内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 法的規制 】

相続した農地の転用はどうする
「相続」のことでご相談します。
我が家は田舎で農業を営んでいました。父親が10年ほど前に死んだ後も、母親が住み慣れた土地を動くことを嫌って1人で野菜などを作って暮らしていたのです。
その母親が先月死亡し、1人息子の私は田舎の家と土地を相続しました。その土地にはもちろん農地が含まれていたのですが、高校卒業後に大阪に出てきてこちらで生活している私は農業を継ぐ気持ちはありません。できれば、その農地を駐車場にしたり、収益マンションなどに転用しようかと考えているのです。
そこで、相談なのですが、農地をその他の用途に使用する場合は、事前に申請して許可をとらないといけない、という話を聞きました。具体的に、どのようなことをしなければらないのでしょうか?また、許可がおりないということもあるのでしょうか?
相談者: 大阪府にお住まいの49才の男性
1.農地を農地以外の土地にすることを「転用」といいます。
農地は、国の食糧政策の基礎となるものですから、国の政策によって農地の転用や権利の移転に関しては、様々な制約が課されています。
戦争中は、戦争遂行に必要な国民の食料を確保する必要がありましたので、昭和16年の法律で、農地を工場用地や住宅用地に転用することが制限される様になりました。
2.戦争が終わっても、食糧難の時代が続きましたので、やはり、農地の転用は厳しく制限されました。その様な役割を担って昭和27年に作られた法律が「農地法」です。この法律は、その後の食糧事情や、経済情勢の変化に伴って、何度か改正が加えられてきました。昭和30年代からの高度経済成長期には食糧事情が改善されると共に、工場用地の必要性が強まりましたし、都市部に人口が集中してきましたので住宅用地の需要も高まりました。その後、昭和40年代には、米余り現象が問題になり、米の生産調整、減反政策、がとられる様にもなりました。この様なことから、戦後の大きな流れとしては、農地の転用規制は徐々に緩やかになってきているという傾向が見られると言えましょう。
3.しかし、一定の農業生産力の維持・増進が図られる必要は否定できませんので、去年の春に一部改正された現在の農地法も、農地の転用の制限規定は維持されています。
すなわち一定の農地については、転用する為には、都道府県知事や農林水産大臣の許可が必要とされ、或いは届出が要求されているのです。
4.では、現在の農地法では、どの様な土地について、どの様な規制がなされているのでしょうか。
大掴みに言いますと、当該農地が、どの様な地域に在るかによって、制限が違ってきます(農地法4条(2)項)。
(1)一番厳しい制限を受けるのが、都道府県知事が農業振興地域として指定した地域にあって、市町村が「農用地」として利用すべき区域として決めた土地です(農用地区域)。
この場合は、マンション建設や駐車場用地に転用することは許可されません。
(2)次に、「農用地」と決められていなくても、集団的に存在する農地等、良好な営農条件を備えている農地として政令で定めるものについては、原則として、転用が許可されません。例外として、転用が許可されるのは、政令で定める相当の事由がある場合にだけ、例えば、
I .農業用施設を作る場合。
II .隣接する土地と一体として同一事業目的に供する場合。
III .公益性の高い事業の場合。
などに、転用が許可されることになっています。
(3)市街地の区域内又は市街地化の傾向が著しい区域内にある農地で政令で定めるもの(例えば、土地区画整理事業が施行されている区域とか、宅地化の状況が一定程度に達している区域など)については原則として転用が許可されます。
(4)更に、都市計画法によって、市街化区域に線引きされている区域の農地は、農業委員会に届け出るだけで転用ができます。
5.この様な基準によって農地の転用が許される場合にも、それ以外の一般的な基準をクリアーする必要があります。
例えば、農地の重要性にかんがみ、転用しても遊休化することがあってはならないという配慮から、転用者に「転用事業に必要な資力・信用があること」が条件とされ、「周辺の農地への悪影響の恐れが無いこと」等が必要とされています。
6.この様に、農地の転用については、かなり複雑な制限があります。
ご相談の方の場合も、農地がどのような地域に在るか、によってはそもそも転用が不可能なこともあるし、転用が可能な地域にあっても、貴方の資力・信用とか、周辺農地への影響等が検討されなければ、転用の許可が降りるかどうかは、一概に言えない訳です。
7.ですから、まずは、土地のある田舎の市町村に、転用が可能な地域であるかどうかの問合わせから始める必要があります。
転用が可能な地域であれば、許可申請書(決まった書式があります)や、登記簿謄本、公図の写し、付近の状況を示す図面、建築しようとする建物や施設の概況を示す図面等の書類を提出する必要があります。
8.書類を提出する先は、転用予定地の広さによって違っておりまして、4ヘクタール以下の場合は「農業委員会」に書類を提出して都道府県知事の許可を求めます。4ヘクタールを越える場合は、都道府県知事に書類を提出して農林水産大臣の許可を求めることになります。
出典: 土曜日の人生相談(1999年5月22日放送分)
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