近畿弁護士会連合会人権擁護大会シンポジウム開催のご案内
近畿弁護士会連合会では、来る11月26日(金)午後1時30分より、人権擁護大会を開催いたしますが、当日の午前9時30分〜12時30分の間に、人権問題関連、公害対策・環境保全問題関連のシンポジウムを開催いたします。この2つのシンポジウムにつきましては、市民の方々の多数のご参加を賜りたいと存じます。参加費は無料ですが、資料を購入される場合は、それぞれ1,000円にてお買い求めになれます。
なお、ともに、開催場所は、新阪急ホテル(JR大阪駅下車すぐ)の2階会議場になります。
第1分科会(人権シンポジウム)
「在宅高齢者虐待防止システムを考える」
家庭内ではプライバシーが保護される反面、そのために閉鎖的な環境ができあがってしまい、構成員の中の弱者は強者から虐待を受けることが社会的問題となってきました。親に虐待される子ども、夫に虐待される妻、そして息子夫婦や配偶者に虐待される要介護の高齢者。
虐待の態様は様々ですが、いずれも弱みに付け込んだ陰湿な人格攻撃であり、反抗できないことを知った上でのいたぶりなど、その被害者の尊厳自体を傷付け踏みにじる行為であって、明らかな人権侵害行為であるのみならず、場合によっては犯罪になります。また、献身的介護の末の無理心中も深刻な問題であり、虐待として位置づける必要があります。家庭という身近な環境の中で虐待行為が行なわれていることは到底放置できないことであるにもかかわらず、制度的な取り組みは進みませんでした。その背景には、「法は家庭に入らず」という、家庭内の問題は家族の自治的解決に委ねるのが望ましいという配慮があり、そのために虐待という深刻な問題についても、社会の側からの働きかけや介入には慎重にならざるを得なかったという事情があったといえます。
しかし、家庭内での自治的解決基盤が崩壊し、支配服従関係が蔓延している場合にまで放置された結果、虐待環境はさらに深刻なものになってしまっています。
子どもや配偶者に対する虐待防止については、それぞれ立法的解決がなされましたが、高齢者については未だ放置されたままです。高齢者の場合は、高齢者側、虐待者側それぞれに虐待の要因が認められ、解決すべき課題があることが指摘されています。
近畿弁護士会連合会として、この虐待を防止するシステムを提起することが急務であることを社会に提起する一方、各弁護士、弁護士会において具体的なケースに対応できるように研鑽を積む必要があり、最終的には高齢者虐待防止法の制定を実現させる必要があります。
高齢者介護に関する分野での弁護士の取り組みは実績が浅く、医療・保健・福祉の関係者から貴重なアドバイスを頂きながら進める必要があります。
多くの弁護士、市民がこの問題に関心を持ち、在宅高齢者に対する虐待を防止し、尊厳を維持する活動に参加して頂くよう強く要請していきたいと考えます。
第2分科会(公害対策・環境保全シンポジウム)
「人と環境に優しい都市づくりを考える」-病める都市から持続可能な都市へ-
- 「病める都市」の現状
今年の夏、大阪では、真夏日(最高気温が30度を越えた日)が過去最高の90日以上もありました。そのうえ35度を越える猛暑日も多く、この暑さは異常としか言いようがありません。平均気温の上昇からも近時の大都市部の異常な暑さが裏付けられています。地球規模での温暖化によって、全国的にもこの100年で平均気温が1度程度上昇しましたが、大阪では2.1度、東京では実に3度も上昇しています。これは、いわゆるヒートアイランド現象が一因とも言われています。都市内から緑や水辺が極端に少なくなる一方で、無計画に高層ビルが林立し、都市空間はコンクリートとアスファルトで被われた潤いのない空間へ変貌してきました。これがヒートアイランド現象の最大の原因です。大都市の病はそればかりではありません。クルマで溢れかえる道路と排ガスによる健康被害の広がり、コミュニティーの崩壊に伴って人と人との連帯も失われつつあります。こんな「病める都市」では、私たちは住み続けることができません。
- 「病める都市」の原因はどこにあるか
