内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 事務管理 】

好意で修理中に怪我をした場合の法律関係
怪我の治療費の件についてお聞きします。
私の夫は教材のセールスが本職なのですが、日曜大工が趣味で、家具を作ったり、家の修繕などが得意です。
先月、ご近所のAさんが、雨漏りで困っているということを聞き、夫は自ら「私が修理してあげましょう」と言い出して、Aさんの家の屋根の雨漏りを直してあげることになりました。
ところが、修理しようと屋根に登ったときに、うっかり足を滑らせて地面に落下してしまったのです。足を複雑骨折して入院する怪我を負ってしまい、治療費もけっこうかかってしまいました。仕事ができない期間の収入も減ってしまうのです。
そこでうかがいたいのですが、今回の治療費は、Aさんに請求できるものなのでしょうか?
あるいは、こちらから言い出した修繕作業なので、自分の責任ということで請求は無理なのでしょうか?
相談者: 兵庫県在住の女性(43才)
相談者の御主人は好意でAさんの屋根修理を申し出て、Aさんはその好意を無にしてはいけないという気持と助かるなという気持で修理してもらうことにしたのだと思います。
話を簡単にするために、御主人はAさんから報酬をもらう約束はしていななったことにします。近所付き合いでお金のやりとりは普通しないでしょう。
では、御主人とAさんとの間ではどのような法律関係が発生したのでしょうか。こんな考え方があります。Aさんが屋根修理を業者に頼めば請負契約が結ばれて、代金を支払うことになります。御主人は業者でもないし、代金ももらわないということですから請負契約はありません。また、御主人は一度Aさんに修理を約束したようですが、イヤになったら断わることも自由なのです。法律関係があったと言うには義務とか責任とかがつきまといますが、このケースはそんなものはありません。そうしますと、法律関係として、何らかの契約があったと見るのは無理になります。
では、御主人は勝手に屋根に登ってケガをしたというだけでAさんに何も請求できないでしょうか。一般的に、契約関係にない人と人との間で一方から他方に対して金銭的請求が認められるケースは不法行為責任が認められるかどうかを検討して答えを見つけだすことが多いのです。
不法行為という表現をこのケースで当てはめるのは少しオカシイですが、まず、Aさんに不法行為があったのかということです。
屋根は雨漏りをしているのでどこかに欠陥があることは予測されます。特に危ない箇所があって、それをAさんが知っていて御主人に教えなかったりした場合にはAさんの責任つまり過失が認められるでしょうが、そのようなことがない限り、Aさんに不法行為責任はありません。
そうなりますと治療費をAさんに請求することはできません。屋根の仕事は危険であるということを再認識された方が良いでしょう。専門業者が御主人のようにケガをしたからと言って注文者に治療費の請求はできないのですから。ボランティア活動が注目されているこの頃ですが、ケガをすれば自らが負担しなければならないというのが原則でしょう。
出典: 土曜日の人生相談(2001年5月26日放送分)
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