内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 損害の請求 】

共同して株式を購入する場合の法律関係
株式の売買の件で相談があります。

私は以前、友人A氏に株式の共同購入を依頼されました。
A氏は「絶対上がる銘柄で、一年後には必ず売却する。投資するには40万円必要なので、半分ずつ出し合わないか?儲けも半分ずつにしよう」と言われたので、私は20万円をA氏に預けました。
その後一年以上忘れていたのですが、ふと思い出してその銘柄の時価をチェックしたところ、なんと90万円を超えているではありませんか。半分ずつの儲けにしても25万円が手に入るはずです。
そこでA氏に連絡するとなんと「あの時、その銘柄を購入するのを忘れてしまった」と言って、元金の20万円を返金してきたのです。私は約束が違うと言っても取り合ってくれません。知人づたいに聞くと、本当は購入していて、儲けを独り占めしているようです。こんな時、私はA氏に値上がり益を請求することはできないものでしょうか?
相談者: 松原市在住・匿名希望の男性(46歳)
質問者は、知人からA氏が株式を購入しており、儲けを独り占めしているという話を聞いただけのようですが、その真偽は不明です。この話のとおり、A氏が実際に株式を購入した上、売却し、現実に値上がり益が出ていることを前提にご説明致します。
値上がり益が出ているならば、その利益の半分を請求することは当然です。なぜなら、そのような約束(契約)をしたからです。
もっとも、いくらの額を請求することができるかは、問題です。株価は、日々変動するものであり、いつ株式を売却するかによって、値上がり益が変わってくるからです。したがって、質問者が調査した時の株価が90万円を超えていたとしても、その値上がり益の半分、すなわち、25万円を請求できるとは限りません。
また、「1年後には必ず売却する。」とのことで、確定日としての売却日がいつとするのか必ずしも明確ではありませんが、A氏の質問者に対する勧誘日が平成14年1月4日で、その1年後の平成15年1月4日に売却するという約束であったとの例で説明いたします。なお、元金20万円については、当然、返金されるものとします。
(1)A氏が平成15年1月4日に株式を売却した場合(約束どおり)
購入価額である40万円よりも売却価額が上回り、値上がり益が出たのであれば、約束の内容どおり、値上がり益の半分を請求することができます。(2)A氏が平成15年1月10日に株式を売却した場合(約束違反あり)
売却するはずであった平成15年1月4日の株価よりも実際に売却した10日の株価の方が低かった場合(例えば、購入価額40万円、平成15年1月4日の株価60万円、平成15年1月10日の株価50万円)、質問者は、A氏に対し、その約束違反(債務不履行)により損害賠償として購入価額40万円と平成15年1月4日の株価60万円との差額20万円の半分である10万円を値上がり益として請求することができます。なぜなら、A氏が約束どおり平成15年1月4日に売却していれば、10万円の利益が発生していたからです。
これに対し、売却するはずであった平成15年1月4日の株価よりも実際に売却した10日の株価の方が高かった場合(例えば、購入価額40万円、平成15年1月4日の株価50万円、平成15年1月10日の株価60万円)、購入価額40万円と平成15年1月10日の株価60万円の差額20万円(現実の値上がり益)の半分である10万円ではなく、購入価額40万円と平成15年1月4日の株価50万円との差額10万円の半分である5万円しか請求できないと思われます。なぜなら、A氏が約束通り平成15年1月4日に売却していても、質問者には購入価額と平成15年1月4日の株価との差額である半分(取り分)以上の利益が出ないからです。
なお、平成15年1月4日には、株価は60万円であったが、10日には30万円に値下がりしていたという場合、購入価額である40万円と平成15年1月4日の株価である60万円との差額20万円の半分である10万円をA氏に請求でき、その結果、A氏は、質問者に対し元金20万円と併せて30万円返還することとなり、A氏の手元には1円も残りません。
このように、平成15年1月4日以降の株価変動に応じたリスクとリターンはA氏が負担するものと考えられます。
(3)A氏が平成15年1月1日に株式を50万円で売却したが、同月4日までに株価が60万円にまで上昇していた場合(約束違反あり)
質問者は、A氏に対し、購入価額40万円と売却額50万円の差額10万円の半分である5万円ではなく、購入価額40万円と本当であれば売却するはずであった平成15年1月4日の株価60万円の差額20万円の半分である10万円を損害賠償として請求できます。なぜなら、約束違反がなければ、10万円を得ることができたからです。
但し、平成15年1月1日現在、将来の株価上昇を期待することはできず、利益の減少防止のために売却がやむを得なかったという特別な事情があった場合、A氏の責任が免れる場合もあると思われます。
出典: 土曜日の人生相談(2003年1月4日放送分)
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