内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 新法解説 】

逆恨みで会社のコンピューターのデータを消去した元社員。証拠はないが訴えられる?
「従業員とのトラブル」の件でご相談します。
私は、社員数人という小さな不動産会社を営んでいます。実は、1年ほど前から業務にコンピューターを導入し、顧客データや不動産物件の管理を行うようになりました。また、このときにはコンピューターに強い男性社員を1人採用し、データ管理を任せていたのです。
ところがこの男性社員。遅刻は多いし、勤務態度も不真面目で、どうにも我慢がならず、先月とうとう解雇しました。
するとこの社員は逆恨みしたのか、我が社を辞める際に、これまでコンピューターに入力した様々なデータを全部消去してしまったのです。怒って、本人を問い詰めたのですが、「データが消えたのは機械のトラブルが原因で自分のせいではない」と言い張ります。証拠がないとは言うものの、彼が意図的にやったことは間違いないと思いますし、腹が立って仕方ありません。
そこで相談なのですが、この社員を業務妨害で訴えたり、損害賠償を請求することはできないのでしょうか?
相談者: 兵庫県にお住まいの50才の男性
さてご質問の元従業員(以下Aといいます)の法的責任については、刑事・民事の両面から検討することにします。
まずAが故意にコンピューター内のデータを消去してしまった場合、Aの行為は電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法243条の2)に該当し、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることになります。
問題はAが故意にデータを消去したのか、機械のトラブルや過失によって消えてしまったのか、ということです。上記の犯罪は故意犯なのでAが故意に行ったのでなければ犯罪にはなりません。この様な内心の問題は、自白を除いては直接的な証拠はなく、間接的・客観的な事実を積み重ねて立証することになります。証拠として考えられるのは、解雇された際のAの言動・態度、真実機械のトラブルが発生したか否か、今回のデータ消去が1回の誤作動で発生しうるものか否か、データ消去の時間とAのアリバイ、更には他の従業員のアリバイ等です。これらを調査をして、その結果これが、故意によるデータ消去でしかもAにしか行えなかったと合理的に推測できるならば、Aを告訴するべきでしょう。
次に民事上の責任ですが、Aが故意又は過失によりデータを消去し業務上の損害が発生したのであれば、民法709条に基づき、Aに対しその損害の賠償を請求することができます。では何が損害といえるのかですが、まずデータを再入力するための人件費等は当然損害といえます。
またそれ以外にデータ消去により休業を余儀なくされたのであれば、過去数ケ月分の収入を基に休業期間の得られたであろう利益・収益を損害として請求できるでしょう。
出典: 土曜日の人生相談(1999年8月7日放送分)
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