内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 自賠責 】

友人に貸した車が事故。あなたに責任はある?
事故の損害賠償についてご相談します。
先日友人に頼まれて、彼に私の車を貸しました。ところが、友人はその車でバイクと接触事故を起こしてしまい、バイクに乗っていた相手は大ケガをしてしまったそうです。事故の原因は友人の不注意運転ですが、相手も法定速度以上にスピードを出していたとのことです。
その後、友人は相手と損害賠償の交渉をしましたが、条件が折り合わずに決裂してしまいました。
すると相手は、友人と私の2人を相手に損書賠償請求の裁判を起こしてきたのです。私は車を貸しただけで、事故には何の責任もないと思うのですが、友人と連帯して責任をとれというのです。自動車に欠陥があったわけでもないのに、私まで訴えられるのは納得がいきません。
こういう揚合、私に毛責任かあるのでしょうか。
相談者: 大阪府にお住まいの33才の男性
1.自動車の運転手が過失によって事故を起こして他人に損害を与えた場合には、不法行為として損害賠償義務を負います。
民法の原則(加害者が故意又は過失によって他人の権利を侵害した場合にのみ責任がある(過失責任主義))からは、運転手のみが右責任を負うべきものとなります。
2.しかしながらこの原則を貫くと、因果関係など立証に困難を伴い被害者救済が十分でありません。そこで、自動車損害賠償保障法は、被害者救済のため、危険を伴う自動車を運転させ利益を享受している者に対し、自動車の運行による人身事故については、厳格な責任を負わせることにしています。
すなわち、「運行供用者」は、(1)自己及び運行者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、(2)被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと、(3)自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことの3要件を立証しなければ、賠償責任を免れることができません。実際に、この3要件を全て立証するのは困難ですから事実上の無過失責任です。本件でも、(1)の友人に過失がなかったことは立証できないでしょう。
ですから、あなたが「運行供用者」になるか否かが責任の有無の1つの分かれ目となります。「運行供用者」とは、判例によれば、自動車の運行を支配し(運行支配)、その運行から利益を得ている(運行利益)者をいいます。
3.本件についてみれば、たしかに友人は好きなように運転しているでしょうからあなたは友人の運行を支配していないし、またあなたはその友人に好意で貸したのでしょうからその運行から利益を得ておらず、「運行供用者」に当たらないようにもみえます。
しかし、高裁判例では、他人に自動車を一時的に貸与した場合でも、運行が借受人のため専ら排他的に行われるという特段の事情がない限り運行供用者として責任を負うものとしています。すなわち、判例は、「運行供用者」の解釈・適用に当たり、運行支配の要件を重視し、かつ、広く自動車の運行による危険を防止できる立場にある者は責任を負うべきものとして、被害者救済を図っているものと思われます。このもっとも象徴的なケースは、公道上でエンジンキーを付けたまま、半ドアー状態で駐車してあった自動車が窃取され、150メートル運転した地点で事故が起こった場合において、最高裁が保有者に「運行供用者」の責任を認めたことです。
本件でも、あなたは自分の意思でしばらくの間友人に自動車を貸し、また運転の具体的指示などもできたでしょうから、自動車の運行による危険を防止できたものとして、「運行供用者」の責任を負わなければならないものと思われます。
4.もっとも、相手方も法定スピードを超えて運転していたことから、注意義務違反が認定され、賠償額は一部減額されることになるでしょう。これを過失相殺といいます。
出典: 土曜日の人生相談(2000年1月8日放送分)
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