内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 被害者側の過失 】

善意でした品物の運搬中に事故。損害賠償の責任は?
品物の弁償についてお聞きします。
私は陶芸が趣味で、陶芸仲間や画廊の知人が数多くいます。
先日、私の知人が、私の紹介した画廊から、有名な陶芸作家の作った陶器を購入することになりました。本人が忙しく品物を受け取りに行くことが出来ないというので、私が買って出て、自分で車を運転して品物を届けてあげることになったのです。
ところが、その道中、私は追突事故を起こし、そのショックで高価な陶器が割れてしまいました。金額にして数十万円の品物が壊れてしまったのです。
そこでうかがいたいのですが、こういう場合、私には商品の弁償をしなければならない義務があるのでしょうか。なお、追突事故については、私と相手の責任の度合いは3対7で、相手が悪いということです。
相談者: 大阪府在住の女性(52才)
1.今回、高価な陶器が割れる原因になった追突事故について、事故の相手方に7の割合で責任があるとはいえ、あなたにも3の割合で責任があるとのことですから、これは法律的にいうと、あなたと事故の相手方とが共同して、人の高価な陶器を壊してしまい、損害を与えてしまった「共同不法行為」であるということになります。
つまり、あなたと事故の相手方が共同の加害者、陶器の持ち主が被害者であるということになるわけです。
2.民法には、この共同不法行為の場合、数人の加害者は連帯して損害賠償責任を負わなければならないと定められています。この「連帯して責任を負う」とは、あなたと事故の相手方の両方が、各自の責任の割合に関係なく、被害者(陶器の持ち主)との関係では、全責任を負わなければならないということを意味します。
つまり、あなたは、陶器の持ち主から「この陶器の価格分の金銭を支払って下さい」という損害賠償請求をされれば、これを全額支払う必要があるのです。「私には3の割合の責任しかありませんから、陶器の価格の3割分しか支払いません」という反論は、陶器の持ち主に対してはできないのです。
3.ただ、今回あなたがこの陶器を運んだのは、あなたの好意によるものです。陶器の持ち主の方も、タダであなたに運んでもらうことにしたわけです。このような場合、お互いに損害を公平に分担しましょうという意味で、裁判では損害賠償額が幾らか減額されるのが一般です。
ですから、陶器の持ち主から、陶器価格全額分の支払いを請求されたとしても、最終的にはそれよりも幾らか減額された額を支払えば済むことになると思われます。どの程度減額されるかは、事案によって異なりますが、せいぜい1割から2割程度というところでしょう。
4.仮に、あなたが陶器の持ち主に対し、損害の全額を支払った場合には、事故の相手方に対し、あなたにその10分の7の額について支払うよう請求することができます。これを法律上は「求償(きゅうしょう)」といいます。
あなたが全責任を負わなければならないのは、あくまでも被害者(陶器の持ち主)との関係のことであり、共同加害者との間では話は別です。共同加害者間では、それぞれの責任の割合ずつ、損害を公平に分担せねばならないのです。
民法は、まずは被害者に損害賠償を全部支払ってあげた上で、加害者間の分担の話は、加害者間でやって下さいということにして、被害者の保護を図っているというわけです。
5.以上から、大体のところで計算してみますと、あなたが最終的に負担すべき損害額は、陶器価格の2〜3割程度というところになるのではないかと思われます。
出典: 土曜日の人生相談(2000年12月9日放送分)
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