内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 懲戒 】

同僚の男性社員との不倫がばれて上司から圧力が。不倫は懲戒事由になるの?
「就業規則」の件でご相談します。
私は大阪市内の会社に勤めるOLです。実はそこで同僚の男性社員とつき合っていました。相手の男性には妻子もあるいわゆる不倫の関係なので、2人の関係が明るみに出ないように気をつかってきました。
ところが先日、2人の関係が彼の奥さんにばれたらしく、怒った奥さんが会社に連絡をしてきたのです。それも、私と彼の上司に電話してきて、「彼女が私の夫を誘惑した」とか「あんな女はクビにしろ」などと言ってきたらしいのです。
一応、上司には事情を説明したのですが、社内中のうわさにもなってしまい仕事を続けにくい雰囲気です。上司からは「就業規則にも『社内の風紀を乱した場合は懲戒』とあるので左達もあり得るが…」とやんわりと退職を迫られました。でもどちらかというと、彼に誘われて始まった関係ですし、会社が、奥さんの言い分だけを聞いて、私だけ処罰されるというのは納得がいきません。この場合私は左遷や退職などの処罰を受けなければならないのでしょうか。
相談者: 大阪府にお住まいの28才の女性
1.最近、女性の職場進出に伴い、従業員同士の恋愛や、時には不倫関係が問題となるケースが増えつつあるようです。
性的自由があるとしても、道徳上だけでなく法律上も不倫関係が間違いであるとされることに異論はないでしょう。
しかし、だからといって、それが、懲戒事由に当たるかどうかとは別の問題です。
2.ご質問の場合は、それが社内の風紀紊乱行為にあたるかどうかが問題になると思いますが、懲戒は、企業秩序の維持を目的とするものですので、懲戒の対象となる行為も、企業の秩序維持を侵害するようなものでなければなりません。しかし、従業員の私生活上の問題は、本来、企業の秩序維持とは関係のない事柄ですので、原則として、一般的には懲戒の対象にならないと考えられます。
3.では、裁判所は、どう考えているのでしょうか。
最高裁判所は、
「営利を目的とする会社が、その名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼし得ることは当然認められなければならない。」とし、「従業員の不名誉な行為が会社の対面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当核行為の性質、情状のほか、会社の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、その行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」には懲戒の対象となり得ると判断しています(最高裁判所昭和49年3月15日判決)。
難しい表現をしていますが、要するに、私生活上の行為であっても、会社の社会的評価に重大な悪影響がある場合は、懲戒の対象になり得るということです。
この判決は、男女関係に関するものではなく、刑事罰を受けたことについてのものですが、私生活上の行為が懲戒の対象になるかという問題について、場合によっては懲戒の対象になるという考え方を示したものです。
4.具体的な裁判例を見ますと、事案によって、懲戒を認めたものと、否定したものとに分かれています。
イ.懲戒を認めたケースとしては、妻子あるバス運転手が未成年のバスガイドと情交関係を持ち、妊娠させたという事例があります(東京高等裁判所昭和41年7月30日判決)。
ロ.逆に、水道工事をする会社において、そこに勤務する女子従業員が男子従業員と交際を始め、男女関係になったという事例ですが、裁判所は、「その女子従業員と相手の男子従業員の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らしても、会社の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと認めることはできない。」として、懲戒を無効とした事例もあります(旭川地裁平成元年12月27日判決)。
バス運転手のケースは、長距離バスや観光バスの場合、勤務において、運転手と車掌は同宿せざるを得ない場合が多いことや、バスの運転手は、通常、社長より年長であり、車掌に対して強い影響力を持っていることなど、バス会社の特殊性から、懲戒相当と考えたものです。
ご質問の内容だけでは、判断は難しいのですが、貴女のしたことが、会社の社会的評価や会社の秩序維持に悪い影響を与えたという特別な事情がない限り、懲戒の対象にはならないと思います。
出典: 土曜日の人生相談(1999年7月17日放送分)
戻る