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 日本刑法の原則を否定する「共謀罪」新設に反対する声明

 今国会で、「共謀罪」の新設を含む「犯罪の国際化および組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が審議されている。

 いわゆる先進国サミットにおいて「テロ対策」が至上命題とされるようになって以降、日本に対して「テロ対策立法」が強く要請されたことが、今回の「共謀罪」新設法案の要因となっている。

 確かに、無差別に市民の生命・身体・財産を脅かすいわゆるテロ行為に対しては、それを未然に防止する有効かつ適切な対策が不可欠であると考えられる。しかしながら、「共謀罪」は、なんらの実行行為の着手のみならず予備行為さえも要件としない「共謀」をもって犯罪とするものであり、共謀の概念が不明確である以上、人の内心を処罰することに繋がりかねず、いきおい捜査も人の内心に踏み込んで、自白強要を招き、ひいては、えん罪を生み出しかねない構造上の欠陥を有している。

 しかも、国連条約がもともと取り締まりの対象と予定していた「国境を越えた犯罪」や「犯罪組織の特定」が要件とされておらず、一般の市民団体や企業、労働組合、法律家団体等の活動でさえも取り締まりの対象となるおそれがある。対象となる犯罪は、刑法に定める罪のほとんどのみならず、市民の日常生活にも密接に関連する600以上の犯罪類型に及ぶものである。そのため、市民にとっては表現活動そのものが広く監視の対象とされることになり、無限定な監視社会をもたらし、市民生活を極めて萎縮させることにもなる。

 「共謀罪」はそのほかにも数々の問題を含むが、ここに挙げた問題点は、根本的な欠陥として看過することができないものである。

 なお、日本政府は、国連の国際的組織犯罪条約起草特別委員会に対する1999年3月の政府提案において、「すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を犯罪化することは、我々の法原則と両立しない。」と言明し、実行行為に着手していない「共謀」それ自体を犯罪化することは、日本の刑事法制度と両立しないことを明らかにしていた。まさに、共謀罪の新設は、憲法の保障している思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの基本的人権に対する重大な脅威となるとともに、日本政府も認めているこのような刑法の基本原則を葬り去りかねない危険性を有するものといわざるを得ない。

 よって当会は、「共謀罪」の新設に反対する。

2005年(平成17年)7月29日

大阪弁護士会   
会長 益田哲生

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