内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 婚約不履行 】

婚約の成立と不履行
婚約不履行の認定についてお聞きします。
私は大阪市内の会社に勤めるOLです。同じ職場の30才の男性と2年間にわたって交際しており、2人の間では結婚するという口約束も交わしていました。
ところが、最近になって、私が「そろそろ結婚したい」と、ほのめかしたところ、彼は何かと理由をつけて私を避けるようになってしまいました。このままでは結婚できそうにありません。友人に相談したところ、「口だけの結婚の約束なんか当てにならないんじゃないか」とも言われました。彼と交際していることは周りには秘密だったし、彼の両親にも紹介されていないので、彼が「そんな約束はしていない」と言い出せば、確かに「婚約の証拠」といえるものはないのです。でもこのままでは非常に悔しく納得できません。私が彼を婚約不履行で訴えることはできないのでしょうか?
相談者: 兵庫県に住む女性(27才)
1.婚約の成立
一般に、「婚約」とは、法律上の「婚姻予約」を意味します。婚姻予約には合意書等の書面の作成は全く不要であり、両性の同意により、婚姻予約は成立します。
もっとも、一般には、婚姻予約は結納式を行う等の形式を伴うことが多く、通常は、婚姻予約(婚約)は結納式がなされたときと認定されることも多いと思われます。ただ、もちろん、結納式がなくても、婚約は成立したと認定されることもありえますし、結納式が行われても、結納式のときではなく、違うときの婚約が成立したと認定されることもありえます。
また、結婚指輪等のプレゼントの有無も1つの基準になると思われます。また、性的関係の有無、期間、継続性も認定要素になります。
要は、最終的には、裁判所による事実認定に委ねざるを得ない法律問題であると思います。
本設問では、相談者は相手方と口約束を交わしたということですので、いつ、何処で、誰から、どういう婚姻の申込があり、これに対して、誰が、どのように婚姻の承諾を与えて、どのような形で婚姻予約が成立したかを具体的に主張、立証ができれば、婚姻予約が成立したと裁判所が認定する可能性はあると思われます。
裁判上は、相手方が婚姻予約の成立を争った場合、婚姻予約の成立は、婚姻予約の成立を主張する者(相談者)が主張・立証する必要がありますので(主張立証責任といいます)、実際の訴訟では、主として当事者尋問により、どれだけ、双方の具体的な言葉のやり取りを再現できるかがポイントとなると思われます(参考までに、文献をお送りします)。
2.本設問に対する回答
本設問では、相談者が「そろそろ結婚したい」とほのめかしたところ、相手方が理由をつけて避けるようになったとのことです。
婚約が成立していたとして、このように正当な理由もなく相談者と会うことを避けたからといって、直ちに婚約不履行といえるかどうかも問題となりえます。
この点をはっきりさせるためには、まず、相談者の方から、できれば、文書等の形の残る手段を用いて、相手方に対し、「○月×日に婚姻予約が成立していること、一定の期限内に右約束を履行すること」を求めてはどうでしょうか。
そのうえで、右期限内に何らの返事もない場合に、婚姻予約(婚約)の不履行を理由に相談者が被った損害の賠償を求めることになります。もちろん、婚約の履行請求訴訟も可能ですが、強制的な履行は認められず、無意味な訴訟になります(参考までに、文献をお送りします)。
かかる訴えは、結局は、契約の不履行に伴う損害賠償請求という形をとることになります。損害として、慰謝料や婚約の成立に伴って購入した結婚指輪代金の返還、嫁入り道具購入費の返還等を求めることが考えれられます。
そして、実際の訴訟においては、婚約の成否と婚約を破棄する正当理由の有無がもっとも大きな争点になると思われます。
特に、婚約の破棄理由次第では(たとえば、いわれない結婚差別等が実際の理由の場合)、相談者に多額の慰謝料が認められることもありますが、本件では、周囲の人々に秘密とされており、相談者も嫁入り準備のために会社を辞めたわけでもないようですので、婚姻予約の成立が認められたとしても、被害が表面化しておらず、なかなか、大きな損害賠償が認められる可能性は低いと思われます。
出典: 土曜日の人生相談(2000年7月1日放送分)
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