内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 その他 】

亡夫が秘密で愛人に与えていたマンション。取戻すことはできる?
贈与の有効性について伺います。
私の夫は長年不動産業など手広く商売をしていたのですが先月心不全で亡くなりました。その後、相続手続きのために残った財産の整理を始めたのですが、調べるうちに大変なことがわかりました。
実は夫は私に秘密でマンションを持っており、そこに愛人の女性を住まわせていたのです。今まで知らずにいたので、驚き、悔しい思いでいっぱいになりました。
そこでとにかく、夫が死んだのでマンションを出て行って欲しい旨をその女性に告げたのですが、彼女は「このマンションは私がもらう約束をしている」と言って、立ち退こうとしないのです。マンションの名義は夫のままですし、約束は単なる口約束だと思うのですが、彼女の言い分は「私はこのマンションに住んで数年になる。すでに住んでいる者を追い出すことなどできないはずだ」とのことです。
そこで伺いたいのですが、夫が生前にしたという贈与の約束は有効なのでしょうか。またたとえ無効だとしても、この女性に出て行ってもらうことはできないのでしょうか。
相談者: 兵庫県にお住まいの61才の女性
(当事者の呼称)
亡夫・甲野 太郎 妻・甲野 花子 愛人・乙山 松子

1.本問において検討すべき問題点
本問については、
イ.亡夫・太郎から愛人・松子への贈与の事実を証明できるかどうか。
ロ.仮に、愛人・松子への贈与が証明された場合、愛人関係を維持・継続するためという不法な原因による贈与の法律効果がどうなるのか?
という問題を検討したうえで、マンションの所有者は誰になるのか、更に、マンションの使用関係はどうなっていくのかということを考えていく必要があります。
2.贈与の有無について
(1)亡夫・太郎が愛人・松子に対してマンションを贈与したか否かについては、贈与のあったことを愛人・松子が証明する必要があります。
(2)本問では、贈与は、「口約束だと思う」ということですが、贈与の時の状況や、贈与を裏付ける文書とか第三者の証人の有無などの具体的な事実や資料によって判断することになります。
(3)仮に、愛人・松子への贈与が証明されない場合は、マンションは、亡夫・太郎の所有ということになり、相続人である妻・花子らがこの所有権を相続します。愛人・松子は、亡夫・太郎との愛人関係のためマンションを使用していたことになりますが、亡夫・太郎の死亡により、愛人関係も終了していますので、妻・花子は、マンションの明渡しを請求することができると考えられます。
(4)仮に、愛人・松子への贈与が証明された場合は、次項の「不法原因給付」の問題として検討することになります。
3.不法原因給付について
(1)仮に、マンションを愛人・松子が贈与を受けたことが証明されたとしても、愛人関係の維持・継続という不法な目的のための贈与などの場合に、法律は、どのような定めをしているのでしょうか。民法は、「不法の原因の為め給付を為したる者は其の給付したるものの返還を請求することを得ず」(民法第708条)と定めています。
(2)本問のようなケースでは、「不法の原因」に該当すると言われています。問題となるのは、マンションを愛人・松子に贈与したとしても、マンションの所有名義は亡夫・太郎のままだということですので、「給付」に該当するかどうかという点です。
(3)最高裁判所の判例によりますと、登記名義のある亡夫・太郎名義から愛人・松子への移転登記がなされていない限り、「給付」があったとは言えない判決をして、愛人からの所有権移転登記請求を認めていません(最判・昭和46年10月28日)。この判決によれば、マンションは、亡夫・太郎の所有ということになります。従って、妻・花子は、愛人・松子に対して、明渡しを求めることができると考えられます。
(4)ただ、最高裁判所は、未登記の建物については、「引渡」(愛人を入居させていること)だけで「給付」を認めており、その結果、建物の所有者は愛人であると判断しています(最判・昭和45年10月21日)。
また、最近の学説においては、建物の「引渡」または「移転登記」があれば「給付」と認めるべきであるという学説も増えてきています(新版注釈民法(18)711頁)。
4.質問者の問題処理について
以上のとおり、本問の案件につきましては、具体的な事実関係の確認をしたうえでの判断が必要であることや、現代社会における愛人問題について、「不法」か否かについて、贈与者(亡夫・太郎)や愛人をとりまく諸事情など総合的な考慮が必要とも言われておりますので(新版注釈民法(14)32頁)、専門家に十分な御相談をされたうえで、対応されることが必要であると思います。
出典: 土曜日の人生相談(1999年10月16日放送分)
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