内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 遺言 】

夫婦連名での遺言書の効力
遺言書の決まりについてお聞きします。
私は現在妻と2人暮らしです。息子が2人と、娘が1人いるのですが、皆結婚し、家を出ております。
この歳になって、妻とお互いの死後の財産の処分などについて相談するようになりました。子供たちは立派に独立してくれておりますが、老後の迷惑はかけたくありません。そこで、たいした財産ではありませんが、どちらか一方が死んだときは、全財産を老人ホームに寄付し、そこで残った1人が余生を送るのが良かろうということになり、そういう遺言書を書きました。
私と妻の連名にして、自筆の署名と日付も書き入れました。
ところが、知人にこのことを話すと、「遺言書は連名では認められない。無効になってしまうよ」と言われたのです。
そこで伺いたいのですが、私と妻が2人で話し合って、2人の署名と日付も入れた遺言書ですが、連名では無効になってしまうのでしょうか?
相談者: 岡山県在住の男性(72才)
1.遺言書の法的要件について
本件では、相談者ご夫婦の一方が死亡した場合に、他方が全財産を老人ホームに寄付し余生を送る目的で「遺言書」を連名で書きたいとのことです。
したがいまして、次にご説明する、「自筆証書遺言」について、お聞きになりたいようですので、「自筆証書遺言」について、主としてお答えします。
(1)遺言の種類
そもそも、遺言には、民法上、
 1.)自筆証書遺言(遺言者が遺言書の全文、目付、氏名を自書し、押印することにより成立する遺言)
 2.)公正証書遺言(公証人の作成する公正証書によりする遺言)
 3.)秘密証書遺言(遺言者が証書に署名・押印して封印し、公証人・証人2名以上の前に提出して、公正証書で公証する遺言であり、遺言を秘密に保管するための遺言)
があります。この他にも、緊急の場合に特別に認められる危急時遺言等もありますが、一般に遺言といえば、上記の3種類をさします。
(2)遺言の要式性
遺言は、遺言者が亡くなった後に効力が問題となることから、遺言者に真意を確認するすべがなく、偽造・変造の危険もあることから、作成においては、極めて厳格な要式が必要とされています。
(3)「自筆証書遺言」の法的要件
特に、「自筆証書遺言」は、公証人等第三者の関与がなく、秘密裏に作成され、かつ、保管されることが多いことから、かなり、厳格な要件が定められています。
すなわち、
 1.)遺書者が遺言の日付、署名を含む、全文を自書すること
 2.)遺言者が押印すること
 3.)訂正に当たっては、遺言者がその場所を指定し、変更した旨附記し、かつ、その変更の場所に押印する必要があるとされています。
 4.)なお、公正証書遺言以外は、遺言者が死亡後、家庭裁判所における検認手続が必要となりますので、無断で開封することはできませんので注意が必要です。
2 本件について
本件については、ご夫婦で遺言書を連名で下記、署名・押印をしておられるとのことです。
そうしますと、「自筆証書遺言」の揚合、全文を自書するとの要件に反することになり、無効となります。民法においても、遺言は2人以上のものが同一の証書ですることができないと明記されています(民法975条)。
したがって、ご夫婦であっても、別々の書面に各人が全文、署名、押印をする必要がありますので、ご注意ください。
なお、保管に当たっては、ご夫婦別々の2通の遺言書を一緒に保管しておいても法的効力に問題はありませんが.偽造・変造の危険を避けるためにも、別々に封印・保管する方がよいと思われます(大阪弁護士会でも遺言センターを設けて、法律相談や遺言書の保管をおこなっていますので、一度ご相談いただければと思います。)。
このような手続が煩わしいと思う方には、要式性がさほど問題とならない上、家庭裁判所の検認手続の要らない「公正証書遺言」をおすすめします。
ちなみに、本件では、どのような内容の遺言を書かれたか不明ですが、内容についても、あいまいな表現ですと、かえって後日の紛争の元となります。したがって、遺言の内容を法律の専門家に見てもらったり、書きたい内容を専門家に相談されることをおすすめします。
出典: 土曜日の人生相談(2001年5月12日放送分)
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