内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 更新拒絶・正当事由 】

借家が老朽化、でも住み続けたい。どうする?
「賃貸契約」の件でご相談します。
我が家は築30数年という賃貸住宅に暮らしています。古い建物なので傷みも激しく、近ごろは雨漏りなどもひどくなってきました。そこで、大家さんに修繕をお願いしたところ逆に「建物自体が老朽化しているため、もう取り壊したい」と言われてしまいました。大家さんは、修繕費用を出すよりは取り壊して更地にして売りたいと考えているようで「修繕せずに取り壊してしまいたいので、出ていって欲しい」と、言うのです。でも私は、修繕すればまだ住めると思いますしできればこのまま住みたいと思っているのです。
そこで質問なのですが、この場合私たちは大家さんに修繕をお願いして住み続けることはできるのでしようか。あるいは出ていかなければならないのでしょうか。
相談者: 奈良県にお住まいの44才の女性
1.賃借建物の修繕について…修繕義務を負うのは誰か?
建物賃貸借契約においては、家主には借家人が契約にしたがって当該建物を利用できるように配慮すべき義務があり、借家人には家賃を支払うべき義務があります。
したがって、賃貸建物が借家人が利用するのに不都合が生じた場合には、原則として、家主に修繕義務があります(民法606条1項)。
ただ、家主に修繕義務があるといっても、水道のパッキングのすりへりや障子やふすまの張り替えなどの小修繕は借家人の側に修繕義務があるとされています。
なお、家主と借家人の間の特約で、修繕義務を借家人自身に負わせることは可能です。
したがって、このような特約がある場合には、基本的には、家主には修繕義務がなく、借家人が自ら修繕すべきことになります。
もっとも、注意していただきたいことは、仮に、このような特約が結ばれていても、賃料額や修繕の程度(例えば、高額な家賃をとっておきながら、大規模な修繕まで借家人の負担にするのは、あまりに不当なため、「信義則」や「公序良俗」違反という理由で、特約の効力が否定され、家主に修繕義務が課される可能性がないわけではありません。)。
以上を要約すると、原則として、修繕を借家人がするという特約がない限り、家主が基本的に修繕すべきことになります(小修繕を除いて。)。ただ、特約があったとしても、すべての修繕が借家人の負担で行なわれなければならないわけではなく、いろんな事情を総合的に考慮して、修繕義務を借家人と家主のどちらが負担するか決められることになります。
2.建物の損傷の程度と修繕義務
ところで、本件のご質問では、家主との間に修繕の特約があるのかどうか不明です。そこで、修繕の特約がない一般的な場合についてご説明します。
(1)本件では、築30年以上の古い家ということですが、もしも、家の破損が激しく、耐用年数がつきかけている場合、あるいは、そのまま住みつづけていたのでは人命も危ない状態に至っている場合については、裁判例上も、家主に土台や屋根、壁、床板等の主要な構造部分について大修繕までさせることはできないとされています。
あまりに、破損が激しく、そのままでは何時建物が崩れるかわからないほど傷んでいる場合には、建物自体が「朽廃」(きゅうはい)していると認定されて賃貸借契約の終了事由にあたる可能性もあるのです。
したがいまして、建物の損傷程度の認定が大きな問題となってきます。
ただ、築30年程度ということであれば、朽廃にまで至っているという認定がされることはかなりまれと思われます。したがって、基本的には、本件においては、家主に修繕義務があると言える場合が多いのではないかと思われます。
したがって、その場合は、借家人から家主に対して、雨漏りの修繕をもとめることができ、そのまま住みつづけることができることになります。
(2)ところで、仮に、本件建物が朽廃に近い状況に至っていて、家主には修繕義務が認められない場合であっても、借家人に借家の必要性が高い場合には、自ら修理して、その費用を家主に請求できる場合もないわけではありません。
特に、雨漏り等の修理については、借家人が家主に修繕を求めても、本件のように応じてくれない場合が少なくありません。
したがって、このような場合には、借家人自らが雨漏りを修理した上で、その費用を賃借物を維持するための必要費として、全額家主に償還請求できることになります。
3.結論
本件では、賃借建物の損傷の程度がもっとも大きなポイントなりますが、「朽廃」にまで至っていない場合には、基本的には、家主に修繕義務があり、借家人から家主に雨漏りの修繕を求めることができます(もっとも、修繕をしたことにより、家賃を増額される可能性はあります。)
そして、本件のように、いくら修繕をお願いしても、家主が聞き入れてくれない場合には、借家人自らが修繕して、その費用を必要費として、家主に請求できると思われます。
したがって、朽廃の状態でない限り、基本的には、借家人は家を出る必要はありません。万一、どうしても家主が家を壊して、更地にして売るために、出てほしいというのであれば、立退料を要求できる場合にあたると思われます。
出典: 土曜日の人生相談(1999年7月10日放送分)
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