内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 嫡出子・親子関係 】

夫以外の男性の子供を妊娠した場合の法律関係
出生届についてお聞きします。
私は前夫と2年前に別れました。現在は別の男性と結婚するつもりで、すでに一緒に暮らしています。もっとも前夫が離婚に同意していないので、離婚届は出せずにおり、同居している男性とも正式に結婚できずにいる状態です。
ところが、最近、私はその男性との子供を妊娠しました。私たちがこのままの状態で子供を出産した場合、このお腹の子供の出生届は誰の子供として届け出れば良いのでしょう?
また正式な父親の子供とするためにはどのような手続きをすれば良いのでしょう?
相談者: 京都府在住の女性(30才)
1.設問の法律関係について
ご質問では、相談者は2年前に前夫と別れて、別の男性と同居しているが、離婚届が出せない状態であるとのことです。
そうしますと、法律上は、一旦は婚姻関係に入った以上、協議離婚の届をするか、調停離婚で離婚の合意をするか、裁判上の離婚が確定しない限り、現在も、相談者は前夫(以下、夫といいます)と婚姻関係にあることになります。したがって、現在の同居中の男性とは単なる内縁関係に過ぎないということになります。
2.婚姻中の妻が子を出生する場合の問題について
民法は、婚姻中の夫婦間に子供ができた場合、子供は夫の子供(すなわち、嫡出子)と推定する扱いをしています。
したがって、通常は、自分の子でない以上、子供の出生を知った夫だけが、出生を知ってから1年以内に限り、その子供が自分の子供でない旨の裁判(嫡出否認の訴え・審判)をする必要があります。
この裁判をしない限り、子供は嫡出子たる地位を奪われないこととなっています。
ところが、法的には婚姻関係があることとされている場合であっても、妻が夫によって懐胎することが不可能な場合(長期間の別居、海外滞在中、在監中等)にまで、夫の嫡出子とされるのはあまりに相当ではありません。
そこで、かかる場合には、判例上、「推定の及ばない子」として、嫡出否認の裁判によらなくとも、誰でも、いつでも、親子関係不存在確認の裁判(訴え又は審判)によることができるとされています。したがって、出生した子が夫の子でないことは右裁判でも主張立証することができることになります。
ただ、出生した子が本当は誰の子かという実体法上・訴訟法上の問題と戸籍の届出とは別の問題です。
3.戸籍実務の取り扱いについて
そこで、本設問の場合、子供が出生した場合に、どのような届出が可能かを検討する必要があります。
前記の通り、判例上、本設問の子供は、「推定の及ばない子」であることから、出生届において、夫の子ではなく、同居中の男性の子として出生届ができるかが問題となります。
この点について、戸籍実務は、別居中とはいえ、法律上婚姻中の妻が子供を生んだ場合、婚姻中の夫の子としての届出しか認めていません。というのは、役所の窓口では、妻と夫が別居中であるかどうか、夫によってその子が懐胎することが不可能かどうかまで具体的な審査ができないからです。
したがって、実際の取り扱いとしては、母が婚姻中の夫の子として出生届を出さない限り、窓口では受理をしないというのが現状です。
そこで、一旦、夫婦の子として届出をした上で(したがって、氏も夫の氏を名乗ることになります)、夫が嫡出否認の裁判をしない場合には、母あるいは本当の父から、夫と子の親子関係が不存在である旨の裁判を起こし、判決をとった上で、戸籍を訂正する必要があります。
4.本件の手続
本件の場合には、夫が嫡出否認の裁判をすることは期待できません。そこで、親子関係不存在の裁判において、2年前から、別居状態で、夫婦関係が断絶して久しいことを立証する必要がありますが、この点の立証は容易でしょう。
したがって、裁判上、この点を立証して、母あるいは本当の父から、親子関係不存在確認の裁判で子と夫との親子関係がないことの確認をうけて、子の嫡出子たる地位を喪失させ、次に、本当の父親から認知をすることになります。
ただ、新たに、母と子(あるいは本当の父を含めて)の戸籍を編纂するためには、法律上、前夫と正式に離婚する必要がありますので、いずれにしても、夫に対して協議・調停・裁判にて離婚を求めていくほかありません。
ところで、余談になりますが、本件では、夫と正式に離婚していないにもかかわらず、他の男性と同居し、子供を懐胎出産した点で、妻の不貞行為と扱われ、有責配偶者からの離婚請求の可否が問題となる可能性もありますので、ご注意ください。
法律は、婚姻関係がある以上、まず、婚姻関係を終了させ、その上で、他の男性との間で子供が生まれる場合しか想定していません。本設問のように、前夫と婚姻関係が継続している以上(どのような経緯で別居に至ったかはともかくとして)、このようなイレギュラーな処理になることはやむをえません。
出典: 土曜日の人生相談(2001年1月27日放送分)
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