内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 プライバシー 】

定期的な持ち物検査を止めさせたい
プライバシーに関わる問題で相談があります。
私は従業員7人だけの小さな事務所で、アルバイトとして勤めています。
近頃よく会社の備品がなくなるので、主任が「従業員の持ち物と、ロッカーを一斉に検査する」と言って、洗いざらい調べたのです。その時、ある一人のアルバイトのかばんの中から、会社の備品が出てきました。我々もこの事件については一応納得したのです。
しかしその事件があってから、主任は一週間に一度のペースで「持ち物検査」をするのです。主任は「予防策の一環」と言っていますが、もう事件を起こしたアルバイトの人は辞めていますし、他にいろんな予防策があると思うのです。
今の事務所は好きですし、私は辞めたくありませんが、「持ち物検査」だけは不愉快ですので、主任にこういった行為をやめさせる方法はないでしょうか?
相談者: 和歌山市在住・匿名希望の女性(21歳)
会社の備品が、無くなることを防止するために、従業員の持ち物を、会社の上司が検査することは、従業員の個別の同意がない限り、違法な検査になるものと考えられます。雇い主である会社といえども、従業員個人のカバンの中までのぞく法律上の権限まで持っていないからです。従って、まず雇い主である事務所の所長に、従業員の持ち物検査を止めるように申し出てください。そして、それでも主任が持ち物検査をしようとした場合には、断固として検査に応じないようにしてください。通常は、これで収まると思います。
しかし、持ち物検査を拒否したことで、会社から不利益な扱いを受けることも考えられます。例えば、拒否した人を人事上降格した場合や、給料を下げた様な場合には、労働基準監督署に申し出て、持ち物検査を拒否した人を不利益に扱わないよう会社に対し行政指導してもらって下さい。また、このような不利益を従業員に課すこと自体が違法であり、民法上の不法行為となると考えられるので、不利益を受けた従業員は、会社に対し損害賠償としての慰謝料請求が出来ると考えられます。
では、主任が、従業員のいない時に勝手に従業員の持ち物を検査したような場合にはどう対処したらよいか。これは明らかに従業員個人のプライバシーを侵害した行為となります。主任の行為は民法709条の不法行為となり、また雇い主である会社は民法715条によりいわゆる使用者責任を負います。主任が、会社から指示が出ていないのに独断で、検査をしたような場合でも、会社は使用者責任を負うものと考えられます。従いまして、被害を受けた従業員は、主任と会社に対し、損害賠償として慰謝料請求することができると考えられます。ただし、慰謝料の金額はそれ程大きな金額にはなりません。また、この場合も労働者の権利を不当に侵害する行為なので、被害者は、労働基準監督署に違法な検査を止めるよう行政指導してもらってください。
それでも、主任が、検査を続ける場合には持ち物検査禁止の仮処分を裁判所に申し立てることになります。

弁護士 井尻 潔
出典: 土曜日の人生相談(2003年1月18日放送分)
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