では、こうした「病める都市」になってしまった原因はどこにあるのでしょうか。まず、指摘できるのは、戦後一貫して、生活・環境基盤より、道路等の産業基盤への公共投資が重視されてきたことです。日本の大都市の公園比率が欧米諸国に比較して極端に低いことなどはその良い例です。法制度の面では、戦後長らく戦前の旧都市計画法が改正されず、都市計画は都市計画決定権者=国があらゆることを考慮して決定すれば足りるとの思想にもとづく法システムが厳然と存在していたことも原因の一つです。昭和43年に都市計画法の大改正があり、さらに地方分権一括法で、都市計画は地方自治体の事務(自治事務)とされましたが、道路一つをとっても、基本的には道路計画の策定も、予算も、さらには工事の方法なども国が決めており、地方自治体は、国が決めた計画の後を追って、道路「用地」を都市計画決定するにすぎず、こうした実態は現在も依然として変わっていません。さらに、日本の土地利用の公共的コントロールが極めて緩いことも原因の一つです。例えば、昭和43年の法改正で「容積制」が導入されましたが、当時の西ドイツの建築利用基準と比べても4〜5倍の容積率の設定であり、西ドイツで設定されていた階数制限はなく、むしろ住居専用地域を除いて高さ規制が撤廃されてしまいました。
- 諸外国の多様な取り組み
一方、ヨーロッパの諸都市も70年代から80年代にかけて、大気汚染や交通渋滞、、乱開発など様々な都市の病に遭遇しました。しかし、今、「病める都市」からの転換をめざした多様な都市づくりの取り組みが進められています。LRT(新型路面電車)などの公共交通を充実させるなかで都心部からクルマを排除し、再び都心部を活性化させて都市再生を実現したストラスブール。交通、エネルギー、廃棄物などトータルな環境都市をめざして取り組みを進めているフライブルグ。ロードプライシングを実施して都心部の交通量を大幅に減少させ交通渋滞と大気汚染の緩和を実現しているロンドン。さらにアジアに目を転じれば、都心部の交通量を抑制して潤いを回復するために、高架高速道路を撤去してその下に眠っていた川を復元する清渓川復元事業が進められているソウル。この復元計画は、都心部の高架高速道路を撤去するはじめての試みであり、世界的にも大いに注目されています。
- 「持続可能な都市」とは
こうした新たな都市づくりのキーワードとなっているのが、「サスティナブル・シティー(持続可能な都市)」です。EUの報告書では、サスティナブル(持続可能性)とは「経済、社会、そして文化的な次元を持ち合わせ、現在における様々な人間相互の公平性や世代相互の公平性を含む概念である」と定義されています。つまり、「サスティナブル・シティー(持続可能な都市)」とは、社会、経済、環境の各側面から持続可能性を統合的に追求するものであり、徹底した住民参加を前提とした内発的発展をめざした都市づくりであると言えます。そして、こうした方向こそ、環境の世紀といわれる21世紀にふさわしい都市づくりの方向であり、遅きに失した感はありますが、わが国でも、それに向けた政策転換と法システムの構築が求められています。
- シンポジウムの内容
今回のシンポジウムは、以上のような問題意識に基づいて、「持続可能な都市」「人と環境に優しい都市づくり」について考えていきたいと思っています。
シンポジウムでは、はじめに、現地調査を踏まえた日本の「病める都市」の現状とヨーロッパやアジアの先進的な取り組みを紹介し、これを受けて環境経済学の植田和弘京都大学教授から「日本の都市問題とサスティナブル・シティ」をテーマにした基調講演をいただき、その後植田教授ほか4名のメンバーによるパネルディスカッションを予定しています。パネリストとしては、植田教授の外、大阪市から1名、8月に住民参加のまちづくりを公約に掲げて当選した箕面市長、都市政策の専門家であるNPO政策研究所の木原氏、さらに長堀・南船場で地域のまちづくりに取り組んでいるNPO法人「長堀21世紀計画の会」の成松孝氏の5名の多彩なメンバーを予定しています。日本の大都市の抱える問題は何か、持続可能な都市とはどのようなものか、そうした方向に政策転換を行うポイントは何か、そこでの住民参加の重要性と住民参加をより一層進めるためにはなにが必要か、さらに法システムの問題点は何か等、バネリストとともに考えていきたいと思っています。
「持続可能性」は、いま、あらゆる場面で重要なキーワードとなっています。もはや従来の経済効率優先の都市づくりでは未来への展望を拓くことはできません。新たな発想からの都市づくり、まちづくりを共に考えていこうではありませんか。シンポジウムに多くの皆さんのご参加をこころよりお願いいたします。
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