内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 養育料 】

離婚後、養育費を支払わず姿をくらました夫。どうしたらいい?
離婚後の養育費の支払いについてお聞きします。
私は夫と12年前に調停離婚しました。1人いた子供は私が引き取ったのですが、協議の上、夫に月々払ってもらう養育費の金額も決定し、執行力のある調停調書の正本も持っています。
しかし、離婚して12年のあいだ、養育費が約束どおり振り込まれたことは数回しかありません。たびたび履行勧告をしてようやく払ってもらうという有り様でした。
ところが、最近また養育費の振り込みが遅れていたので、元夫に連絡をとろうとしたところ、いつのまにか引っ越しており連絡がとれないのです。転居先もわからないので、彼の勤め先に問い合わせると、そこも退職しており、再就職先もわからないというのです。
姿をくらました元夫を探し出して、養育費を払わせたいのですが、探偵を雇って捜すのも費用がかさみそうです。何か良い方法はないでしょうか。
相談者: 兵庫県のお住まいの女性(年齢不詳)
1.父母が未成熟の子供を扶養する義務を有していることは法律の規定を待つまでもなく当然のことです。父母が離婚するような場合、どちらか一方が親権者となりますが、親権者にならなかった親と子供の関係が切れてしまうわけではなく、このようなことは扶養の義務とは無関係です。離婚によって一方の親は子供と一緒に暮らすことができなくなりますが、将来子供が自分の考えで行動するようになれば、別れて暮らしていた親の立場や気持ちを理解し、一緒に暮らしてきた親よりも一層良い関係となることもないわけではなく、その意味でも親として養育費は可能な限り支払うべきものです。
2.ところが現実には、離婚協議の時点ではこのことを理解して養育費の支払を約束するものの、子供との別居生活が続くうちにどうしても近くにいない子供に対する毎月の支払が負担に思え、支払を怠るようになるというのは残念ながら非常によくあることです。そのため現実の解決方法として多少金額を減額してでも一括して支払をしてもらうというようなことも行いますが、養育費の性格からいって毎月支払うというのが原則ですから、この方法はあくまでも相手方の同意が前提で、このような方法を相手に強制することはできません。
3.相談者も月々支払ってもらうということを調停の席で合意し調停調書にもそのように記載があるということです。毎月支払ってもらうということにする場合、このように調停調書に記載してもらうという以上に確かな方法はないということができます。単なる合意とは異なり、調停調書に記載があると、それは判決を受けたのと同じ効力がありますから相手方が支払をしない場合、これによって給料を差し押さえるなどの強制執行を行うことができるからです。
しかしながら、強制執行は一般の方が自分でやるというのは大変で、最近では書式も整備され個人でできるよう工夫がされてきていますがそれでも通常は弁護士に依頼しなければなりませんし、強制執行を行うこと自体にも費用が必要です。他方養費というのは月額3万円から5万円というように少額な場合が多いですから、短期間支払が滞っているからといって強制執行を行ったのでは費用倒れになってしまう恐れがあります。
4.このような事情を考慮して、家事審判法という法律(15条の5)で、家庭裁判所は権利者の申し出があるときは、審判や調停で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対して、その義務の履行を勧告することができると定められています。これが相談者の相談の中にある履行勧告といわれている制度で、強制執行を行う前に、家庭裁判所が関与して、自発的に義務の履行をさせようというもので、一般の民事事件にはない制度です。調停で定められた養育費の支払がなされない場合には、権利者はいつでも申立ができ、その方法は書面でも口頭でもよく、電話でもよいということになっており、申立の手数料もいらないというように非常に利用しやすいものになっています。申立があると、家庭裁判所は不払いの事実や支払がなされない理由等を調査し、相手方に対し、きちんと支払うように助言指導をしてくれます。相手方がこれを無視しても制裁はありせんが、家庭裁判所からの指導ということで、これによって支払がなされるということも少なくありません。相談者の場合もこれによって支払がなされたことがあるようです。
5.ところが履行勧告や強制執行というのは、相手方の住所がはっきりしていることが前提となりますが、今回の相談は、元夫は勤め先も辞め、住所も分からなくなってしまっているというもので、お気の毒ではありますが、養育費を支払わせることが極めて困難なケースということができます。元夫の住所自体は弁護士に依頼すれば住民票を追いかけていくなどして捜すことは可能かも知れませんが、度々支払を怠っているというこれまでの経過や、会社を辞めていること等から考えて、費用をかけて居場所を捜しても、それに見合うだけの支払が受けられるかは極めて疑問だといわざるを得ません。元夫に不動産等確かな資産でもあれば別ですが、本件のように親の義務をわきまえない父親に養育費を支払わせるのは現実には極めて厳しいというしかありません。
出典: 土曜日の人生相談(1999年10月23日放送分)
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