内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 慰謝料 】

肉体関係を持った相手に婚約者が。慰謝料を支払わないとだめ?
「慰謝料」の件でご相談します。
私は30才の独身男性で、大阪市内の商事会社に勤務しています。先日、会社の有志で飲み会があり、大いに飲んで盛り上がりました。私はその宴席で、隣の課のOLのA子と話をするうちに仲良くなってしまい、2人とも酔った勢いで宴会の後でホテルに行き、関係してしまったのです。
ところが後で知ったのですが、彼女は宴会を欠席していた同じ課の男性Bくんと婚約中だったというのです。私がA子と宴会の後にホテルに行ったことは、すでに社内のウワサとして広まっており、当然Bくんにもバレてしまいました。
Bくんは激怒し、A子と大ゲンカした上に婚約も解消してしまいました。その上、私に「損害賠償を請求する」と言うのです。「直接の原因となったのはお前だから」と言うのですが、私としては、知らなかったことですし、婚約中なのに私の誘いに乗ったA子に問題があるとも思います。そこまで責められるのも納得できないのです。
そこで質問なのですが、この場合、私には、慰謝料を払う義務があるのでしょうか?
相談者: 大阪府にお住まいの30才の男性
相談者が、たとえばA子とB君がかねてより交際しているのを知っており、ほんの少し注意すればすでに婚約中であることを知ることができたというような場合には、B君に対し慰謝料支払義務を負うこともありえます。
夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、夫婦のもう一方に対し、慰謝料を支払う義務があります。この場合、相手が結婚していることを知っていた場合のみならず、知らなくても、気づかなかったことに不注意があれば、過失があるものとして慰謝料を支払う義務が生じます。では、相談者の場合のように、婚約中の一方当事者と肉体関係を持った第三者も、他方当事者に対し慰謝料を支払わなければならないのでしょうか。この点、相談者の場合に似た事案で、第三者の慰謝料支払義務を認めた裁判例があります。
この事案では、ある男性が、かねてより肉体関係を持っていた女性と、女性が婚約をした後も数回にわたり肉体関係を結びました。その後、女性と結婚した婚約者がこの事実を知り、男性に対し損害賠償請求を行いました。これについて裁判所は、婚約当事者は、互いに一定期間交際をした後に、結婚して夫婦として共同生活をすることを期待すべき地位に立ち、このような地位は法の保護に値すると述べました。そして、この地位を違法に侵害した者は、相手方に対し損害賠償義務を負うと述べて慰謝料請求を認めました。
この裁判例の事案は、女性が婚約中であることを知っている点が相談者のケースと異なっています。夫婦の一方と肉体関係を持った場合には、たとえ相手方が結婚していることを知らなくても、過失があれば損害賠償義務を負うことははじめにも述べましたが、婚約中の場合も同様でしょうか。
この点、婚約中の当事者の貞操を守るべき義務は、夫婦間の場合ほど強いものではないと区別する裁判例もあり、この考え方を貫けば、過失の場合には損害賠償義務を負わないとの考え方も成り立つといえます。しかしながら、過失の場合について判断した裁判例はなく、損害賠償責任は故意のみならず過失の場合も追うのが原則なので、相談者の場合にも、過失があれば、慰謝料を支払わなければならない場合があると考えておくべきでしょう。
出典: 土曜日の人生相談(1999年9月4日放送分)
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