内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 更新拒絶・正当事由 】

「子供が生まれたら退去すべし」との特約は有効か?
賃貸契約の特約条項についてお聞きします。
私たちは、賃貸アパートに暮らしています。ここはもともと、夫が独身時代に、一人暮らしをしていたアパートなのですが、一昨年結婚してから、私がそこに同居して暮らすようになったのです。そして先月、私に待望の子供が生まれました。
ところが、親子3人で楽しく暮らそうと喜んでいると、アパートの大家さんから、突然「アパートを出ていって欲しい」と言われたのです。驚いて理由を訊ねると、「子供がいると泣き声などで近所迷惑だし、部屋が汚れるので子供連れの方の入居は断っている。賃貸契約の特約条項にもそのことが明記してあるはず」と言うのです。あわてて賃貸契約書を見ると、確かに「子供が産まれたときには賃貸借は解約し退去すること」と特約条項として書かれているではありませんか。夫は「入居したときは、独身だったので気にも留めなかった」と言います。
そこで質問なのですが、子育てにもお金がかかる現在、転居費用もバカになりませんし、私の実家にも近くて便利な現在のアパートを出たくないのです。このアパートは出なければならないのでしょうか。
相談者: 兵庫県にお住まいの女性(38才)
1.大阪弁護士会に聞きました。相談者のケースでは、「子どもが産まれたときには退去すること」という特約が有効か無効かということになります。
「子どもが産まれたときには退去する」ということだけでしたら、この特約は無効となり退去する必要はありません。その理由は独身であった人が結婚して子どもが産まれるのはごく自然なことですし、一般的な賃貸アパートはそうした家族が生活する場所なのです。したがいまして、子どもが産まれたら退去しなさいというのは、言い換えればそのアパートに住んでいたければ子どもを産むなという非人間的な要求をしていることになりますので、公序良俗(民法90条)に違反して無効となるのです。
特約が無効であれば相談者はアパートを出ることはありません。
2.ところで、質問者の入居しているアパートの大家さんは子どもがいると泣き声が近所迷惑だし、部屋が汚れることを理由にしています。泣き声が近所迷惑だという点は、実際の泣き声がどの程度のものかを聞いてみる必要がありますし、部屋が汚れるといっても個人差がある筈です。ですから子どもが産まれたからすべての場合、泣き声が迷惑だとか部屋が汚くなるとは言い切れませんので、大家さんの言い分には合理性がありません。ただし、子どもが産まれると、夜泣きで親の睡眠時間も少なくなります。なかには夜泣きの激しい子もいます。隣室の入居者が相談者の子どもの泣き声で十分な睡眠が取れないという事態が生じるようなら少し問題です。
やはり隣室にはできるだけ迷惑をかけないことが必要でしょう。そして、余りにもひどいということになれば、退去を求められる可能性もあります。
3.要するに、特約があることだけで退去を求められることはありませんが、その部屋での住み方が隣室の住人にとって耐え難い状況を作ってしまえば退去を求められても仕方がないということになります。
4.次に相談者は、契約するときにこの特約があったことなんて独身だったので気にも留めなかったと言っていますが、説明しましたように特約自体無効と考えますので、この心配は無用です。
出典: 土曜日の人生相談(1999年10月30日放送分)
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