内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 相隣関係 】

私道にガス管工事で金銭請求
私道の利用についてお聞きします。
我が家は道路の奥まった土地にあり、自宅へは他人の所有する私道を通らないと行くことができません。そのため通行地役権を設定し、私道を使わせてもらっていました。
さて、このたび、我が家に都市ガスをを引く工事をすることになったのですが、そのためには、その私道にガス管を敷設する工事が必要となることがわかりました。そこで私道の持ち主に工事の許可を願い出たのですが、許可をしてくれないのです。この私道の持ち主とは以前に自家用車の駐車の件でモメたことがあり、それを根に持たれているようです。どうしても工事をしたければ礼金を払えと言うのです。
そこで伺いたいのですが、こういう場合は、礼金を払わなければならないのでしょうか。いくらぐらいが妥当でしょうか。また、どうしても承諾を得られない場合、勝手に工事をすると問題になるでしょうか。
相談者: 某県にお住まいの45才の女性
1.ご相談者の住まいは、他人の所有地を通らないと、公の道路に出ることが出来ないとのことですが、このように他人の土地に囲まれて公道に通じていない土地を、法津の世界では「袋地(ふくろじ)」と言っています。
2.ご相談者の場合は、通路=私道(シドウ、ワククシドウ)の所有者との契約で「通行地役権(ツウコウチエキケン)」が設定されているようですが、そうでない場合でも、民法は、袋地の所有者が公道に出る為にお隣の土地を通る権利を認めています。「囲繞地通行権(イニョウチツウコウケン)」と呼んでいます(民法210条〜213条)。
通行権を認めなければ、袋地が経済的に「役立たず」になってしまうので、法律が、特に認めることにした権利です。
3.ところで、民法が出来たのは明治時代のことで、水道管や、ガス管といった、今日の都市生活では欠かせない施設について、当時は配慮していませんでした。その結果、民法は、袋地の住居に水道管やガス管を通す権利については、何も書いていないのです。
民法に書いていないのは、「そのような権利を認めない」と言う趣旨ではなく、法律が出来た時に検討されなかったからに過ぎません。
4.とはいえ、なにぶん法律に書いていませんので、このような権利が有るのかどうかが争われて、実際に何件かは裁判になって来ました。
その結果、裁判所は、法律の趣旨を汲み取って、他人所有の私道(侵入路)にガス管や水道管を敷設することを認める判決を相次いで出しています。水道、ガス等は、今日の生活に欠くごとが出来ない、まさにライフラインですので管を引く必要性が極めて高く、一方、侵入路の所有者にとって損害が殆ど無いか、有っても極めて少ないと考えられますので、このような裁判所の判断は、常識に叶うものといえるでしょう。法律学者も大体、判例に賛同しているようです。
5.ただし、敷設の位置や形態は、地主にとって最も損害が少ない方法を選択するように配慮してください。
6.ところで、先程申し上げた、民法が認めている「囲繞地通行権」は、全てが無償(只)と言う訳ではありません。かつての、そもそも袋地が出来てしまった時の経緯(いきさつ)によっては、囲繞地を通行するについて所有者に賠償金を支払わなければならない場合と、支払わなくてもよい場合とが有るのです。
7.ガス管を敷設するについても、事情によっては賠償金を支払わなければならない場合が有るかもしれません。
水道管や、ガス管を敷設することを認める判決は、概ね、賠償金の支払いを命じてはいません(つまり、只です)が、中には、賠償金の支払を条件に、管の敷設を認めている判決も有ります(名古屋地方裁判所昭和48年12月20日判決)。
この判決の場合、水道管埋設部分の土地の実勢価格の1%程の賠償金の支払と引き換えに水道管の敷設を認めています。
8.相談者の場合はどうなのか、については、一概には言えません。通行地役権設定の時の事情、通行料の支払が有ったのかどうか(設定時だけの支払なのか、定期的支払なのか、その金額はどうか)、管を敷設し管理していく上で所有者に特別な負担や損害が生ずる事情が有るのかどうか等々の事情によって決められることになるでしょう。
誤解を恐れずに敢えて言うとすれば、多くの場合は「無償で」管の敷設が認められるのではないかと思われます,
9.そこで、ご相談事項にお答えしますと、
(1)礼金を払わないといけないか…「原則として、無償と考えてよいでしょうが、地主の特別の損害が予測される場合等には礼金=賠償金を支払う必要も有る」
(2)礼金の金額…「相場は有りませんが、上記の名古屋の裁判所の事例が参考になるかもしれません=管の埋設部分の土地の実勢価格の1%程度の一時金」
(3)地主の承諾が得られない場合、勝手に工事をすると問題になるかどうか…「どうしても承諾してくれない様な地主ですので、何らかの法的手段や、実力による妨害を講じてくる可能性はありそうですね。いずれにせよ強行突破はお薦めできません。当事者どうしで話合いが拗れるようなら、簡易裁判所の調停手続きをご利用になっては如何でしょうか。常識を弁えた調停委員2名が両当事者の間に入って、調整して下さいます。お近くの簡易裁判所で利用できますので御検討下さい。
出典: 土曜日の人生相談(1999年11月20日放送分)
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