内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 財産分与 】

離婚後でも財産分与はできるの?
離婚の際の財産分与についてお聞きします。
私は、昨年三十数年連れ添った夫と離婚しました。結婚以来仕事仕事で家庭を顧みることもなく、浮気も再三の夫にほとほと愛想は尽きていたので、子供たちが独立したのを機に、私から「別れて欲しい」と言い出したのです。夫はもちろん反対しましたが、私の決意が固いのを見てあきらめたようです。
そのときは、大した財産もなく、争いが長くなるのがイヤだったので、財産分与は相手も納得する程度の金額しか受け取りませんでした。
ところが、夫と同じ会社に勤めている娘婿が教えてくれたのですが、最近夫は退職してかなりの金額の退職金を受け取ったようなのです。離婚のときには「退職金はとるに足らない金額しか出ない」と言っていたので信用したのですが、実際はかなり高額だったようです。騙されていたようで腹が立つのですが、あらためて財産分与分を請求することはできるのでしょうか?
相談者: 兵庫県にお住まいの女性(59才)
1.財産分与について
(1)一般に、財産分与という場合、(1)夫婦協力によって築き上げた財産を、離婚に際して清算すること(夫婦財産の清算)、(2)離婚後、生活に困る配偶者に対して、扶養を継続すること(離婚後の扶養)、(3)離婚されたこと自体を原因として生じる精神的損害の賠償(慰謝料)としての要素が含まれるとされています。
(2)上記(3)は、相手方の有責な行為によるもので、(1)(2)とはややニュアンスが異なりますが、財産分与の額などを決める際、「一切の事情」が考慮されることになっており(民法768条)、協議離婚の際金銭のやりとりがなされたときは、全ての要素を含んでいることが多いと思われます。
2.退職金と財産分与について
(1)まず、一般的に、退職金が、財産分与の際にどう扱われるかですが、一般的なサラリーマン世帯においては、退職金は重要な財産であり、夫が働き、妻が家を守ってきたという場合、退職金は、妻の協力によるところが少なくないということで、清算の対象となるものとされています。
(2)判例においても、(1)離婚の時既に支払われている退職金は精算の対象となるとされていますし、(2)支払われることが確実な場合も清算の対象と扱われています。また、(3)支払われる額などが確実でなくても、財産分与の額を決定する「一切の事情」に含めて扱われています。
(3)本件においても、実際に支払われた退職金の額を基準にして、財産分与がなされるべきであったと言えます。
3.あらためて財産分与請求することについて
(1)話し合いをして財産分与を受け、離婚に応じたという場合、原則的には、それで離婚に関係する一切の紛争は解決し、あらためて財産分与請求をするなどといったことはできなくなります。
しかし、財産分与の額を決める際、事情として考慮されるべきことが考慮されていなかったり、額を決めた後に、事情が一変したりすることもあります。そのような場合、あらためて請求することができないというのは不公平に感じられます。
(2)判決の中にも、財産分与の判決が確定した後であっても、判決の基礎とされた事情に錯誤があり、またはその後の事情の変更により、これを維持して当事者を拘束することが著しく信義、公平に反する場合には、これを取り消し、変更することができるとの一般論を述べたものがあります。
(3)話し合いによって財産分与がなされた場合にも、分与の内容等を変更することが可能であると考えられます。具体的にどのような事情があればこれが認められるかは難しいところですが、本件においては、夫か詐欺的な発言をして、妻がこれを信用したということですから、変更が認められる可能性はあると考えて良いでしょう。
なお、財産分与の請求は、離婚後2年以内にしなければなりません(民法768条2項)ので、その点に注意する必要があります。
出典: 土曜日の人生相談(2000年3月18日放送分)
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