内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 遺言 】

録音テープで遺言はできる?
遺言の有効性についてお聞きします。
私の夫は76才で、先日くも膜下出血で倒れ、緊急入院して手術をしました。幸い命はとりとめ、現在入院中ですが、ほとんど眠ったままの状態で、ごくたまに意識が戻っても、込み入った話はしづらい状況です。
万が一に備えて、夫が死んだ後の財産分与などを話し合っておきたいと考え、遺言を残してもらおうと、病室にテープレコーダーを持ち込んだのでずが、知人から「テープは遺言としては認められない」と教えられ、悩んでいます。
体がいうことをきかない主人は、自筆で遺言を残すのは無理ですし、急に体調が悪化することもあるらしく非常に心配です。
このように本人が自筆で遺言を書けない場合は、どのようにして遺言を残せばいいのでしょうか。
相談者: 京都府に住む女性(67才)
1.遺言の方式
遺言(法律の世界では「ユイゴン」ではなく「イゴン」と呼びならわしています)は、遺言者の最終の意思表示であるとともに、遺言者が死亡して初めて効力が生じるものですから、それが本当の遺言者の意思なのかどうか、死後にトラブルが生じた場合、本人に確かめることができません。
そのため、民法は遺言の方式を厳格に定め、偽造や変造を防いで、本人の真実の意思を確保することとしています。したがって、民法に定められた方式以外の方式でなされた遺言は、法律上、無効です。
民法は、遺言の方式について、次の7つの型を定めています。
(1)普通の方式
(1)自筆証書遺言…遺言者が全部自筆で書くもの
(2)秘密証書遺言…遺言の内容は自筆でもタイプ(ワープロ)でもよいが、遺言者の署名押印がいる。2人以上の証人の立会のもと、公証人に証明してもらうもの
(3)公正証書遺言…遺言者が口頭で公証人に口述して作成してもらう。2人以上の証人の立会がいる。
(2)特別の方式
(1)一般危急時遺言(臨終遺言)
…3人以上の証人の立会で、遺言者が遺言の内容を口授し、筆記してもらって、読み聞かせて内容確認してから、証人が署名押印し、作成の日から20日以内に家庭裁判所で確認の審判をもらわないといけない。また、このあと遺言者が生存して臨終状態を脱したあと6ヵ月生存すると、効力がなくなる。
(2)伝染病隔離者の遺言
(3)船舶内の遺言
(4)船舶遭難者の遺言
これらの説明は省略します。
以上7つの方式のいずれかに当てはまらないものは、遺言書としては無効です。
あなたの知人が「テープは遺言としては認められない」とおっしゃったのは正しく、上の7つのどれにも録音テープは認められていないからです。
2.本件の場合に適切な遺言の方式
ご主人の場合、自筆でかけないということで、おそらく自分の名前(署名)を書くこともハンコを押すことも無理でしょうから、「自筆証書遺言」だけでなく「秘密証書遺言」もできないでしょう。
「急に体調が悪化することもあるらしく非常に心配」ということですので、特別の方式である「臨終遺言」ができそうですが、3人の証人が必要なことや、作成から20日以内に家庭裁判所で確認の審判をもらわないといけないことや、生命の危険が去って6ヵ月以上生存するとこの遺言の効力はなくなってしまいますので、死が切迫していない限り、あまりお勧めできません。
そこで、あなたのご主人の場合には「公正証書遺言」が最も適切です。普通は、遺言者が証人2人とともに公証人役場へ出向いて行って遺言者が内容を公証人に口授し、遺言者が署名押印するのですが、ご主人のように入院中の場合には、公証人に病院へ出張してもらって、そこで遺言者が口頭で言えばよく、また自分で署名押印できない場合には公証人がその理由を書いて署名押印に代えますので心配いりません。
それだけでなく、「公正証書遺言」は国家機関である公証人が作成しますので、トラブルを招く可能性が少なく、原本が公証人役場に保存されますので遺言書の紛失や偽造・変造が防げますし、遺言者が死亡後に家庭裁判所で遺言の内容を確認してもらう手続(検認)もいりません。
字の書けないご主人にとって、まさにうってつけの遺言でしょう。
出典: 土曜日の人生相談(2000年9月30日放送分)
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