内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 購入/契約 】

所有地に放置された自動車の処分
放置自動車の件で伺います。
我が家は郊外の一戸建てで、自宅の隣の土地も我が家の所有地です。以前はそこで母が家庭菜園をやっていたのですが、母が亡くなって現在は更地となっています。
実はその土地に誰かが古い汚れた自動車を乗り捨てていき、大変困っています。古い国産車で、ロックはされていなくて、塗装はところどころ剥げ落ち車内も汚れています。ナンバーも外されており、車内を調べても所有者がわかる手がかりは全くありません。乗って来て放置したのかほかの車で牽引したのか、どうやら夜中にこっそり置いていったようです。
警察に連絡しようかとも思ったのですが、夫は「私有地だから警察に言っても無駄では」と言います。かと言って業者に処理を頼むと費用がかかってしまい、我が家が払うのは納得できません。いったいどうすれば良いのでしょうか?
相談者: 奈良県にお住まいの女性(58才)
1.あなたとしては、相手方の費用で、本件自動車を片づけてもらいたいことでしょう。そこで、民事上の責任追及の相手方を探すことが先決になります。
しかしながら、道路運送車両法によっても、自動車登録番号が判らない限り、所有者を割り出すことはできません。
2.そこで、警察に頼ることが考えられます。すなわち、警察に対し、本件自動車の保管をしてもらうこと、民事上の責任追及のために本件自動車を放置した者を探してもらうこと、本件自動車を放置した者に対する刑事上の責任を追及してもらうことです。
あなたの私有地内に放置された自動車は、ナンバープレートが外され、古いもので、ロックがされておらず、塗装も所々はがれて、車内に何の手がかりもないようですので、捨てられたものと思われます。
とすれば、本件自動車は、法律的には、「産業廃棄物」ではないので、いわゆる廃棄物処理法の「一般廃棄物」に当たると思われます。
したがって、本件放置は「一般廃棄物」の不法投棄として、1年以下の懲役、300万円以下の罰金に当たると思われます。
そうである以上、本来、被害者のあなたは告訴することができます。被疑者不詳でも告訴はできますが、犯罪の重大性の程度からして、実際に捜査が開始されるか、領置(脚注参照)してもらえるか疑問です。また、仮に車のエンジンルーム内に打刻してある車台番号から警察の調査で所有者を探し得るとしても、同様です。ただ、同一人が、継続反復して、自動車なと廃棄物をあなたの空き地に捨てたという事実が明らかになった場合は別ですが。
ですから、結論的には、警察に自動車を引き取ってもらうことも、不法投棄したと思われる者を探してもらうことも、その者に刑事罰を課してもらうことも困難でしょう。
3.こうして、運良く警察から所有者らしき者を教えてもらえたとしても、実際には、悪質な廃棄物処理業者が、自動車をスクラップにするといい、その所有者から当該自動車を受け取り(所有権を取得し)ながら、その後、廃棄物処理法等の法令の規制に反して、不法に投棄することがままあるようです。この場合、本件自動車のスクラッブを請け負った廃棄物処理業者が加害者となりますので、その所有者から廃棄物処理業者を割り出さなければなりません。
ここまで来てやっと、あなたは、加害者に対し、あなたの土地の占有を害しているとして、本件自動車を自己の費用で引き取るように、請求することが可能になります。この権利は妨害排除請求権といいます。また、あなたがすでに自己の費用で廃棄物処理業者に本件自動車のスクラップを頼んでしまった場合には、この費用について損害賠償請求することも可能になります。この権利は不法行為に基づく損害賠償請求権といいます。
4.畢尭するに、あなたが覚悟していたとおり、ご自分の費用で捨てざるを得ないということになると思います。
ただ、廃棄処分後になって本件自動車が盗難車であり自分が所有者であると名乗る者が申し出てきたり、やくざまがいの輩が当初から言いがかりをつけて金銭をせしめようとしていた場合であったり、あるいは本件自動車の放置が何らかの犯罪行為に関係していたことなども考えられなくもありません。
そこで、後日無用の紛争に巻き込まれる危険を回避するという意味で、不審な自動車が自宅の土地に放置してあるとして、事前に速やかに警察に届け出て、警察の見分、指示を待ち、その上で廃棄処分することが無難でしょう。もうお気づきのことと思いますが、今後は空き地にはきちんと囲いをすることをお勧めします。
*領置とは、被疑者などが遺留した物、又は所有者若しくは保管者などが任意に提出した物を受け取る処分です。
出典: 土曜日の人生相談(2000年5月20日放送分)
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