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 会長声明 ―自衛隊法の一部改正法に関する声明

 本日、自衛隊法の一部改正法が成立した。この改正法にはいくつかの問題があるが、なかでも、防衛秘密保護規定を設け、これに違反した者に対して刑事罰を科すこととしたことは、看過できないものである(同改正法第96条の2及び122条)。

 まず、この改正法による保護の対象たる「防衛秘密」は、その範囲が包括的で漠然とした不明確なものであり、しかも「防衛秘密」の指定は防衛庁長官の専権とされており、その判断の妥当性について第三者機関のチェックを受けることはない。このような「防衛秘密」の保護規定に違反する行為に対し刑罰を科すことは、我が国の刑事裁判の大原則である「罪刑法定主義」に反するものである。

 また、同改正法は、行為主体を自衛隊員に限らず、防衛庁と取引する民間業者も処罰の対象とし、さらに、漏洩行為の教唆、煽動や過失までも処罰の対象とし、対象の範囲を著しく広げている。

 このような改正法は、防衛に関わると思われる問題について、市民、メディアが情報を入手し、自由に議論することを処罰の対象とすることにより、防衛問題についての報道を規制し、市民が口をつぐまざるを得ない状況を引き起こすものであって、表現の自由、報道の自由及び主権者たる国民の知る権利を大きく侵害するおそれがある。

 かつて、当会や日本弁護士連合会は、本改正と同じく刑罰をもって国家機密を保護しようとした「国家機密法案」を、知る権利、言論の自由への侵害であるとして市民と共に反対運動を展開し、1985年に廃案に至らせた。

 今回の改正法は、この「国家機密法案」の焼き直しに他ならず、主権者たる国民の権利を大きく侵害する恐れがあるものと言わざるを得ない。しかも、充分な国民的議論がされないまま、テロ対策特別措置法案の審議に紛れて成立させたものであり、まことに遺憾である。

 よって、今回の自衛隊法の一部改正法の施行にあたっては、今後、「防衛秘密」の指定を実質秘密に限定し、罰則についてはいやしくも国民の知る権利を侵害することのないよう慎重な運用を図るとともに、できるだけ早期に国民的議論を経たうえで、その見直しを図ることを求めるものである。
 

   2001年10月29日
      
大阪弁護士会
会長 水 野 武 夫
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