内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 増改築 】

家主の責任
私と友人は同じ賃貸マンションに住んでいます。
昨年の初め頃、我々の住んでいるマンションの2部屋で、連続してピッキング強盗の事件が発生しました。
その後、新聞に「ピッキングされ易い錠のメーカー等」が載っている記事を見つけたので確認すると、その中に我々のマンションの錠が含まれていたのです。早速大家さんにその記事を見せ、錠を替えてもらうように要請しました。
しかし3ヶ月経っても大家さんから一言の返事もないのです。勝手に錠が替えられないマンションなので、再度要求しようと思っていた矢先、先日友人の部屋がピッキング強盗に遭ってしまいました。金銭や貴重品を含む数十万円程度の被害で、友人も大変ショックを受けています。
こんな場合、何も対策を練らなかった大家さんに責任はないのでしょうか?被害額に相当する賠償も要求したいと思っていますが、そういうことが可能か教えてください。
相談者: 大阪府内在住・匿名希望の男性(29歳)
賃貸借契約では一般に、貸主は借主に対し、賃借物を賃貸借の目的にかなった状態で使用収益させる義務を負っています。
ご相談のケースで、家主があなたの友人に対し、使用収益させる義務を尽くしたといえるかが問題です。
使用収益させる義務の具体的な中身についてですが、賃借物がマンションのような住居用建物である場合には、借主は、安全で平穏に使用ができることを当然の前提として契約していると思われます。
従って、住居用建物の貸主には、一定の安全性、平穏さを保ち、円満な使用収益ができる状態で、借主に建物を引き渡すべき義務があると解されます。
さらに貸主は、賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務を負っています。この義務は、賃借物の現状を維持するために、法律上家主に課せられたものです。
ご相談のケースでは、家主は、賃借物の現状を維持しており、この点をみれば、修繕をする義務には反しておらず問題がないといえるかもしれません。
しかし、建物が現状のままでは、借主が安全、平穏に使用ができない事態が発生したときには、家主に一定の対策をとることが法律上要求される場合があると考えます。この場合、家主が対策をしなければ、使用収益させる義務の不履行となり、責任が発生すると考えられます。
ご相談のケースでは、
(1)同じマンションの2部屋で連続してピッキング強盗の事件が発生している(すなわち危険が切迫していた)こと、
(2)新聞記事で「ピッキングされ易い錠のメーカー等」が報道され、その中に相談者のマンションの鍵が含まれていたこと、
(3)相談者がその記事を家主に伝えていること(家主は危険を知り、または容易に知りうる状態にあった)こと、
(4)借主から錠の付替えを要請している(借主が家主の対策を期待していた)こと
(5)借主が錠の付替えを勝手にできない(逆に言えば家主が対策をしなければ強盗被害を防止できなかったと思われる)こと
(6)家主には錠を替えるよう要請されてから3か月の期間があり、対策を練るのに充分な時間があったといえるでしょうし、錠の付替え費用が、家賃の額と比べて特に高額といった事情もなければ、対策をとりピッキング強盗被害を防ぐことは十分可能であった(結果の回避可能性があった)
などの事情があり、家主は、借主の安全、平穏な使用収益のために、錠を替えるなど対策をする必要があったと思われます。
従って、ご質問のケースでは、家主には契約上の使用収益させる義務を尽くしておらず損害賠償責任が発生し、あなたの友人が損害賠償を請求することは可能と考える余地があると思います。
出典: 土曜日の人生相談(2003年2月15日放送分)
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