意見書・声明
意見書 会長声明等

 大阪市による野宿生活者に対する強制立退きに関する緊急要請

2006年(平成18年)1月25日

大阪市長  關   淳 一  殿

大 阪 弁 護 士 会
会 長  益 田 哲 生

 新聞報道によれば、大阪市は、近日中に、靱公園と大阪城公園にテント・小屋を建てて生活している野宿生活者に対し、都市公園法、行政代執行法に基づく強制立退きを予定しているとのことである。

憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定し、「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を生存権として保障している。また、憲法第13条は、個人の尊厳及び幸福追求権を保障している。
さらに、わが国も批准している国際人権規約の「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(いわゆる社会権規約)第11条1項は、「適切な居住の権利」を保障しているところ、この規定は、(1)高度の正当化事由、(2)真正な協議等の適正手続、(3)適切な代替住居の提供という3要件を欠く強制立退きを禁止している(国連社会権規約委員会の一般的意見4及び同7等)。また、わが国の生活保護法第30条は、「生活扶助は、被保護者の居宅において行うものとする」とし、居宅保護(アパート等での生活保護)を原則とし、施設や病院における収容保護はあくまでも例外と位置づけているのであって、わが国における「適切な代替住居の提供」は居宅保護の実施が原則とされるべきである。
 
 かかる、憲法、社会権規約、生活保護法等の規定に鑑みれば、強制立退きを進めるにあたっては、当事者および関係者と事前に真正かつ十分に話し合うなどの適正手続を尽し、適切かつ十分な代替住居を確保するなどの代替措置を講じることが必要であり、仮に、今回の強制立退きについて、大阪市が、適切かつ十分な代替住居を確保するなどの代替措置を講じることなく、入所・設置期間が限定されかつプライバシーが十分に保護されない集団生活を強いられるような自立支援センター等への入所を勧奨しただけで執行しようとするのであれば、許されないものであると言わざるを得ない。

当会は、これまで、人権救済申立てに関する警告、勧告及び要望の形で、大阪市に対し、野宿生活者に対する生活保護の違法な適用制限を是正すること、公園や河川敷に野宿している人々の違法な強制退去を避けることなどを繰り返し求めてきている。

今回予定されている野宿者に対する強制立退きに際して、大阪市が、これまで当会が行った警告、勧告及び要望、並びに、本件要請の趣旨を十分に理解され、かつ、憲法、社会権規約、生活保護法等の規定を遵守した対処をされるよう、要請するものである。

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