内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 離婚 】

親と別居の約束で結婚したのに守られない。離婚できるか?
「夫の両親との同居」で悩んでいます。
私は昨年の秋に結婚しました。結婚後の住まいは夫の実家の敷地内に離れを建ててもらって住むという約束でしたが、夫が結婚を急いだこともあり、結婚当初は我慢して夫の両親と同居することにしたのです。
ところが、結婚して暮らし始めたものの、離れを建てるという約束を夫の両親は一向に実行してくれないのです。私の夢見ていた2人だけの新婚生活が実現しないので夫に文句を言ったところ「こうやってみんなで暮らし始めたんやから、今さら離れなど建てなくてもええやないか」と言い出す始末です。
私はまるでだまされて結婚したようで納得がいきません。離婚すら頭をかすめる日々を送っていますが、このまま夫の両親との同居を続けなければならないのでしょうか?
相談者: 兵庫県にお住まいの25才の女性
1.夫婦の間には、同居の義務があります。
民法752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定めています。
しかし、夫の両親との関係では、同居の義務は全くありません。
2.では、「離れを建ててもらう。」という約束を、法律的に守らせることはできるのでしょうか。
それは難しいと思われます。
契約書などを交わしているわけではないでしょうし、強制的に実行してもらえる約束ではなく、あくまで先方がすすんで建ててくれることを期待するというにとどまるものと考えるべきでしょう。
3.それでは、質問者は、「もし、離れを建ててくれるという話しがなければ結婚していなかった。」「だまされて結婚した。」ことを理由に、結婚を取消することはできるのでしょうか?
1.民法747条第1項は、「詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消を裁判所に請求することができる。」と定めています。
2.しかしながら、結婚する前に信じていたことが事実と違うということが、全て取消事由になるわけではありません。
例えば、大昔の判例ですが、「薬剤師で月収90円以上、という媒酌人の言葉を信じて結婚したところ、実際には薬剤師の免許は持っておらず月収も70円くらいだった。」という事例で、これは詐欺ではないとした判例があります(東京控判 昭和13年6月18日)。
つまり、結婚する当事者や、親族や媒酌人が、結婚の成立を希望するあまり、事実を誇張したり、不利な事実を隠したり、あるいは心にもないことを約束するなど、多少虚偽の事実を伝えることは、しばしばあることで、やむをえないとも考えられる、ということです。
そして、詐欺による婚姻取消が認められるのは、極めて限られた場合、病歴や異性との関係、前科の有無等を偽るなど相当重要な事実についての偽った場合で、かつ、当面の結婚生活の維持が不可能な場合にのみ限られるとされています。
3.ご質問の方の場合ですが、確かに、生活の場所をどこにするか、という問題は、婚姻生活における重要な問題ではありますが、「離れを建ててくれない。」というだけでは、「当面の結婚生活の維持が不可能」とまではいえないでしょう。したがって、婚姻取消ということにはなりません。
4.夫は、質問者の方とどうしても結婚したくて、多少、調子のいいことを言ってしまったのかもしれません。また、本当に離れを建てるつもりだったのが、「今のままでもいいか。」と心変わりしてしまったのかもしれません。
いずれにしても、あなたの不満に思っている気持ちを伝えて、夫とよく話しあっていただきたい問題です。
出典: 土曜日の人生相談(1999年3月6日放送分)
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