内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 後遺障害 】

交通事故の後遺症について
交通事故のことで相談があります。
私は5年前、後続車に衝突される事故に遭いました。信号待ちで停車していると、後ろから急ブレーキをかけながらではあるものの、かなりのスピードでぶつかってきたのです。私は相当首を痛めてしまいました。
保険会社の立会いのもと、首の治療費や見舞金、全ての費用を相手側が支払うことで示談が成立しました。わりと長期間通院しましたが、生活に支障ない程度にまで治りましたので、その旨を相手にも伝え、一件落着と思っていたのです。
しかし昨年末くらいから、再び首の調子がおかしくなってきました。特に朝方のうずきはひどく、これはあの事故の後遺症としか考えられません。
この場合、再び私が通院し始めることになったら、相手側に治療費を請求することはできるでしょうか?また請求をして、相手側が拒否してきたらどうすればいいか教えてください。
相談者: 和歌山市在住・匿名希望の女性(44歳)
ご相談の件ですが、相手側に治療費を請求するためには次の3点をクリアすることが必要です。1つ目は、今回の首の痛みが事故の後遺症によるものといえるかどうか。2つ目は、保険会社立ち会いのもとで示談をして、しかも一旦は生活に支障がない程度にまで治った以上、改めて後遺症の治療費を請求することはできないのではないか。3つ目は、5年前の事故なので、治療費を請求しても時効にかかっているのではないか、ということです。
まず、1つ目の問題ですが、交通事故で怪我をして治療費を支払ってもらう場合、怪我の原因は交通事故であることが必要です。とりわけ今回では事故から5年も経っていますから、首の痛みが事故によるものであるということをきちんと証明する必要があります。そして、今回の首の痛みが交通事故によるものであると証明できて初めて、相手方に払ってもらうことができることになります。ただ、事故から5年ということで、証明は難しいかもしれません。
次に、2つ目の問題ですが、一旦交通事故の示談をすると、示談によって権利関係が確定されますから、たとえば、示談書に「以後、一切の損害金を請求しません」などといった言葉が書かれていると、たとえその後で治療費がよけいにかかったからと言っても請求できないのが原則です(民法696条)。しかし、示談の当時に予測できなかった後遺症については、示談の範囲に含まれず、後にその後遺症部分についての治療費等を請求することができます。だから今回の場合、首の痛みが、示談の当時には予想できなかった後遺症であるとすれば、改めて治療費を相手方に払ってもらえることになります。ただ、予測できなかったと認定されることは多くありません。
最後に、3つ目の問題ですが、交通事故に遭ったとき、相手に治療費を払ってくださいという権利については、民法724条によって、「損害と加害者を知ったときから3年間」で時効にかかるとされています。わかりやすく言えば、怪我をして治療が必要だなと思い、加害者も分かった時点から3年間というのが原則です。そうすると、今回はできないのではないかということになります。しかし、今回のように一度治ったと思ったのに、暫くしてから後遺症が出たような場合、その後遺症は事故発生当時に予測できないようなものであれば、その治療費については、改めてお医者さんから後遺症があると診断を受けたときに、「損害」を知ったとされ、そのときから3年間で時効にかかるということになります。だから今回の場合は、首の痛みが、事故当時には予想できなかった後遺症であったと認められれば、時効にはかからないということになります。
なお、そもそも、後遺症は治療効果が上がらなくなった時点(症状固定)において、残存している症状を評価するものであることから、後遺症についての保存的治療はそもそも填補の対象とならないものとされています。ただ、今回の「後遺症」が何らかの治療により回復できる可能性があるのであれば、法的な後遺症ではなく、本件事故と因果関係を立証できる限り、本件事故による受傷の治療と主張でき、治療費を負担させることは法的には可能となります。
今回のご相談では、後遺症が交通事故によるものであることを証明したり、時効にかからないよう注意するなどのことがありますから、できるだけ早く弁護士に相談してみるのがよいと思います。
出典: 土曜日の人生相談(2003年1月25日放送分)
戻る