内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 債権回収 】

親族間でのお金にかかわる犯罪
親族間の遺産分配にまつわるトラブルについてお聞きします。
昨年、父親が亡くなりました。母親は3年前に亡くなっており、父親名義の家屋と士地を4人の兄弟たちで分配することになりました。ちなみに私は一番上の長男です。
協議の結果、士地と家屋を売却してお金に換え、それを4人で平等に分配することに決めたのですが、その際一番下の弟が、手続に詳しいと言うので、すべて一任して任せることにしました。私たちは実印を押したり、印鑑証明を用意したりして、弟が売却手続などを取り仕切ったのです。
ところがその後、何の音沙汰もないので不審に思っていたところ、弟は売却代金のほとんどを勝手に自宅の購入資金に使っいていたことがわかりました。怒って問い詰めると、本人は開き直って「お金が足りなかったから借りただけ。いつか返す」などと言うのです。
私たちには、はじめから使い込むつもりだったように思え、妻などは、「横領罪で告訴した方がいい」などと言いますが、親族同士の間でこういう罪が成り立つのかわかりません。
そこで伺いたいのですが、こういう場合、告訴して罪を問うことはできるのでしょうか。また本来の分配分のお金を返すよう弟に請求することはできるのでしょうか。
相談者: 京都府在住の男性(51才)
1.一番下の弟には、刑事上、詐欺罪ないし横領罪が成立します。
いずれが成立するかは、弟がどの時点で、売却代金を勝手に使うつもりになったのか(これを故意といいます)により、異なります。
(1)詐欺罪  最初からお金を自宅の購入資金に使うつもりでいた場合。
最初から嘘をついて、本当は自分のために遺産である不動産の売却代金を使うつもりだったのに、不動産の売却手続をしてあげると偽って、不動産の権利証・委任状・印鑑証明書等を交付させたような場合、その時点で詐欺罪が成立します(刑法246条1項)。これは、10年以下の懲役に当たる犯罪です。
(2)横領罪  途中から売却代金を自宅の購入資金に使う気になった場合。
最初は本当に兄たちのために不動産を売って、その売却代金を4人で分けるつもりで権利証等を預かっていたが、途中で自分のために売却代金を使おうと思い始めた場合には、横領罪が成立します(刑法252条1項)。
弟が、自分が売却のために預かっている4人共有の不動産又はその売却代金を横領したことになるのです。これは、5年以下の懲役に当たる犯罪です。
2.親族間の犯罪に関する特例(刑法244条)の適用について
ところで、実際に、あなた方兄が、弟の罪を問うためには、刑法上、弟を告訴する必要があります。
刑法では、親族間での窃盗や詐欺、横領といった事件については、犯罪ではあるが、刑を免除したり、告訴を待って捜査・裁判すると定めています。
これは、「法は家庭に入らず」、つまり、家庭内や親族内の問題は、人情といいますか、家族の情愛が絡むので、必ずしも法律による杓子定規な解決になじまない、むしろ、家庭内の話し合いで解決した方がいいし、犯罪に対する統制としてもそれで十分だという考えに基づいています。
子供が遊ぶ金欲しさに親のお財布から1万円抜き取ったり、嘘を言って騙し取った場合、確かに悪いことで窃盗や詐欺という犯罪になりますが、何も国家権力がしゃしゃり出て子供を刑務所に入れる必要はないという、至極普通のことを定めた条文があるのです。
この処理の仕方としては2通りあります。
(1)直系血族、つまり親子や、おじいちゃん・おばあちゃんと孫であるとか、同居している親族については、犯罪ではあるが刑罰は科さない、つまり刑務所などには入れないことになっています。
(2)そして、兄と弟のように直系血族でもなく、同居もしていない親族については、兄弟といっても別々に暮らしているわけですから、純粋に家庭内の問題というわけでもないので、被害者である親族つまりこの場合、あなた方兄からの告訴があれば、国も本気になって刑罰を科しますというのです。
したがって、このままでは弟が罪に問われることはなく、詐欺や横領を罪としてを問うためには、兄らが弟を告訴する必要があります。
ただし、告訴は、刑事訴訟法235条1項により、犯人(弟が詐欺・横領をしたこと)を知った日から6ヶ月を経過するとできなくなります。
 もっとも、実際、弟を告訴しようとしても、警察は、「兄弟の間のもめ事なんだから当事者で話し合って解決しなさい。警察も暇じゃないから兄弟げんかにまで付き合ってられない。」とか言われて、告訴状を受け取ってもらえないことが多いです。
3.お金の返還
お金の返還請求はできます。それぞれの兄は、弟に対し、不動産の売却代金の4分の1に当たるお金を引き渡すよう請求することができます。
この場合、弟は、兄に対し、そのお金に、自分の自宅の購入資金に使った日から計算して年間5%の利息を足して、引き渡さなければなりません。
刑事事件と民事事件は別ですから、告訴しなくても、お金の返還を請求できるのは当然です。
出典: 土曜日の人生相談(2001年6月16日放送分)
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