内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 婚姻 】

知らない間に婚姻届。これってどうしたらいいの?
結婚届の無効の申請についてお聞きします。
私は先日勤め先の同僚の男性と恋愛の末結婚しました。結婚式を無事に挙げ、新婚旅行から帰ってきて、あらためて入籍に市役所に行ったのですが、大変なことになったのです。
なんと私は既に結婚したという届けが出されており、重婚は許されないために、結婚届を受理してもらえなかったのです。
調べてみると私の結婚相手は、私が学生時代に付き合っていた男性になっていました。当時は、彼があまりに嫉妬深いのにうんざりして別れたのですが、どうやらその昔の彼氏が、私に嫌がらせをしようとして、偽物の婚姻届を作成して、自分と私が結婚したように届けたらしいのです。その彼に連絡をしようとしたのですが、行方不明になっており、連絡が取れません。
そこで伺いたいのですが、この結婚を無効にして本当の相手との結婚届を出せるようにするには、どのようにすればよいのでしょうか?
相談者: 家事手伝いの女性(25才)
1.問題の所在
偽物の婚姻届による戸籍上の「結婚している」との記載を訂正するには、どのような方法があるのか、問題です。
2.裁判の必要
この点については複数の方法による解決が考えられますが、今回のような偽物の婚姻届が出されていたような場合は、次のような方法によることが多いようです。つまり、その当時、相談者は昔の彼氏と結婚する意思がなかったのですから、その結婚は本来無効です。よって、裁判所の判決により、偽物の婚姻届提出による結婚自体の無効を確認してもらった上で、戸籍の訂正を請求するのです。
(1)調停と裁判
それでは、結婚の無効を裁判所に確認してもらうためには、どうすればよいのでしょうか。
この点、結婚の無効を地方裁判所に確認してもらうための訴えを起こす前に、家庭裁判所で調停を経なければなりません。このような調停は、訴訟を起こす前に、公平な立場で話を聞く調停委員の前でお互いの意見を言って、お互いの意見を調整し、できれば訴訟を避けようという趣旨で開かれるものです。ただ、今回のケースのように、相手方が行方不明になって連絡が取れず、調停での話し合いが不可能なことが明らかな場合には、調停を開くことができません。従って、この場合は、直接相談者が住んでいる地の家庭裁判所に「婚姻の無効確認の訴え」を起こす(人事訴訟法2条)ことになります。
(2)役所への届出が必要
こうやって、ようやく裁判所によって、前の結婚の無効が確認されても、自動的に戸籍上の結婚の記載が消されるわけではありません。
相談者は、結婚の無効確認の判決が確定してから1ヶ月以内に、自分で判決の謄本を添付して、無効な結婚の記載の抹消を申請しなければなりません。
3.結論
以上のような裁判と届出によって、戸籍上の「昔の彼氏と結婚した」という記載を抹消すれば、本当の結婚相手との婚姻届を拒否されることなく、めでたく受理されることになります。
4.不受理届について
しかし、今回はめでたく「昔の彼氏と結婚している」との記載を訂正できたとしても、相手によっては再び偽物の婚姻届を提出しようとするかも知れません。このような届出を防止するための制度として、婚姻届や離婚届などの不受理申し立ての制度があります。
(1)それぞれの市区町村には、「不受理申立書」が置かれています。この申立書の指示に従って、申し立てようとする人の氏名や住所、本籍、相手方、申出理由などを書き込んだ上で、申し立てようとする人の本籍地の市区町村役所に提出し、受け付けられれば、その後の婚姻届などは受理されないことになります。
申立人が本籍地から遠方に住んでいるような場合、本籍地以外の役所に申立書を提出しても、ちゃんと本籍地の役所に申立書が送られます。また、申立書を役所に対して郵送することも認められています。
そして、このような不受理申立は、無料ですることができます。
(2)ただ、不受理申出の効果は申立書の受付から6か月間までしか認められていないので、6か月を越えてもまだ偽物の婚姻届が提出されるかもしれないような場合は、また改めて不受理申出書を提出しなければなりません。
また、途中で不受理申立が必要なくなった場合には、「不受理申立書」と同じ要領で、「不受理取下書」を提出することになります。
5.相手方の責任
相手方は、刑法上の「有印私文書偽造罪」、「公正証書原本等不実記載罪」などで3か月以上5年以下の懲役に処せられますし、相談者からの民事上の損害賠償責任も負担しなければなりません。
出典: 土曜日の人生相談(2000年11月18日放送分)
戻る