内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 日照権と電波障害 】

隣地にマンション、日照権はどうなる?
住宅の日照権についてお聞きします。
我が家は一昨年購入した中古マンションに暮らしています。
これまで問題はなかったのですが、昨年末マンションの南隣の古い大きな家と土地が売りに出され、某大手マンション業者が購入しました。その後、家は取り壊され、現在は更地になっています。どうやら新しく賃貸マンションが建設されるようです。
どんなマンションが建つのかはっきりしませんが、どちらにしても南隣に大きな建物が建つと日当たりが悪くなったり、住民の目線が気になったり、問題が起こりそうな気がします。
そこで相談なのですが、日照権を守るためという理由で、なるべく日照などに問題が起こらないような設計にしてもらうなど業者に申し入れることはできるのでしょうか。
またそれを受け入れてもらうために何か有効な手段はあるのでしょうか。現在隣近所の住民同士あまり付き合いはないのですが、やはり共同で申し入れなど行った方が良いのでしょうか。
相談者: 兵庫県にお住まいの男性(46才)
1.日照については、大別して、建築基準法による規制と、日照権による保護があります。
2.建築基準法による規制
(1)建蔽率と容積率の制限
土地に建物を建築する場合、建蔽率と容積率の制限があります。
建蔽率とは、建築物の建築面積の敷地面積に対する割合であり、容積率とは、建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合であって、用途地域ごとに建蔽率と容積率が定められています。
建蔽率と容積率は、直接的に日照を保護しようというものではありませんが、用途地城によって建物の規模が制限されるという意味では、日照に関連するものです。
建蔽率については建築基準法53条で、容積率については52条で、用途地域ごとに詳細に区分けされていますので、具体的には役所でお訪ねください
(2)高さ制限
次の2つがあります。
イ.直接の高さに対する制限
第1種低層住居専用地域、又は第2種低層住居専用地域においては、建築物の高さは、10メートル又は12メートルのうち、当該地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を越えることはできません(建築基準法55条1項)。
従って、地域によっては高さ制限の対象となることがありますが、例外もありますので、詳細は、役所でお訪ねください。
ロ.斜線制限
斜線制限とは、建築物の敷地の前面道路や隣接地の上空を、一定の角度で解放し、道路や隣接地の日照を確保しようとするものです。
あなたの場合は、道路の日照は関係ありませんので、隣接地の日照に関しての斜線制限をご説明いたします。
<隣接斜線規制〜建築基準法56条1項2号>
非常に分かりにくい規定ですので、詳細は省略いたしますが、要するに、隣接地と建物の建築位置との感の距離に応じて、建物の高さを一定限度内に使用とするものです。
<北側斜線規制〜建築基準法56条1項3号>
第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地城、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域において適用されるもので、北側境界に隣接する土地について、隣接斜線規制を強化し、高さを制限したものです。
ハ.日影による中高層建築物の高さ制限(建築基準法56条の2)
これも非常に分かりにくい規定ですので、詳細は省略いたしますが、要するに、地域によって、冬至の午前8時から午後4時までの間において、一定の時間以上の日影が生じないようにするものです。
(3)以上のように、建築基準法において、いろいろな規制をして日照の保護をしています。
あなたがお住まいとのところで、どのような規制があって、どのような建築物になるかを調査してみればどうでしょうか。案外、規制が大きくて、予想したほどの建築物が立たないかもしれません。
3.日照権による保護
(1)建築基準法に定める各種の規制、特に日影規制に適合していても、建築基準法は、建築物を単位として規定しておりますので、複数の建物が日照を阻害する複合日影の場合は、建築基準法上の日影規制だけでは解決できませんし、建築基準法上の日影規制の対象にならない地域でも、現実に、日照阻害が出る場合には、別途、救済方法を考えなければなりません。それが、日照権です。
