内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 売買のトラブル 】

ソフトウェアと併せてパソコン購入。ソフトウェアが動かないので併せて解約したい。
パソコンの「売買」の件でご相談します。
私は小さなコンサルタント事務所を経営しているのですが最近コンピューターの導入を決め、大阪市内のパソコン業者からパソコン10台を購入することにしました。またその際に我が社の仕事内容に合わせたソフトウエアをその会社で制作してパソコンに内包してもらうように別料金で頼みました。
ところが実際にパソコンが納入されてみると、頼んでいたはずのソフトがうまく作動せず、いろいろやり直してもらったのですが、結局実用に耐えないことがわかったのです。
私としては、このソフトが使えない以上、パソコンを導入する意味がないので、パソコンとソフトウエアを丸ごと返品したいと思っています。
そこで質問なのですが、この場合、本体とソフトウエア丸ごとの返品というのはできるでしょうか?なお、パソコン本体に関しては売買契約書を交わしているのですが、ソフトウエアは口頭での発注しかしていません。
相談者: 大阪府にお住まいの43才の男性
1.「コンピューターもソフトなければただの箱」と言われるように、現在ではコンピューターに関してソフトウエアの重要性が指摘されています。しかし、パソコンという機械(ハード)それ自体はソフトウエアとは別のものであります。そのうえで、ご質問の「ソフトがうまく作動せず、いろいろやり直してもらったのですが、結局実用に耐えない」というのは何の原因によるのか、パソコンに原因があるのか、ソフトウエアにあるのかで答えが異なると思います。
2.パソコンという機械(ハード)とそのソフトウエアを別々で買ったとしても、パソコンがうまく作動せず、実用に耐えない原因が、パソコンの処理能力を越えるつまり設計に基づき組まれたプログラムをこなす能力がパソコン自体に備わっていなかったという場合があります。その場合はパソコンたる機械(ハード)の売買契約自体にも重要な隠れた欠陥(瑕疵)があったとして契約を解除できるでしょう。また別の理屈を言えば、パソコンの売買契約には買主にとってパソコンという機械(ハード)のソフト処理能力は契約の重大な要素であり、ソフト処理ができるパソコンであると思って買ったが実はそれがなかったという錯誤が買主側にあり、それを理由として契約が無効であったと主張することが可能でしょう。そうするとパソコンそのものの返品をすることができると思います。もちろんこの場合支払った代金を返してもらうことになるでしょう。
3.ご質問では、パソコンとソフトウエアとは1つの契約で売買したのか、そうでなく別々の契約であったのかはっきりしません。ただその両者いずれでも、パソコンという機械(ハード)には欠陥がなく、ソフトウエアの開発ができなかった場合にはどうか。ソフトウエアのみならずパソコンの機械(ハード)の売買は契約解除できるのかです。
まず、1つの売買契約で、パソコンという機械(ハード)とソフトウエアを買った場合でも、パソコンという機械(ハード)には欠陥がないので、パソコンの機械は引き渡したのであるから問題ない、ソフトウエアの完成と引き渡しはパソコンの売買本体契約に単に付随するものであるから、これができなくてもパソコンの売買には影響がないというのか、それとも単に付随するにとどまらず、パソコンと並ぶ重要なものであったかということです。
事案は若干違いますが、基本的にはソフトウエアの引き渡しは付随的債務であり、ソフトウエアの完成ができなかったことを理由にパソコンの売買契約を解除することはできないとする裁判例があります(東京地裁昭和59・1・30判決判例時報1127号115頁)。これは本件売買と少し違いパソコン代金だけでソフトウエア代金が無償であったケースですが、その裁判例の理由とすることは既製のパッケージソフトをパソコンに組めばパソコン自体としても価値があるということも理由の1つとしてます。またこの裁判例のケースでは、パソコンそれ自体も買い手のもとで別のプログラムで3年半稼働を続けていたという事情もあったようです。
この裁判例に従えば、やはり、パソコンそれ自体だけが残っても、問題のソフトウエアは他のソフト開発業者に完成させて引渡を受けることも可能であり(もちろんそうなった場合の費用は被った損害としてパソコン業者に請求できるでしょう)、結論としてパソコンたる機械につき解除して返品することができないことになります。
なお、ご質問のようにパソコン業者からパソコンたる機械(ハード)を買い、しかも同じパソコン業者からコンサルタント業者の業務に合わせて独自に組まれたソフトを買うという場合は、パソコン業者が『当方ではこれこれの仕事をこなせるソフトウエアを開発できるだからそれには当社のパソコンが適しています』という触れ込みで、そのような約束の下にパソコンも買うというケースが多く、しかも、現在ではその代金もソフトウエアの代金の方がパソコン本体の代金よりも大きいという場合が比較的多いのです。
その場合、例えパソコンとは別々の契約でソフトウエアを買い取ったとしても、今述べたようなパソコン販売業者の説明に応じて、当方もそのソフトウエアが開発できるからパソコン販売業者からパソコンを買ったのであり、そのことも相手方のパソコン業者も承知しているではないか、だから、ソフトウエアの開発完成引き渡しがパソコン売買の成立の条件であった、その条件が実行できないならパソコンの売買も条件が成就せず無効であると主張することも可能でしょう。またパソコン売買とソフトウエアの契約が別であったとしても、買い手はパソコン本体の売買の契約の要素に錯誤があった、もしソフトウエアができなければ誰もそんなパソコンを相手業者から買わなかった、だからソフトウエアができなければ、パソコンの売買も錯誤により無効であると主張して返品することは法的には十分可能であろうと思います。
出典: 土曜日の人生相談(1999年6月26日放送分)
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