内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 離婚 】

夫がギャンブルで多額の借財を作った場合離婚できますか?
夫のことでご相談させていただきます。
夫はマージャンが好きで、週に一度は仲間と集まって卓を囲んでいます。私と結婚する前からの趣味で、これまで特にそれで困ったことはありませんでした。
ところが先月、そのマージャン仲間のひとりが、電話でこっそり私に教えてくれたのですが、夫は近ごろ勝負に負け続けで、仲間内にかなりの借金をしているそうなのです。驚いて、その晩すぐ夫に問いただしましたが「たいしたことはない」と言い張るばかりでした。
しかも後日、別のマージャン仲間という男の人が、夫の留守中に我が家を訪ねてきて「貸した金を一部だけでも返して欲しい」と言うのです。借金額を聞くと、100万円近くあるというので愕然としました。その日はとりあえず手持ちの10万円を現金で渡して帰ってもらいましたが、夫が帰ってきてから、この話をすると「俺が稼いだ給料を勝手に使うとは何事か」と怒って預金通帳と印鑑を持ち出してしまったのです。
自分勝手な夫に愛想が尽きそうです。このような理由で果たして離婚が出来るでしょうか?
相談者: 兵庫県にお住まいの45才の女性
ご相談の内容を読ませていただくと、奥様がご主人との離婚を考えている理由は、ご主人が賭麻雀で多額の借金を抱え、それを奥様に内緒にしていたこと、奥様が善意で借金の一部を返済したことを「俺が稼いだ給料を勝手に使った」と咎めたこと、そして、預金通帳と印鑑を持ち出してしまったことに集約され、これらのご主人の自己中心的な態度に愛想が尽きたということになると思います。
ところで、離婚するには、大きく分けて協議離婚と裁判離婚があります。協議離婚とは、お互いが離婚に合意して納得の上で行うものですから、理由は問いません。従って、ご主人と話し合いの上で合意に達しさえすれば、ご相談のような理由でも離婚はできます。
この場合には、当事者間で離婚届を作成して市町村役場に届ければよいのです。
しかし、ご主人が奥様との離婚に合意しない場合には、裁判手続を踏む必要がでてきます。ところで、法律では、裁判上離婚する場合には、いきなり訴訟に持ち込むのではなく、調停前置主義といって、まず家庭裁判所での調停手続を行うことを必要としています。この調停手続は、裁判所が第三者的な立場に立って、お互いの言い分を聞き、双方で合意ができるように話し合いを行う手続です。従って、調停は、あくまでもお互いの合意を裁判所の助けを借りて作っていく手続ですから、当事者間で離婚についての合意ができれば、その理由については、特に決まりはありません。従って、調停での話し合いができれば、ご相談のような内容でも離婚は可能です。しかし、逆に調停は、訴訟と違い、裁判所が判決を下すような形で強制的に判断を示すものではありません。従って、当事者の一方が調停に応じなければ、残念ながら調停は不成立になります。
そこで、協議離婚もだめ、調停でも話し合いがつかなかった場合には、同じく家庭裁判所で離婚訴訟をするほかありません。
しかし、離婚訴訟で離婚するためには、民法は、次の5つの裁判上の離婚原因を定めています(民法770条1項)。
1.配偶者に不貞行為があったとき(浮気)
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき(理由なく同居を拒絶し、扶養しないこと)
3.配偶者の生死が3年以上明らかではないとき
4.配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき
5.その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき(1ないし4に準ずるもの。例えば、ひどい暴力、著しい怠惰や浪費癖等)
つまり、法律はこの5つの原因以外での裁判での離婚を認めていないのです(世間でよく言われる「性格の不一致」というものは、裁判上の離婚原因にはならないのです)。
ところで、ご相談の内容は、麻雀での多額の借財と自己中心的な生活態度、そして、通帳や印鑑を持ち出したということですから、これだけでは右の5つの要件のどれかに該当すると考えるのは困難でしょう。しかし、生計を破綻させるような借財を麻雀でこしらえ、生計を全く省みないような場合には、「婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたると判断される場合も出てくるかもしれません(生活レベルと借財の多寡により判断は異なるでしょうが)。
従って、ご相談の内容だけでは、裁判上の離婚原因があるとは言い切れません。
そこで、奥様の場合には、あくまでも離婚訴訟に至るまでに当事者間で協議を重ね、さらには調停の場で話し合いの機会を持ち、離婚についての合意を形成していく方向で考えてはいかがでしょうか。
また、調停では、離婚にこだわらず、柔軟な解決が可能です。仮に離婚を求めて調停をおこしても、その中でご主人の生活態度の改善を求め、それを調停の場で約束させた上で、婚姻関係を継続していくといった方法も考えられます。
出典: 土曜日の人生相談(1998年11月28日放送分)
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