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 憲法改正国民投票法案に関する会長声明

 日本国憲法の制定からまもなく60年を迎える今日、自由民主党をはじめとして政党・マスコミ・財界などから憲法改正に向けた意見や草案が発表され、憲法改正を巡 って様々な議論が展開されている。
 このような中で、日本弁護士連合会は、昨年11月の鳥取市における人権擁護大会において、日本国憲法の理念及び基本原理に関し、(1)憲法は、すべての人々が個人として尊重されるために、最高法規として国家権力を制限し、人権保障をはかるという立憲主義の理念を基盤として成立すべきこと、(2)憲法は、主権が国民に存することを宣言し、人権が保障されることを中心的な原理とすべきこと、(3)憲法は、戦争が最大の人権侵害であることに照らし、恒久平和主義に立脚すべきことの3点を確認した。
大阪弁護士会もこの三つの理念に立つものである。
 ところで、1月20日に6月18日までの予定で第164回通常国会が開会したが、新聞報道等によれば、今国会において憲法改正手続を定める憲法改正国民投票法の成立を目指す方針が与党間において確認され、今後、与党は民主党と協議して法案を整え、議員立法として提案する予定と伝えられているところ、自民党が国民投票法案の検討の基本としている案は、現在でも2004年(平成16年)12月3日に国民投票法等に関する与党協議会が発表した「日本国憲法改正国民投票法案骨子(案)」(以下「法案骨子」という。)と見られる。
しかし、以下のとおり、この法案骨子には、国民主権の観点から重大な疑義があり、到底容認できないものがある。

  1. 国民投票運動の自由が最大限尊重されるべき
     日本国憲法は、主権が国民にあることを宣言し、公務員を選任・罷免する権利が国民に存することを明らかにすると共に憲法改正には国民投票の過半数の賛成を必要とすると定める。これは、国民主権の自然な帰結であり、憲法改正の国民投票行動こそ、国民が主権者として行動する最高の機会である。国会議員等を選挙する投票行動は間接民主制の理念によるが、憲法改正のための国民投票こそ、国の最高法規たる憲法を国民の意思により決定する直接民主制の表れであり、国民が直接主権者として行動する最高の機会である。
     そうであれば、この憲法改正国民投票法こそ、国民主権の原理が法文の隅々にまで貫徹される法律であることを要する。
     しかるに、法案骨子は、国民投票にあたり、国民こそ主権者として自由に意見を尽くし、主権者としての意思形成を全うすることを保障する手続法であるという認識を欠き、逆に国民の自由な運動を制限することにのみ関心が向き、運動の規制のみが厳重に規定されており、到底賛成できない。
    すなわち、法案骨子によると、国民が情報を得て議論を尽くす前提となる新聞、雑誌、テレビ等のマスメディアの報道及び評論に広範な制限を加え、その上に公務員や教育者、外国人などが、国民投票運動に参加することに厳しい制限や罰則を設けている。これらの規定は、国民の知る権利を奪い、国民の自由な議論や表現の自由を制限し、ひいては国民の主権者としての行動を抑圧することとなる危険性がある。現在、メディア規制の撤廃が検討されているというが、それだけでは不十分であり、仮に規制するとしても、国民の自由な意思形成を不当に妨げる現実の妨害行動を必要かつ最小限規制するにとどめるべきである。

  2. 国民が議論を尽くすための十分な期間と方策を規定すべき
     国民投票法においては、国民投票運動に対する規制を必要最小限度にとどめるだけでなく、国民投票が国民主権の直接行使の最高の場面であることに照らせば、むしろ、国民投票法案には、国民が議論を尽くすための十分な期間と方策をこそ規定すべきである。すなわち、国民投票法には、国民投票における国民の権利として、広く国民が憲法改正に関する情報を得る手段・方法の保障と、その要否や論拠について自由に議論するのに十分な期間と機会が付与されるべきことを、その具体的な方策も含めてまず第一に規定すべきである。
     ところが、法案骨子には、前記のとおり、国民投票運動の規制のみが規定され、十分な情報流通と議論を保障する規定が全く欠けているばかりか、周知期間も30日以降90日以内と極めて短いものとなっている。これでは、国民は、ほとんど何の議論もできないまま投票場に向かわざるを得ないことになりかねず、問題である。

  3. 論点ごとに国民の意見を反映できる投票方法とすべき
     さらに、法案骨子において、問題点・論点ごとに国民の意思を個別に反映させるという観点からの規定がないのは大きな問題である。
     国民主権の観点からすれば、できるだけ問題点・論点ごとに、国民の意見を集約して憲法改正に反映することが望ましい。問題点・論点が異なるのに、これを強いて一括して賛否を問うのは、国民の意思を反映したものにならない危険性がある。憲法改正案の問題点・論点ごとに国民が賛否の意思を明示できる発議方法及び投票方法を是非とも採用する必要がある。
     ところが、法案骨子は、投票方法は発議の際に定める別の法律の規定によるとするのみであり、これでは、異なった問題点・論点を一括して投票させることを狙った法案であると評価するほかない。

  4.  その他、法案骨子には、過半数の母数を総投票数とするか有効投票数とするか、年齢も含めて投票権の範囲、投票率に関する規定の不備、国民投票無効訴訟の問題点等、看過できない問題点が多数含まれている。

以上から、大阪弁護士会としては、あるべき憲法改正国民投票法として、現在の法案骨子には根本的欠陥があるといわざるを得ず、これに強く反対するものである。

2006年(平成18年)2月23日

大 阪 弁 護 士 会
会長  益 田 哲 生

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