日照権が認められる根拠は、専門的になり過ぎますので割愛しますが、今日の裁判例においては、異論なく認められています。
(2)では、日照権が侵害された場合、どのような請求ができるでしょうか。
裁判例によれば、「損害賠償」と「建物の建築の差止め」を求めることができます。
(3)損害賠償について
日照が侵害されて損害が発生し、それについて、加害者に故意又は過失があり、かつそれが違法であるという場合に、損害の賠償を求めることができます。
問題は、どのような場合に違法であるかということですが、一般論として、単に日照が阻害されるというだけでなく、その程度が受忍限度を越える程度のものであることが必要であるといわれています。理由は、日本のような狭い土地において、全ての日照阻害が違法であるとしますと、建物を建築することは、殆ど不可能になってしまうからであり、一定限度を越えた日照阻害についてのみ、不法行為であるとするものです。
では、受忍限度を越えているかどうかは、どのようなことから判断されるのでしようか。
多くの裁判例を見ますと、(1)被害の程度はどうか、(2)地域性により日照保護の必要はどの程度であるか、(3)加害建物に被害を回避するための配慮がなされているか、(4)被害建物に、配置や建物の構造の上で、日照被害を避ける配慮がなされているか、(5)被害建物が住居であるか倉庫に過ぎないかといった被害建物の用途、(6)加害建物が学校や病院といった公共物であるか、専ら営利を目的とするマンションであるか、(7)加害建物が建築基準法などの法令に適合しているかどうか、(8)交渉時において誠実に対応したかどうか、など数多くの要素を総合的に判断して、検討されているようです。
(4)建築工事の差止めについて
多くの裁判例は、損害賠償請求の場合に比べますと、差止めについては、慎重であるようです。一般論としては、工事を差し止めることによる当事者への影響の程度、差止めをしないときの当事者の利益と不利益、建物の社会的有用性などの要素を総合的に検討して判断されることになりますが、よほどひどいという場合でないと差止めまでは難しいと思います。
(5)以上のように、日照権が阻害される場合をご説明しましたが、受忍限度を越えているかどうかは、個別に検討をしなければなりませんが、非常に、専門的な知識が必要ですので、ご心配であれば、弁護士さんにご相談されれば如何でしようか。
4.具体的な方法について
(1)設計において配慮を申し入れをすることができるかどうかは、相手業者によって異なると思います。大手業者などの場合は、社会的信用を重んじることがありますので、申入れをされますと、結構、紳士的な応対をされる場合があります。
しかし、それも、相手業者次第であるということになりますので、一概には言えません。
もう一つ、直接、業者に申し入れる以外に、行政に要望をするという方法もあります。具体的には、建築指導課が対象になると思いますが、住民が受ける被害を具体的に行政に訴えて、行政から業者に対して、指導をしてもらうのです。
この方法は、強制力はありませんが、建設業者は行政庁の指導を無視し難いものですので、案外、効果のある方法です。大手業者などの場合は、特にそうです。
その意味で、行政に相談されれば如何でしょうか。
(2)交渉の方法については、個別交渉よりも、団体で交渉される方が良いと思います。業者にとっても、一人でこられるよりは、団体でこられた方がやっかいでしよう。
(3)以上、個別交渉をしてもうまく行かないというときは、法的手段しかないと思いますが、調停や訴訟という方法になりますので、弁護士さんに相談される方がよいと思います。
5.住民の目線が記になるというのは、プライバシーの問題と思います。
(1)法律上は、境界線から1メートル未満の距離において、他人の宅地を見ることのできる窓や縁側を設ける場合は、目隠しを設置しなければならないとしています(民法235条)。
従って、相手の建物の窓等が、境界線から1メートル未満のところにあるかどうかを確認しなければなりません。
(2)仮に、相手の建物の窓等が、境界線から1メートル未満のところにある場合は、目隠しの設置を要求することができます。
申入れをしても応じない場合は、裁判で目隠しの設置を求めることもできます。
出典: 土曜日の人生相談(2000年4月8日放送分)
戻る