内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 婚約不履行 】

預けたキャッシュカードで勝手に出金された場合の法律関係
不倫相手に取られたお金の件についてお聞きします。
先日、私の夫が、行きつけのスナックのホステスの女性と、不倫をしていたことがわかりました。私を裏切っていたことも許し難いのですが、夫は彼女に自分の銀行口座のキャッシュカードを渡しており、スナックの飲み代や2人での食事代、また不倫旅行の費用などを、彼女がその力ードで引き落として払っていたのです。
ところが、銀行から自宅に送られてきた利用明細から不倫が発覚しました。夫は私に平謝りで、「女と別れるから、もう一度やり直したい」と言ったのですが、彼女に別れ話を切り出したところ、彼女は激怒し、夫の銀行口座の残高300万円を全額引き出して、「手切れ金」と言って懐へ入れてしまったのです。
そこで伺いたいのですが、彼女が勝手に引き出したお金を、裁判に訴えて取り返すことはできないでしょうか。また彼女は、これまでも、夫の口座からおろしたお金で自分用のブランド品なども買っているようです。こういった代金も請求できないのでしょうか。
相談者: 大阪府在住の女性(46才)
1.まず、彼女が夫の口座からおろしたお金で自分用のブランド品などを買った点については、返還請求できないと解されます。なぜなら、夫が彼女に自分の銀行口座のキャッシュカードを渡していたということは、そこから好きなものを買いなさいと言う意思表示であると考えるのが一般です。夫としては、彼女との不倫関係を維持するために、いわば「下心」があってのことだと思われます。不倫関係は今の日本の法律からすれば、民法上不法行為にあたりますが、民法では「不法の原因のため給付をなしたる者はその給付したるものの返還を請求することを得ず」と規定しています(708条)。つまり、「不法の原因」すなわち不倫関係を維持するために、「給付」すなわちプレゼントしたブランド品は、返還を請求できないということになります。
2.この法(不法原因給付)の趣旨は、法律は不正に手を貸さないと言うものです。不法行為(たとえば賭博とか不倫)は、民法上無効です。従って、賭博の負けが100万円で、それを払わないとしても、勝った方は裁判に訴えて100万円を請求することはできません。訴えても裁判所は棄却します。ところが、その場で一旦負け金を払ってしまったら、今度は負けた方が、賭博行為は無効だから払った金を返せと裁判に訴えても、やはり裁判所は不法原因給付だからと棄却することになります。このように不法行為をした当事者どちらにも裁判所は味方しないのです。
3.これに対し、別れ話の後に引き出した300万円は、取り返せると思われます。第1に、彼女が勝手に「手切金」と言って引き出した点が問題です。先ほども述べたように、夫としては、不倫関係を維持するためにカードを渡していたのですから、そのために必要なお金を引き出す権限を彼女に与えてはいましたが、手切金を引き出す権限までは与えていなかったはずです。第2に、彼女が勝手に手切金300万円と決めたようですから、夫と彼女との間に手切金を払う合意が出来ていません。ですから、彼女の行為は無権代理行為もしくは横領にもあたる可能性があります。従って、夫の意思で彼女に金員を給付していないわけです。そこが先述のブランド品と違うところです。また、手切金自体は正常な関係に戻るためのものですから、不法な原因のための給付とも言えませんので、返還を請求しても正義に反しないと言うことです。
4.なお、今までのことは、不法行為の当事者である夫が彼女に対して請求する場合です。
相談者である妻としては、不倫相手の彼女から妻としての権利を侵害されているのですから、彼女に対して(夫に対しても)損害賠償請求が可能です。
出典: 土曜日の人生相談(2001年6月9日放送分)
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