内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 新法解説 】

預かった荷物の中から密輸品が。知らなくても共犯になる?
娘が海外旅行で経験したことについてご相談します。
我が家には20才の大学生の娘がいます。この夏休みに、友人と海外旅行をしたのですが、その帰路でおかしな体験をしたそうです。
某国の空港で日本へ帰る便を待っている間に、現地の男性が話しかけてきました。「自分はこれからあなたと同じ便で日本へ向かうのだが、とても荷物が多いので、飛行機に乗る際に超過料金をとられそうだ。私の荷物を自分のモノとしてひとつ預かって、日本まで持って帰ってもらえないか?」と言うのです。
娘は親切心から了承しそうになりましたが、同行の友人が「怪しいからやめた方が良い」と止めたため「お礼します」と言われても結局申し出は断ったそうです。
その男性は、他の日本人観光客にも同じことを頼んでいたようですが、今から考えてみると密輸品を持ち込む手助けをしてしまっていたかもしれない、と娘は言います。
そこで、質問なのですが、このようにして万一帰りの税関で密輸品などが発見された場合、共犯として罪を負わなければならないのでしょうか?また、お礼をもらってしまうと罪は重くなるのでしょうか?
相談者: 奈良県にお住まいの53才の女性
この相談を聞いて、最初に思い浮かべますのは、メルボルン事件のことです。1992年6月15日、クワラルンプールにおいて日本人観光客4人のスーツケースを積んでいた車が何者かによって盗まれました。翌日、スーツケースはガイドによって発見されましたが、全てズタズタに切り裂かれていました。4人はガイドから新しいスーツケースを手渡され、予定通りオーストラリアに向かい、メルボルンにて入国しようとしたところ、スーツケースから総計13キログラムのヘロインが発見され、ツアーリーダーを含めた日本人5人が直ちに麻薬密輸の現行犯としで逮捕されました。逮捕された5人は当初から一貫して犯行を全面否認していましたが、主犯格とされたツアーリーダーに懲役20年、ヘロイン入りのスーツケースを持っていた4人に懲役15年の判決が言い渡され、5人は現在もオーストラリアの刑務所に服役中です。
本件に戻りますと、荷物の中身によりますが、禁制品を輸入する罪(関税法第109条)、関税を免れる等の罪(関税法第110条)などの適用が考えられます。輸入禁制品とは、麻薬、拳銃、偽造紙幣、風俗を害する書籍、特許権や著作権を侵害する物品(例えばブランド物の模造品)などが挙げられます。麻薬の場合は、関税法違反のみならず「麻薬および向精神薬取締法」にも違反することになり、さらに罪が重くなります。
但し、犯罪の成立には、犯罪行為以外に「故意」が必要です。本件においては、荷物の中身を認識しないで輸入した場合、故意がないことになり、犯罪は成立しません。しかしながら、税関において自ら所持している荷物の中から、仮に麻薬が発見された場合、「知らなかった」「頼まれた」と言い訳をしても、メルボルン事件のように、理解を得るのは実際のところ大変難しいと思います。外国の税関の場合、言葉の問題も相まって更に困難となるでしょう。
また、お礼をもらうということは、金額にもよりますが、荷物の中身を知りながら持ち込みに協力したと解釈され、故意があるとされて犯罪が成立する可能性が高くなります。
最後になりますが、メルボルン事件において、服役中の日本人5名に救済の道はないのでしょうか。幸いにしてオーストラリアは国際人権規約および選択議定書を批准していますから、十分な通訳をつけてもらえなかったことなどを理由としてジュネーブにある国際自由権規約人権委員会に救済を求めることができます。現に、大阪弁護士会の有志によりメルボルン事件弁護団が結成され救済を求めています。一方、日本は国際人権規約は批准していますが、選択議定書を批准していないため、同じようなケースでも、日本に服役中の受刑者はこのような救済を求めることはできません。
出典: 土曜日の人生相談(1999年8月28日放送分)
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