内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 相続放棄 】

相続人の意思に反して相続放棄をさせる方法はありますか。
養子の相続のことで相談があります。
夫と私には子供がおりませんでしたので、ちょうど10年前に、A氏の3人の息子さんのうち、Bと養子縁組をしました。
半年前に夫が亡くなりまして、Bがほとんどの財産を相続することになりました。自分で言うのもおかしいのですが、夫は相当な財産を持っておりましたので、Bも20年以上は、何もしなくても食べていけるくらいの財産を相続したのです。
しかしそんな矢先、Bの本来の親であるA氏も急死してしまったのです。こんなに近いところで不幸が続き、現在も私は動揺を隠せません。
困っているのは、「BがA氏の相続も受けたい」と言っていることなのです。突然のことでA氏の遺書もなく、彼の意思は確認できませんが、正直なところ、A氏の財産はわずかでしょうし、他に相続すべき息子さんが2人もいるのです。
私はBが、A氏の財産を相続しない方がいいと思っているのですが、なんとか相続放棄させる手段はないものでしょうか?また本来、養子の相続というのは法的にどのようになっているのか教えてください。
相談者: 京都府在住・匿名希望の女性(68歳)
養子縁組がなされた場合、養子は縁組をした親(養親といいます)との間に血のつながりはありませんが、法律的には養親の実の子と同じ様に扱われます。ですから、養親が亡くなった場合、養子は、養親の相続人となって養親の財産を相続することになります。
一方、他人の養子となった場合であっても、血のつながりのある実の親との関係でも子であることに変わりはないので、実の親が亡くなった場合も、その財産を相続することになるのです。
もっとも、例外的に、特別養子制度という制度に基づく養子縁組をした場合には、養子と実の親との関係は法律上も断ち切られることになりますので、実の親が亡くなっても、その財産は相続しません。この特別養子制度は、例えば幼い子供が実の親から虐待を受けているなど、その子供の福祉を図る必要のある場合に、特別に家庭裁判所の手続により認められるものです。
おそらく、ご相談のケースのBさんとの養子縁組は、例外的な特別養子ではなくて、普通の養子縁組でしょうから、Bさんは、あなたのご主人の相続人であるとともに、実のお父さんであるA氏の相続人にもなります。そして、A氏の遺言もないようですから、A氏の遺産について、法律上は、Bさんは他の2人の息子さんと同様の相続分があるということになります。
あなたは、BさんがA氏の財産を相続しない方がいいとお考えのようですが、相続人本人であるBさん自身が相続したいとの意思を持っておられる以上、Bさんにむりやり相続放棄させる法律的な手段は残念ながらありません。相続放棄するかしないかは、あくまでも相続人であるBさん本人の意思によって決められなければならず、他人が相続放棄を強制することはできないのです。
もっとも、Bさんはあなたのご主人からたくさんの財産を相続しているので、他の2人の息子さんのためにも、今回の相続は遠慮すべきではないか、とのあなたのお気持ちも常識的には理解できるとも言えます。あなたのお気持ちを率直にBさんにお話しされてみてはいかがでしょうか?あなたのご意見を聞くことにより、Bさんが考えを変える可能性もあるのではないですか?
また、細かな事情が分かりませんが、Bさんは、お金が欲しいわけではなくて、実の親であるA氏との想い出の物を何か手に入れたい、とか、あるいは、ご兄弟である他の2人の息子さんへの何らかの感情的な気持ちから、相続を望んでいるということはないのでしょうか。相続の場面では、単に金銭的な損得だけではなく、様々な感情がからんでくることがよくあります。
最終的には、Bさんご自身の判断にゆだねざるを得ませんが、Bさんのお気持ちもよく聞いたうえで、あなたのご意見も伝えながら、よく話し合ってみてはどうでしょうか。
出典: 土曜日の人生相談(2003年2月8日放送分)
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