道府県を超えて広域化するなかで、同センターの重要性はますます高まっている。同センターが単に情報提供や啓発の機能にとどまらず、専門的知見にもとづく国の苦情処理機能および紛争処理機能を担うべきことを明確に規定すべきである。

最後に、統一的な消費者行政組織の必要性について、わが国の消費者行政は、分野別の産業育成省庁が付随的に消費者保護権限を行使するにすぎないため、消費者政策の統一性・実効性・迅速性を確保し、消費者の権利を実現するため、総合的且つ実効性ある消費者政策の企画・立案、推進の体制を整備する必要があり、できるかぎり早期に専門的且つ統一的な行政組織を構築すべきである。

以上
TOP